第五話:初めての夜と、流れ落ちる涙
自分が Lv. 2 になった今、次は「不器用さの根絶」につながる力を獲得しなければならないと強く感じていた。
「グルルゥ……(レベルアップは、チートじゃなくて努力だ)」
彼は、再び森の奥深くへと向かった。しかし、その前にまず安全の確保が最優先だと判断した。前世の知識では、最も危険なのは夜間の休息時だ。
(狩りをする前に、まずは寝床。安全な場所を見つけないと、狩りの疲れで魔物にやられちゃう)
鋭い嗅覚と聴覚を最大限に使い、この森で最も警戒心が薄く、敵から発見されにくい場所を探した。大きな岩と木の根が複雑に絡み合った洞のような場所を見つける。内部は狭いが、狼の身体なら十分に身を隠せる。
(よし、ここを仮の拠点にしよう)
その洞に数日分の枯れ葉と苔を持ち込み、地面の冷たさから身を守る寝床を作り上げた。その土と湿気の匂いに、少しだけ安堵する。
寝床を整えると、気が抜けたのか、一気に力が抜け体を丸くし床に横たわった。全身の疲労が一気に押し寄せる。しかし、目を閉じても心は休まることを知らなかった。
(ここは、どこなんだろう…。)
前世の家、陽介と笑った教室、コンビニの明るい光。それら全てが、遠い幻のように感じられる。今彼の身体を包むのは、銀色の毛皮の温かさと、苔の湿気。耳に届くのは、夜の森の微かなざわめきと、自分の心臓の音だけだ。
「グルゥ……(寂しい…)」
心で叫んでも、喉から漏れるのは獣の唸り声。その「人間的な言葉を喋れない」という絶望感が、太一の心を鋭く突き刺した。
そして、脳裏に陽介の最後の光景が蘇る。
『陽介!俺が引っ張り出す!』
(俺は、最後の最後まで、陽介の優しさを理解できず、自分の焦りで邪魔になった)
不器用な自分がこの世界に来ても何も変わっていないのではないか、という深い苦悩に苛まれた。体は強くなっても、心は相変わらず弱く、脆いまま。この先、もし誰かに出会っても、彼はまた「邪魔な存在」になってしまうのではないか。
その孤独と後悔が、遂に限界を超えた。
「クゥ……ン……」
狼の喉から、小さく、か細い泣き声が漏れた。それは、人間が泣くときの嗚咽ではなく、獣が耐えきれない苦痛を訴えるような、切ない鳴き声だった。
琥珀色の瞳から、熱い涙が溢れ出した。毛皮に覆われた頬を、一筋の雫が流れ落ちる。涙は、すぐに銀色の密度の高い毛皮に吸い込まれ、森の湿気と一体になった。誰もこの涙を見ることはない。この孤独な洞の中で、太一の人間としての悲しみを共有してくれる存在は、どこにもいなかった。
泣き疲れるまで、ただひたすら、土の匂いがする寝床に顔を埋めた。
(強くなりたい。次は、邪魔なんかじゃない、頼れる存在になりたい……!)
泣いた分だけ、彼の決意はより深く、強固なものになっていた。
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