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鈴咲 涼姫のドッグファイト講座!

作者: 毘沙門 子子
掲載日:2025/10/22

前半の茶番が要らない。解説のみ読みたいという方は「1:ドッグファイトの基本の形」まで飛んで下さい。


 こちらは、「フェイテルリンク・レジェンディア ~訓練場に籠もって出てきたら、最強になっていた。バトルでも日常でも無双します~」https://ncode.syosetu.com/n0664js/に予定しているドッグファイトの解説回を短編用に再編集した物です。


 ちなみに本編はSFです。主人公はロボット兵器がある中で戦闘機に乗って無双します。




■登場人物紹介


 ・スウ(本名:鈴咲 涼姫):フェイテルリンク・レジェンディアの主人公。コミュ障の陰キャのボッチだけれど、3倍の速度で時間が流れるVR訓練場に籠もり、クリア不能と言われる超難易度クエスト〝〈発狂〉デスロードに〟、実質9年打ち込んだ事で、遂にクリア。訓練場から出てくる。

 すると本人も気づかない内に逸般人な戦闘機パイロットになっており、無双しまくった結果、一式 アリスや、リッカと友達になれた。

 頭のおかしな思考や言動、行動で周りをドン引きさせたり、笑わせたり、庇護欲をそそらせたりの百面相な精神模様。


 ・一式 アリス(本名:八街 アリス):イギリス生まれ日本育ちで、日本文化大好きっ子。モデルに女優、声優などなど、なんでも出来るスーパーウーマン。得意なのは剣道で、本編中の夏には、インターハイで優勝している。

 飄々とした性格で、スウが大好きで尊敬している。

 この前、スウの唇を強引に美味しくいただいた所。


 ・リッカ(本名:立花みずき):コンパクトな体型のチビっ子少女。ただし見た目は凄まじい美人。剣道では八街 アリスのライバルで、初対戦時には、その剣の腕で八街 アリスを恐怖させた。武家の娘であり、本編中では脅威の剣術を、度々披露している。

 インターハイでアリスに負け2位に甘んじたが、その剣の冴えは相変わらずの模様。


 ・マイルズ(本名:マイルズ・ユーモア):アメリカ軍のUSSF(合衆国宇宙軍)の宇宙飛行士兼パイロット。本編内で涼姫と互角に近い戦闘機による空中格闘戦を持つと噂される。

 イケ面。ぶっきらぼうでそっけない性格だが、根は優しい。

 頭は切れるが、運動は苦手(軍人比)




