「独り善がり」
「」を使わないで書いてみた回。
もう着くよ。ナギサが振り返りざまにそう言ってからすぐに視界が開けた。そこには灯りの点いた小さなプレハブの建物とベンチがあった。神社の拝殿から逸れた雑木林の獣道を登った果てに、こんな場所があるとは思ってもみなかった。
見渡す限りの夜空を埋め尽くすように、星々が鮮やかにまたたいていた。空はどこまでも澄み渡り、山の稜線が黒々とした影となって夜空を縁取っている。気持ちの良い風が頬を撫でる。先ほどまで体にまとわりついていた湿気を孕んだ暑苦しい空気は、ここでは嘘のように薄れていた。瞬きする間にも、星の輝きが移ろうように感じられ、見上げるほどに体が吸い込まれていくようだった。
幼馴染と田舎町で再会する。この言葉から思い浮かぶのは、大学なり仕事なり演劇なり……まぁ理由はなんでも良いのだが、何らかの事情で片方もしくは両方が都会へ出ていて、帰省した際に田舎で再会する場面だろう。だが、私とナギサはその逆だ。いや、逆という言い方も正しくない。私もナギサも帰省しているわけではないのだから。
私はナギサに会いに田舎町に来ていた。私にとっては縁もゆかりもないただの田舎、ナギサがいるというだけの田舎町。
ナギサは高校を卒業すると、行かなくてはならない場所があると言って、ぜーんぶほっぽって田舎へと移っていった。今、こうして生活できているのだから、実家の両親とは和解して仕送りを受けているのだろう。
それでも出ていくときは、行ったもん勝ちだと言わんばかりに飛び出していった。その後のナギサの母親と周りの人間がまるで殺人事件でも起きたのかというほどに仰々しく騒ぎ立てるその姿が滑稽で、見ているだけで恥ずかしくなったものだ。
その出立を素知らぬふりして見逃した私も私だが、出ていくことに気が付かない親も親だろう。
さて、私が今何をしているかというと、ナギサと、しゃべる狐と並んで、雑貨屋の前のベンチで氷菓子を食べている。……そう、しゃべる狐だ。この場所に雑貨屋があること自体おかしいのに、さらにその店主を名乗る狐が、器用に前足で持ち上げて人間の様に氷菓子をかじっている。誰がこんな獣道を辿って買い物に来るのか。
店主と言っても、無人の店で勝手に商売しているんじゃないのか? と揶揄うと、勝手だろうとなんだろうと、仕切っているなら店主だろうと言い返されて、勝負あり、とナギサに笑われたところだ。
話す狐など奇想天外だが、夜空の下でナギサと肩を並べて語り合うその姿は、私よりもナギサを理解しているように見えた。その事実が、どうにも気に食わなかった。
・心の奥底では、自分は奇行に走るナギサの唯一の理解者であり、友として関わってやっているのだ、と優越感を抱いていた。しかし、妖怪の世界の存在を前にすると、ナギサの言動には説明がついてしまう。そこでシュンは、ナギサをその田舎から引き離そうとする。




