第四話:後悔という名の傷
孤独と絶望が、彼の心を支配する。そして、極度の疲労と、この状況への絶望が、彼の脳裏に、この世界に来る前の光景を、鮮明に、現実のように蘇らせた。
(陽介……)
親友の名を、心の中で呼んだ。
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場所は、見慣れた街の交差点。空は鉛色に曇り、冷たい雨がアスファルトを叩きつけていた。
太一は、親友の陽介と他愛もない話をしながら信号待ちをしていた。陽介の明るい声は雨音の中でもよく響く。太一とは正反対の器用な人間だった。
「なあ、太一。来月のキャンプ、お前が火をつける係な。また俺がやると、太一は『俺は役立たずだ!』って落ち込むんだろ?」
陽介は笑った。太一は、自分の不器用さを茶化されるのが悔しくて、プイと顔を背けた。
その瞬間、悲劇は起こった。
ドォオオオオン!
地響きのようなトラックの轟音が、雨音を打ち消した。視界の端で、猛スピードで突っ込んでくる巨体が見えた。居眠り運転のトラックだ。
「太一!」
陽介が叫ぶと同時に、太一の背中に強い衝撃があった。陽介が太一を突き飛ばし、彼の体は水たまりに勢いよく弾き飛ばされる。顔に泥と雨水がかかる冷たい感触。
「太一!逃げろ!」
陽介の叫びが聞こえた。太一の体は動いた。反射的に、陽介を助けようと、逆走してトラックの方へ、一目散に戻ろうとしたのだ。
「陽介!俺が引っ張り出す!」
太一が立ち上がって一歩踏み出した、その目の前で、陽介は既にトラックに轢かれていて、トラックの真下に倒れこんでいた。太一の「助けようとした」行動は、陽介が突き飛ばしてくれた安全な場所から、最も危険なトラックの真下へと、無駄に体を動かしたのだ。
トラックは凄まじい轟音を立てて走り去る。太一は、水たまりの上で、体勢を崩した。
次の瞬間、全身に猛烈な衝撃が走った。それは、トラックの余波に巻き込まれたのか、あるいは路肩の何かに強く頭を打ったのか――太一には分からなかった。ただ、視界が鉛のように重く、暗く、冷たい雨の感触だけが残った。
意識が途切れる直前、彼の脳裏を支配したのは、陽介を助けられなかった無力さではない。
「必死に守ろうとしてくれた陽介の邪魔を、俺は最後の最後までしてしまったのではないか」
という、取り返しのつかないほどの深い後悔だけだった。
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ハッと目を開く。琥珀色の瞳は、森の暗闇の中で、恐怖と後悔に揺れていた。
「グルゥ……(邪魔……)」
彼は、この世界で狼として生きることを選んだ理由を、深く理解した。
「力をつけなければ、また、俺は大切なものを守ろうとして、不器用なまま邪魔になる」
それは、チートな強さへの憧れではない。ただひたすらに、「不器用な自分を、不器用ではない存在に変える」ための、血の滲むような渇望だった。
体が再び、熱を持った。飢餓が、後悔を糧にして燃え盛る。
(次は、絶対に失敗しない。不器用なままなんか終わらない!)
彼は、力を得るため、孤独な森の奥へと、小さく、しかし確かな一歩を踏み出した。その唸り声は、もう飢えの叫びだけではなかった。それは、不器用な人間が、獣の檻の中で叫ぶ、魂の誓いだった。
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