   ◆◇◆◇◆


 私、鈴咲涼姫はプラモデルに囲まれたワンルームで配信をしていた。

 配信内容は、今期のアニメの同時視。


 うーん。やっぱり、カイザー様はイケメン。

 あの柔らかな低音ボイスで、耳元で、「お前は俺の物だろう」って囁いて欲しい。


 私が乙女の夢に浸っていると、1つのコメントが流れた。

 コメントを呼んで返事する。


「ジョ、ジョッグファイト講座ですか?」


 おっとヨダレが。

 近くの収納からティッシュを取ってふきふき。


「ドッグファイト講座ですか?」


❝うんうん、して欲しい! スウの空中戦を見てたら興味出ちゃって! このアニメも、今、ドッグ・ファイトしてたよね!❞


 私は配信で、よく戦闘機の空中格闘戦(ドッグファイト)をするんだよね。


「なるほど。・・・・いいですけれど、ちょっとお時間いただけますか? 何を教えれば良いのか、講座内容考えないとなんで」


❝もちろん! やった!❞


 というわけで、私は講座を開催する事にあいなった。




 会場はVR訓練施設にしよう。あそこなら事故ってもケガとかしない。

 というわけで銀河の果ての惑星へ、この基地で予約を入れようと来た。

 受付に行くと、受付の女性下士官さんが、ネイルをしていた。

 相変わらずだな、この人。

 前に、補給をした時に対応してくれた下士官さんだ。


「あの、VR訓練施設を講座用に借りたいんですが」

「ウィース、ドゾー」


 ネイルをしていた下士官さんが、完成したネイルを天井のライトにかざして、納得したように頷いた。

 そして、指の間に見えた顔を確認して、目を見開いた。

 除々に彼女が震えだす。


「〝ザ・ワン〟のスウ様!!」


 立ち上がり、敬礼された。

 私は別に、彼女の上官でも何でもないんだけれど。

 なんか怖がられてる。

 まあ、〝ザ・ワン〟はボスのソロ討伐者の称号だしなぁ。

 ちなみに私はコミュ障だ、人と喋るのが苦手だ。

 という訳でドモる。ども、陰に潜む系のキャラの鈴咲です。


「は、はい」

「日程と時間は、どの様になさいますか!!」

「え、えっと、じゃあ、1週間後で。地球時間の18時でお願いします」

「承知致しました! 当該日時は、第一VR訓練場を、スウ様の貸し切りに致します! あとの処理はお任せください!!」


 女性下士官さんに、背中に杭でも打ち込まれたかのような敬礼をされてる。


「よ、よろしくお願いします」


 私が彼女の緊張をほぐすように微笑むと、


「ヒャ、ヒャイイイ!!」


 なぜか怖がられた・・・。




 という訳で、講座当日。

 VR訓練場に入る。すると廊下で、高身長のモデルと、低身長のちびっ子美少女コンビが目を輝かせて並んでいた。

 ちなみにどっちも美人、エグいほどの美人。

 私とは何か、生物的に違う気がする。


「なんでアリスとリッカがいるの?」


 この二人は、戦闘機のせの字も知らない。

 私達はバーサスフレームっていう巨大メカに乗って戦うんだけど。

 このバーサスフレーム、多くの場合人型形態と、飛行形態を持つメカなんだよね。

 んで私は飛行形態をメインに戦う()()パイロットで、この美少女二人は、人型形態をメインに戦う多数派のパイロット。

 だからドッグファイト講座なんて必要ないのに。


「ドッグファイトに興味がありまして!」

「ドッグファイトに興味ある!」


 アリス、リッカと息巻いてきた。


「スウさんの空中戦を見てたら、興味でますよ!」

「興味も出るってもんだ!」


 ちなみにスウとは、私の世を忍ぶ仮の名。本名は鈴咲 涼姫だけど、配信者名とかでスウって名乗ってる。

 それとリッカは武家の娘で、代々自分の家に伝わる武術、『立花放神捨刀流』の達人な脅威のちびっ子。

 だからなのか、偶に古臭い言葉を使う。

 でも普段はただの悪ガキ。メスガキと言う視聴者もいる。

 学校では、クールな立花さんとか呼ばれてるらしい。ワロス。

 私には甘えてるらしく、メスガキと化す。


「まあ、いいけど。――で、マイルズ」


 もう一人、問題が。

 ちなみに金髪で、目つきの鋭いイケ面。


「うむ、お前の講座だからな、受けておこうかとな」


 なんでだよ。この人、アメリカのUSSFのプロ軍人でパイロットなんだよ。


「今日は基礎的な事しか解説しないよ。マイルズはさんざんやってる事でしょう、釈迦に説法でしょう」

「そうかもな、そうだといいが」

「じゃあちょっと手伝ってもらうからね?」

「ふむ、構わんが?」


 という訳で、受講者含め、みんなでVR世界に入って講座開始。

 私の視界が、海に切り替わった。


 海上に浮かぶ、巨大空母の上だ。

 そこに参加者30人が並んでいる。


 私はラ◯ドルフのタレ目みたいなサングラスと、サクサクコーンとチョコで作られた、コーンパイプを咥える。

 これは、講座を行う時に纏う、私の正装。

 マイルズが呆れたように額に手を当てた。


「じゃあ貴様ら。好きな機体(バーサスフレーム)を選べ! もちろん飛行形態の有る機体だ!」

「サー・イエッサー!!」

「サー・イエッサー!!」

「スゥ・イエッスゥ!!」

「ちなみに私に返事をする時は、前後にサーは付けなくて良い!!」

「スゥ・イエッスゥ!!」

「だから付けなくて良いと言っている!!」


 前に視聴者を集めて講座した時、「返事をする時は前後にサーは付けろ!」と言ったら、散々な眼に遭ったんだよね。

 みんなが機体を選んだのか、空母の上に次々と戦闘機が現れた。


「よし、では各位、自らの機体に搭乗!」

「スゥ・イエッスゥ!!」


 駄目だ、この世には手が届かない物があるようだ。

 

