「どうせ叶わぬ恋ならば」
情景描写の練習として色々試してみた回。
風が強く吹くたびに、彼女の髪が肩をかすめ、その黒が月明かりを受けて淡く輝いた。粉雪が風に乗って舞い、彼女の頬に触れては消えていく。遠くの街の灯りは霞んで、ここには冬の冷たい匂いが腐葉土の匂いと共に香っていた。静かすぎて、鼓動が彼女まで届いてしまいそうだった。
「あそこ見えるよ!」
彼女は雲の途切れを指さしていた。あれ! あれ! と楽しく騒ぐ彼女の指先は、叢雲越しの月光を拾って、かすかに震えている。青く光る星が一つだけその雲の狭間から見えた。雪降る夜に天体観測。彼女と同じ星を見ることが出来る曇り空は、快晴の中無数の星を眺めるよりも、彼女と楽しみを共有できているようでうれしかった。
彼女の横顔を見ていると、胸の奥が焼けるように辛くなった。それでも笑っていた。こんな想いを、気づかれたくなかったから。
彼女が好きなのは、別の男だ。もう彼女の視線が自分に向くことはないと、さえ思ってしまっていた。その長い人生において、彼女がただその男だけを好きでいる可能性の方が低いとしても、いつか降りやむ、と自分に言い聞かせて耐えられるほど、この雨は優しくはなかった。
その男の話をするとき、彼女の声はいつも少し柔らかくなる。その声色を聞くたびに、もう自分には入り込めない世界があるのだとわからされた。それでも、彼女が楽しそうに話すその彼の話を聞いていた。聞いているふりをして、彼女の楽しそうな声だけを追っていた。
それほどまでに彼女の前では嫌な奴にはなりたくなかった。
女友達なら、きっといつまでも彼女の隣にいられるのかな、なんてそんな考えが胸の奥で渦巻いた。
「……あ、流れ星!」
彼女の声が弾んだ。見上げると夜空を二筋の光が雲を通してわかるほどに青々と輝いて、雲を染め上げながら彼方へと飛んでいく。
心の中で願いを三度唱えた。願いながら、僕なんかじゃ不相応だろうなと自信を無くしていった。
流星の残光が瞼の裏に焼きついて、しばらく消えなかった。過ぎ去った流星に、彼女に不幸が訪れないように、ただそう願った。
冷たい風が、肌の表面から内側へと染み込んでいく。まるで体の境界が少しずつ溶けて、彼女の笑い声と混ざっていくような感覚があった。
「彼女の隣に入れるように」と心の中で願ったものが叶えられて、主人公は彼女の女友達となる。世界自体が初めからそうであったように改変される。主人公の性別が男→女。




