「葉陰」
大学入って初課題。初めて他人に合評されるってなって超緊張した回。
五感大事にできるだけいつも通り書いた。
シュッ、シュッと、スリッパの擦れる音がした。
すぐ近くを歩く気配があり、まぶたの裏に薄く光が射していた。ブーンと低くうなる扇風機の音に混じって、室内を湿った風がゆるく流れていた。
火照った頬にひやりと風が触れた。少しだけ心地よくて、けれども寝汗のにじんだ背中には、それも煩わしく思えた。机に預けた腕と肌がぺたりとくっついていて、じんわり汗ばんでいた。風に揺られて髪がふわりと浮いて腕に触れ、くすぐったさに耐えきれず、うっすらと目を開けた。
「……起きたー?」
視界の端に、カオリの姿が見えた。ぼさぼさの髪、サイズの合わないTシャツの肩が落ちていて、片手で口元を隠しながら、長いあくびを噛み殺しているところだった。
彼女は窓の鍵に手をかけ、のろのろとした動作で外の空気を招き入れる。どこか葉の匂いが混じった風が、重たい空気の膜を切り裂くように入ってきた。
窓の向こうでは、森の緑が、今日も憎たらしいほど青々としていた。まるで何もかもが平和で、予定通りに進んでいる顔をしている。
今日の予定を考えて、僕は朝からすでに辟易とした気持ちになっていた。
「……眩しい。閉めて」
「寝るなら、ちゃんと布団で寝なー」
「……わかったから閉めて」
「別に私が開けたわけじゃないわよ。あなたが昨日の夜からカーテンを開けっ放しにしていたんでしょ? それにもう朝だから閉めないよ」
「……意地悪」
彼女は扇風機のコードを手繰りながら、僕がお菓子を隠している引き出しの中をのぞいていた。
中からガムの箱を取り出して、一枚口に放る。
「……それ、僕の」
僕がそのように言ったのに、彼女はなんでもないように、包み紙を軽く丸めて、ゴミ箱へ投げた。
外れた。
紙はフローリングの上で一度だけ跳ねて、転がり床に落ち着いた。少々蒸しっぽい空気の中で、その甘い匂いがふっと立ち上った気がした。
ふと彼女の視線が、僕の頭の上を通り過ぎた。
「完成したの?」
彼女は、片足のかかとを浮かせて壁にもたれた姿勢のまま、僕のすぐ上にあるキャンバスを見やってそう尋ねてきた。
「うん」
「何か食べる?」
「……食べない。寝る」
僕がそのように返すと、彼女は「そう」とだけ短く返してきた。
「私、今日、出掛けるんだからね。今夜の主役はあなたなのだから、寝過ごさないでよ」
「じゃあ、起こしに帰って来てよ」
「いやよ。面倒くさい。それなら、あなたが私に付いてきなさいよ」
「いやだ。めんどくさい。外に出たくない」
・夕方の個展に遅刻気味に出席する。
・そこでカオリではない女性と出会って、複雑な関係が始まる。