「じゃあ、マイルズと実演するんで、見ててください」


 私はマイルズに講義内容を送信する。


「こんな感じ」


 マイルズが通信を返してくる。

 視界にARでウィンドウが開いた。ウィンドウの向こうに眠そうな鋭い目。


『なるほど、任せろ』


 私達は甲板の安全を確認した後、空に舞い上がった。




   ◆◇◆◇◆




1:ドッグファイトの基本の形


「まず、皆さんに質問です。なぜ戦闘機の空中格闘戦がドッグファイトと呼ばれるか知ってますか?」


 受講者さんたちから返事が返ってくる。


『しってるー!』

『もちー! 飛行機同士の互いの背後を追い合う姿が、まるで犬が尻尾を追い合う喧嘩みたいだから!』


「はい。というわけで、戦闘機の空中格闘戦は、相手の背後の取り合いです」


 私とマイルズが、上空で互いの背後を追い合う。

 すると互いに、空に円を描いた。


「これがドッグファイトの基本の形です。互いに相手の後ろを単純に追い合うと、自然に円を描く事になるのです」

『あー、戦闘機の戦い見てたら、どこがドッグファイト? って思ってたけど、なるほどこれなら確かに犬が尻尾を追い合ってる姿だわ』


 アリスから質問が来る。

 ARにウィンドウが開いた。神様が生まれる前になにかチートでも与えたんじゃないかって言うほど可愛い天使の顔。


『それだと、いつまでも相手の後ろに付けないのでは?』

「いや、この状態だと早い方や旋回力の有る方が、やがて相手の後ろを取ることになるんだよ」

『あー、なるほど』

「ただし速かったり、旋回力が有る方も、もいずれ相手を追い越してしまう」

『確かにです』

「そこで使われるのが、空中戦機動という技。これが出てくると、本来速度が早い飛行機が有利なドッグファイトが、速度の遅い飛行機が有利になるまである。それほど技は重要。――まあ、技っていうか作戦行動なんだけどね」


 マイルズが私の言葉を補足する。


『機動やマニューバとは、作戦行動と言う意味だからな』


 アリスが関心した。


『パイロットさんは、自分で作戦を考えて実行する存在なんですね』

『まさしくその通りだ』


 なので戦闘機パイロットさんは、基本的に頭が良い。

 頭脳労働と肉体労働、どちらも優秀なにこなせる人でないと務まらない。だからトップエリート達なんだ。


『でも、後ろを取り合うなら、機銃を後ろ向きに設置しちゃ駄目なんですか?』


 アリスの質問に、私は答える。


「昔はね、機銃を後ろ向きに撃ったりもしてたんだ。でも今は設置しない」

『なぜですか? おかしくないですか?』

「ミサイルが発達したのもあるけど、後ろ向きに機銃を撃たなくなったのは、戦闘機の速度が速くなったからなんだ」

『速くなったら、なぜ後ろ向きに撃たないんですか??』

「拳銃の弾丸より速い速度で飛んでいる戦闘機が後ろ向きに弾丸を飛ばすと、弾丸の速度が戦闘機の速度で差し引かれる。さらに弾丸の後ろから来る猛烈な空気の抵抗を受けて、弾丸が真っすぐ飛ばない」

