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第七話:勝利と新しい能力


 ガッ!


 グレイウルフは、太一が計算して配置した足場の不安定な苔むした岩に、勢いよく足を滑らせた。その一瞬の隙を見逃さず、太一は全力で魔獣の首筋に噛み付いた。


 ミシミシッ! (ぐっ…まったく嚙み切れない!)


 しかし、グレイウルフの毛皮は太一の仔狼の牙を弾いた。太一の身体は、魔獣の強靭な首の筋肉によって弾き飛ばされ、岩場に叩きつけられる。


「キャン!(くそっ!硬い!)」


 グレイウルフはすぐに体勢を立て直し、怒り狂った目で太一を見据えた。岩に叩きつけられた衝撃で、太一の右前脚に鋭い痛みが走る。


(やばい!やっぱり一撃じゃ無理か!それに、岩場に叩きつけられるなんて、不器用すぎる!)


 グレイウルフは、太一の足の負傷を見逃さなかった。低い唸り声を上げると、太一の傷ついた右前脚めがけて、鋭い爪を振るってきた。太一は身を捩って避けたが、避けきれずに左脇腹を深く切り裂かれる。


 ドバッ!


 鉄錆の匂いが濃くなった。体温が急速に奪われ、視界が一瞬赤黒く滲む。


(動け!動け!ここで死んだら、陽介の邪魔をしたまま終わるんだぞ!)


 太一の脳裏に、陽介の最後の悲鳴が蘇った。この痛みも、この恐怖も、あの時の後悔に比べれば何でもない。


 太一は、傷ついた足で無理やり地面を蹴った。グレイウルフの攻撃の予備動作が、前のめりになる一瞬だけ遅れることを、彼は何度も観察して知っている。


 その一瞬を狙い、太一はグレイウルフの頭上へと飛び上がった。着地は、狙い通りグレイウルフの背中。魔獣は、突然の重みに対応できず、バランスを崩してよろめいた。


 太一は、この機を逃さなかった。


 体の奥底から、熱い力が湧き上がってくるのを感じた。それは、Lv. 2になったことで目覚めた、獣の肉体に宿る純粋な生命力の奔流だった。太一は、人間としての理性を失い、ただ「倒す」という本能だけに従い、無我夢中でその力を小さな牙の先端に集める。牙の先が、微かに銀色の光を帯びるように見えた。


 狙うは、毛皮が薄く、防御力の低い、耳の後ろ!


「ガァアアアアアアアアアアア!」


 唸り声は、「生きる」という歓喜と強い決意に満ちていた。


 太一の牙が、遂にグレイウルフの急所を貫いた。魔獣は短く断末魔の叫びを上げ、その巨大な体躯は地面に崩れ落ちた。


 肉と骨を噛み砕く、残酷な音。そして、鉄錆と獣の熱が混ざり合った、生臭い血の味。


【レベルアップ!】


 その瞬間、頭の中でゲームの通知ウィンドウのようなものが琥珀色の光と共に浮かび上がった。


(え、なになに!?やっぱり来た! Lv. 3への進化だ!)


 全身に熱い奔流が駆け巡る。そして、彼の体は仔狼から、一回り大きな若狼のサイズへと、急激に膨張していた。


 =======

 Lv.2→Lv.3

 スキル:身体サイズ自由変形(若狼サイズまで)を獲得

 スキル:鑑定を獲得

 生命力:回復

 身体能力:中増

 =======


 左脇腹の深い傷と、右前脚の痛みが、まるで嘘のように消え去る。体力は満タン。毛並みは、さっきよりも一層密度の高い銀色に輝いている。


 目を見開いたまま、そのウィンドウを凝視した。


(スキル……!?ちょ、待てよ!鹿を狩った時(Lv. 2になった時)は、ただ回復して身体能力が微増しただけじゃなかったか!?)


 突然の「スキル」の獲得に、太一の人間としての意識は戸惑った。ゲームのようにレベルアップ=スキル獲得という法則があるのだとしたら、それは絶望的な状況を覆す一筋の光だ。


(身体サイズ自由変形?大きくなれるってことか!?マジで俺、チート主人公になっちゃうかも!しかも、鑑定だと!?これで次からは詳細な敵の情報が手に入る…!)


 内心、その能力が秘める可能性に能天気に興奮した。


 しかし、喜びも束の間。そのままの勢いで地面に足を踏み降ろした。


 ドスッ!


 巨大化した体は、地面の枯葉に思い切り足を滑らせ、たった一歩で体勢を崩した。

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