『あっ、確かに! ・・・・ちゃんとした理由があるんですね!』

「これはミサイルも同じ。まあ、無理やり後ろに飛ばすミサイルもあるんだけどね。弾丸だとそうも行かない。だからドッグファイトは基本的に、後ろの取り合いになる」

『なるほどです!』

「で、機動だけど。私は、基本の機動は大きく2つに分類できると思ってる」

『ほう』


 マイルズが関心した声を出した。


 私は人差し指を立てる。


「まず、相手の後ろに付いている状態を維持する〝攻撃的機動〟」


 次に中指を立てた。

 ぴーす。

 決して、中指だけを立ててるわけではない。


「そして、相手の攻撃を躱したり、相手に自分を追い抜かせる〝防御的機動〟」


 まあ、


「その他の機動も、沢山あるんだけどね」

『分類、できて無いじゃないか』

「そうとも言う――基礎的な機動は2種類って感じで」




2.エネルギー


「で、機動の前に1つ大事な前提がある。それは、高度と速度のエネルギー」


 ARウィンドウが開いて、リッカが腕を組み「ウム」っと頷いた。


『高度と、速度か』


 リッカは「あれか、知ってるぞ」という顔をしているけど、あの顔をしている時のリッカは、あれを知らない。


「ドッグファイトは、高度という〝位置エネルギー〟と、速度という〝運動エネルギー〟を交換しながら戦うのが大事」

『位置エネルギーと、運動エネルギーか、ウムッ』


 絶対わかってない。

 あのちびっ子、一酸化炭素を知らなくて、ファンタジーな惑星で読んだ本のせいで一酸化炭素の事を「『樹属性』が反転したときに生まれる『恐怖属性』と、『力属性』が融合したときに発生する毒」とか思ってる位だから。


「位置エネルギーと運動エネルギーの合計が優勢な〝エネルギー優勢〟になると、色々お得なんですが。互いの戦闘機の速度にあまりの差が付くと、高高度からの急降下攻撃――〝ダイブ&ズーム〟というフィニッシュブロウが炸裂します。こうなると、遅い方は、基本的にもう勝てません」


 まぁ、私はダイブ&ズームを破った事があるけど、ああいうのは、特殊な条件あっての話。

 リッカが尋ねてくる。


『なんでだ?』

「飛行機は、上空からの攻撃に本当に弱いんだよ」

『なんでだ?』

「格好の的なんだよね」

『なんでだ?』

「遊んでる? 後でほっぺプニプニするよ?」

『ごめんなさい』

「よろしい。ほら、飛行機を上から見た姿って面積が広いでしょ? だから上から攻撃を当てやすい。それに下に機銃を撃つ時は、落下による弾丸の偏差を余り考えなくて良くなる」

『確かにヤシガニ。的になるからって、翼をもぐ訳にもいかないしなぁ』

「特にミサイルが有効な場合は、瞬く間にロックオンされて、ちゅどん。で、飛行機って簡単に機首を上げられないんだよ。飛行機を上へ急角度にしすぎると、翼を覆っている空気が剥がれて、失速っていう状態になる。この状態は飛行機が飛べる条件を失った状態だから、墜落の可能性が出てくる。だから上向きに機銃を撃つのは難しい」


 リッカが、納得いかない表情になった。


『飛行機の上面に、上向きに機銃を付けちゃ駄目なのか?』

「広い面積を晒したまま撃つの? あと、当てにくいよ?」

『じゃあ翼につけて、横向きに倒れて撃てば』

「飛行機って横向きに倒れてると、長く飛べないんだよ。翼が小さな垂直尾翼しか無いわけだから。あと、翼に付いた外向きの銃なんて当てられると思う?」

『確かにザリガニ。ままならないんだなぁ』

「そもそも弾丸の落下の偏差も大きくなるし、当てにくい。というわけでダイブ&ズームの為に、速度と高度というエネルギー溜めるわけ。他にも理由はあるけれど」

『高高度からの急降下攻撃のダイブ&ズームで、なんで速度なんだ? 高度だけで良いんじゃないのか?』

「速度と高度は互いに変換できるんだ。急降下すれば、高度を速度に変換できる。速度があれば、機首上げで失速しにくくなるし、素早く上昇もできる。これを『エネルギー機動性理論』って言うんだ。――まあ、エネルギー機動性理論には〝方向〟っていう要素もあるんだけど、これはエネルギーの使い方の話ね」

『はー、考えた人凄いなぁ』


 リッカが感心する声をだした。私は「ウムッ」。


「それはそう。だから空中格闘戦が予想されるなら、限界高度まで登っておくのが基本」

『上昇力や限界高度って、大事なんだな・・・戦闘機は、速ければそれで良いと思ってた』

「あと〝エネルギー優勢〟は、先に言ったみたいな利点がある。高度エネルギーが高いと、偏差が楽で、攻撃を敵に命中させやすいとか――相手が上に向けて撃つと、偏差がきつくて攻撃に当たりにくいとか。速度エネルギーが高いと、こっちのミサイルや弾丸が相手に到達するのが速くなるとか。相手のミサイルの追跡を振り切りやすいとか。エネルギー優勢は有利な点が一杯あるんだ。それから、これはあんまり教えたくないんだけど」

『なんだ?』

「上からだと、機銃の弾丸が、ほとんど直接パイロットに当たる。下からだと床が盾になるから」

『あーーー』

「FPSのヘッドショットみたいなことが、上からだとやりやすくなる。私のやってた戦闘機FPSで上手い人は、交戦域に到達するのを遅らせながら上昇を優先し、高高度を取って、上から直接パイロットを狙う。そしていつまでも高高度に居座って、下にいる人を狩り続ける」

(こわ)ッ、(ずる)ッ』

「若干作業感あるんだけどね。たまに敵が気づかない様に背後に急降下して、一瞬でキルしてまた上昇とか――まあこれが正にダイブ&ズームなんだけど」

『後ろから来てる事に気づかないのか?』

「エンジン音はするんだけどね。・・・・味方のエンジン音と混ざって気づかない事が結構あるんだよ」


 すると、マイルズが話を補完してくれる。


『他にも速度が上がれば、飛行機の姿勢を操る横転舵(エルロン)昇降舵(エレベーター)と言った舵に強い風が当たるので、姿勢の変更が疾くなる利点もある。どこかの化け物がよくやる敵の機銃の弾丸を躱すという行為がやりやすくなるという訳だ。ただし速度が出ると、旋回などの進路変更は時間が掛かるがな』


 化け物って誰だろう?


『でも、速いと追い抜いてしまいやすいんだろ?』


 リッカの疑問。その通り、そして、


「それを解決する方法が、攻撃的機動。じゃあ、そろそろ機動の説明をしようか」




3:基本の機動


「じゃあ、いよいよ飛行機の技、機動の話。先に〝攻撃的機動〟を説明したいんだけど――その前に、基本中の基本を説明しないといけないんだよね。ハイGターンと、サステインドGターン――これ、攻撃的機動にも防御的機動にも含まれないんだよね」


 マイルズがツッコミを入れてくる。


『お前の理論が、いきなり破綻しているぞ』

「だって、2つのGターンはほとんどただの旋回すぎて、攻撃にも防御にも使うんだもん」


 すると剣術娘のリッカが納得してくれる。


『基本ってのは、そんなもんだ。基本ってのは〝ただ〟のって言いたくなる。ただの突き、ただの振り。だがこのただ突く、ただ振るという行為は奥が深い、我が流派は腕を伸ばしたまま軽く振れと言う。だが、まるで振ってる手応えがないから、初心者は困惑する。「もっと遠心力を掛けたほうが、良いんじゃないか?」とかな。しかも「軽く振る」を力を抜いて振ると勘違いする人もいる。そうではなくて、剣を軽く感じるように振る事を伝えていたりする。つまり遠心力を掛けるなと言っている。どの様に線を描くか、円を描くか。わたし達は一生をかけて、この〝ただ〟を追い求める』

「ほえー」


 感心する私。


『っと、今は戦闘機の話だった、ごめん続けて』

「〝円を描くか〟って所は似てるね。ハイGターンと、サステインドGターンは、どちらも〝ただ〟の水平旋回ただし。どっちの旋回も本来横向きになると落下していく戦闘機で、高度を変えないで旋回する方法。ここで大事なのは角度ね。横転80度というのが大事」


 私は乗っている戦闘機で実演してみせる。

 ちなみに私の戦闘機は、前進翼の複葉機という珍しい翼の機体。前進翼と複葉機の相互作用による、恐ろしいほどの上昇力が特徴。あと装甲の厚さという防御力を捨てて速度に極振りされた機体なので、エネルギー優位が取りやすい。


「まずハイGターンは、短時間で方向転換ができるターン。要は単なるターンなんだけど、速度を絞ったほうが疾くターンできるので、速度が出ている時は、エアブレーキとかでブレーキを掛けながら行うんだ。エンジンを絞るとエンジンの出力が戻るのに時間が掛かるから、基本的にエンジンは絞らない」


 私はまずは戦闘機を横転させて、操縦桿を引く。すると私の頭上方向に戦闘機が向いて、水平にカーブしだした。

 さらに主翼の根本に付いているエアブレーキを開いて速度を落としながら、カーブすると、より急なカーブを描く。

 私の機体にはカナード翼が付いてるんだけど、このカナード翼がエアブレーキになる戦闘機もある。

 私は、機動を優先するため、エアブレーキは別口で付けてもらった。


「そして、ジェット噴射の向きを変えられる推力偏向ノズルを機体の上方へ向けて、アフターバーナー!」


 私の機体が、霧の衣に覆われながら急カーブする。


「ちなみにこう言った旋回するだけでも、勝手に速度は落ちていきます。あと、ハイGターンをするのはあまりオススメはしません。理由はさっき言ったエネルギー機動性理論です」


 さて、ここでちょっとした豆知識を披露しよう。

 涼姫ちゃんの豆知識タイム。


「でもここだけの話、バーサスフレームの場合、とんでもないエアブレーキがあります」

『とんでもないエアブレーキ?』


 アリスが、疑問の表情になった。


「人型形態。――これを挟んでもいいんだ」

『あー、なるほど!』


 私は機体を一瞬、人型にして、機体の速度を一気に絞る。

 これはバーサスフレームだからできる事。地球の戦闘機には無理。

 じゃあ、今度は地球の戦闘機にもできる豆知識を披露しよう。


「ちなみに、私は高揚力装置(フラップ)を下げたりすることがあります」


 アリスが首を傾げる。


『え、高揚力装置(フラップ)って、離陸とか着陸の為の装置ですよね? 低速でも揚力を高めてくれる』

「一般的に、戦闘機の水平カーブは、危険なレッドアウト――頭に血液が集まる現象を避けたり。そもそも飛行機は上昇するのが得意だから、機首上げするような感じで旋回するんだけど」


 私の言葉に、プロのマイルズが補足する。


『ハイGターンをすると、パイロットには8~9Gとか掛かるからな。頭に血が集まると非常に危険だ』

『なにそれ怖いです』


 アリスがブルっちまった。


『ドッグファイトは旋回ばっかりするんですから、パイロットさんはずっとそんなGに耐えてるんですね。やっぱり体も鍛えないと駄目なんですね』

『その通りだな』


 でも、


「マイルズはあんまり筋肉ないけどね」

『貴様・・・』


 軍人にしては、だけど。

 スクワット200回とかするし。私だったら足を複雑骨折するような回数。


 まあ、バーサスフレームは重力制御装置でGを抑えられるから、一般人でも大丈夫。


「で、高揚力装置(フラップ)を倒す理由だけど。――そもそも、飛行機の上昇って、尾翼を下げることで上向きにして行われるんだ」

『あー。後ろを下げて、上を向かせるんですね』

「そうそう。で、高揚力装置(フラップ)は前を上に向けてくれる」

『・・・・あっ! なるほど、素早く上向きになれるんですね!』

「そう。だからより小径で曲がれる。横転舵(エルロン)を両方下げられる機体なら、横転舵(エルロン)も下げても良い。こうすると、かなりエグい曲がり方するよ。――まあ速度もガッツリ下がるけどね」

『なるほどです!』


 ハイGターンの説明を終えた私は、機体を一旦加速させて、ハイGターンで失った速度を補給する。


「サステインドGターンは、エネルギーの損失をしないで旋回する方法――高度も速度もね。まあ、アフターバーナーで速度を速くして補ってるだけなんだけどね」


 私はアフターバーナーを使い、グルリと回ってみせた。




 4:攻撃的機動


「で、本題の〝攻撃的機動〟――つまり、相手を追い抜かないようにする方法なんだけど、音速の何倍なんて速度で飛んでたら、僅かな進行方向のズレで進む量が、たった1秒でも何百メートルも変わってくる。だから、機銃を使った相手との距離が1~2キロ以内のドッグファイトなんて、相手の機首より前を撃ってたら瞬く間に追い越し(オーバーシュート)しかけるよね」


 マイルズが頷く。


『そうだな。しかし機銃は、偏差があるから相手の機首より前を撃たないと当たらない』

「こういう時に、追い抜かないように使うのがハイ・ヨーヨー」

『それが普通だな。機銃で戦うと、攻守なぞバンバン入れ替わるからな。ハイ・ヨーヨーで防がないといけない』

「あとバレルロール・アタック(攻撃用のバレルロール)とか」

『ああ』

「これらは、こっちが早すぎたり相手の進行方向を狙いすぎて、追い越しかけた時に使うんだ。ブレーキとか掛けない代わりに上昇することで、進行を蛇行させたり、速度を高度に変えて保存する事を目的としてる。さっきも言ったけど、エンジンを絞るとエンジンの出力が戻るのに時間が掛かるから、基本的にエンジンは絞らない」

『基本はそうだ』

「1vs1で戦ってると、追う側なんか、撃たれる可能性がないから宙返り(ループ)ですらいい」

『まあな』

「その言葉、憶えててね。マイルズ」

『ん・・・・? なんだその不穏な台詞は。1vs1ならって事だぞ? ――現代の空中戦で1vs1なんて事は、滅多に無いからな!?』

「フフフ。以上ハイ・ヨーヨーとバレルロール・アタック。攻撃的機動でした」




5:防御的機動


「――で、防御的機動。まずジンギング。これは左右横転を繰り返し、敵の弾丸を避ける方法」

『ではないな。ランダムに戦闘機を横転させて、弾丸に当たる確率を減らす方法だ。断じて避ける方法ではない』

「あれ?」

『やはりモノノ怪か』


 リッカに妖怪言われた。まあ配信のコメントで、よく妖怪大戦争してるしなぁ。

 マイルズは「やれやれ」という顔。


「あとはスリップ。左右舵(ラダー)を効かせると、左右舵(ラダー)で起こる横転――つまりラダーロールが起きるから、それを打ち消すように横転舵(エルロン)で反対側に横転すると、横滑りが起きる。これで相手の機銃を躱す」

『当たりにくくなるだけだな。躱す訳では無いな』

「さらにこのスリップを左右に繰り返すと、FPSで言うところのレレレの動きになる」

『断じて、その様な使い方をするものではないな』

「で、相手に追い抜かせる方法なんだけど」


 そしてリッカが酷いことを言う。


『追い越させる? そんな物あるのか? スウの変態ハイ・ヨーヨーや、シャドウ・サークル以外に』

「変態じゃないもん」

『じゃあ狂人』

「狂ってないもん・・・」

『だが〝狂陰のスウ〟よ』

「狂ってないもん! 陰キャじゃないもん! まあ、私は、この方法でゲームで無双してたんだよね。まず上昇反転のインメルマンターンや、下降反転のスプリットSなんかは敵の視界内でやっちゃ駄目っていうよね?」

『そうだな。相手の視界にいると、今スウが言ったどの機動も、戦闘機の広い面を相手に晒すことになる。格好の的だ』

「んで、さっきの攻撃的機動で言った通り追尾者は追い越し(オーバーシュート)しかけると、速度を高度にして保存するため、上昇して相手を追い抜かないようにする」

『ああ、それが大事だ』

「じゃあさ、追撃者が機首を上げた瞬間に、こちらは下降反転(スプリットS)を――」


 私が言った瞬間、マイルスが目を見開いた。


『お、お前、マジか』

「うんうん。私はこれで飛行機FPSで無双してた。実際のやり方は左右に何度もハイGターンをしたりして、相手の追い越し(オーバーシュート)を早めて、相手の攻撃的機動――つまり機首上げを誘発」

『なるほど・・・』

「で、相手が上を向いてこちらを撃てなくなった瞬間。こっちは下降反転(スプリットS)


 ドッグファイトでは、速度で速い方が、相手を追い抜かないために上昇する時がある。

 この瞬間が、撃たれない瞬間だ。

 その時に、機首下げ反転の下降反転(スプリットS)という機動をする。


「これをすると、追撃側がループなんかしてたら撃墜できる」

『そういう事か・・・・なるほど、ボクの負けだ、スウ』

「まあ、相手が上手いと、これで持ち込めるのは正面対決(ヘッドオン)までなんだけどね。ここからはまたサークルファイトを始める感じ、サークルファイトは基本じゃないから、また今度ね」


 するとリッカが首を傾げた。


『おかしくないか? 飛行機は、浮くものだから沈む行動――機首下げは遅いんだろう? ゆっくり降下してUターンできるのか?』

『いや、スプリットSは先に背面飛行になってから降下を始める。降下もUターンも速い』

『あー、背面飛行だから、一気に沈み込むのか』

『そうだ』


 私の秘技に対して、マイルズが普通を教えてくれる。



『ちなみに普通のドッグファイトは、後ろに付かれたら、相手に自分より前方を撃たせて追い越し(オーバーシュート)を誘う。ミサイル相手だとロックオンだから自機を直接狙われて、なかなか追い越し(オーバーシュート)してくれないがな。――だが機銃なら、いずれ相手はオーバーシュートするという考えで、なんとか弾丸を躱し続ける。ただし完全に後ろに付かれると、機銃でも自機に照準が向くから、なかなか追い越し(オーバーシュート)してくれないぞ、気をつけろ』

「まあ、完全に後ろに付かれることなんて、滅多にないけどね」

『それはお前だからだ』


 褒めてるん? とりあえず嬉しい顔をしながら、私は弾丸の躱し方を伝授。


「そうだ、バレルロールは左右に軸がずれるから、バレルロールを左右に繰り返す事で、レレレの代わりにもできるよ」

『バレルロールを、そんな使い方は、普通しない』

「あれぇ?」

『――能動的に追い越し(オーバーシュート)させるには、ブレイクターン――要はハイGターンや、シザース機動で誘う』


 リッカが、マイルズに質問。


『バレルロールで、どうやって追い越し(オーバーシュート)させるんだ?』

『バレルロールは右や左に軸をずらすんだが、相手は素早く反応しないと、直進してしまう』

『直進したらどうなるんだ?』

『こっちは急激に曲がるが、相手は直進してしまうと追い越し(オーバーシュート)してしまうという事だ』

『なるほどなぁ』

『だがこれも、相手がミスをしないと追い越し(オーバーシュート)させるのは難しい。相手が手練れだと、後ろに付かれた場合、ほぼ詰みだ。バレルロールにも付いて来られたりするからな』

「バレルロールに付いて来る相手には、バレルロールにスナップロールを加えた、横転コルク抜きだね」

『あんな機動は、伝説のパイロットしかできん』

「私できるよ?」

『お前がおかしい』


 するとリッカが変態の話をしだす。


『ハイ・ヨーヨーで追い越し(オーバーシュート)させる変態がいると聞いたぞ』

「変態言われた」

『それは化け物だ』

「化け物言われた」


 私が諸行無常を感じていると、アリスが驚く。


『えっ、ハイ・ヨーヨーって、追い抜かせる物じゃないんですか!?』


 マイルズが首を振る。


『あれは普通、〝追い抜かないようにする〟機動だ』

『スウさんが相手に追い抜かせる方法に使うから、てっきり』

「フフフ」


 私が胸を張っていると、アリスが怯えた。


『狂ってる』

「狂ってる言われた」

『コイツのハイ・ヨーヨーは言わば、バレルロールの変形だ。できるだけ大きな円を描きながら、できるだけ上昇し、時間を稼ぎつつ速度を高度に変える。そして宙返りからの降下。ズレて相手の進路の内径に入ることで、相手は追い抜いてしまう』

『そんなタネだったんですか』

「バラされた。とりあえず基本の解説は以上かな。本当は翼の説明とか、実際に飛べるアニメ・メカとか説明したかったんだけど」

『なぜ本当に飛べるアニメ・メカを説明しようと思った』


 マイルズが、どうしてか呆れた。


「長くなったし、応用はまた今度ね。本当に飛べるアニメ・メカはその時に」

『だから何故、本当に飛べるアニメ・メカを説明したがる』

「じゃああとは、実際にやってみよう!」

『『『はーい!』』』


参考資料:


 ・『ドッグファイトの科学』


  フェイテルリンクを書き始めた時、ドッグファイトを解説している書籍がこちらしかなくて、泣きました。


 ・『SLGamer vol12』


  救世主でした。

講座は以上となります。

応用に関しては本編に沢山書いてあるので、書くかはわかりません。


というわけで、本編はこちらになります。


https://ncode.syosetu.com/n0664js/

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