第三十四話:遠隔解析と王宮外の依頼
満月の儀式から数週間。俺の日常は、「二つの姿の切り替え」と「遠隔解析鑑定」の訓練が中心になっていた。
俺は、仔狼の姿の優れた感覚と、獣人の魔力制御能力を融合させた。魔力の糸を、王宮の結界や石壁に沿わせて、物理的な障害を無視して情報を引き出す訓練だ。
(レオンの執務室の魔力構造を追うんだ。微細な魔力の波紋を見逃すな……)
俺の仔狼の耳は、王宮内の微かな空気の振動すら捉えていた。やがて、閉鎖書庫にいながら、俺の意識は王宮の反対側にある第二王子レオンの執務室に到達した。
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鑑定対象:第二王子レオン執務室
魔力構造:王宮防衛結界とは別の、個人的な隠蔽魔術が施されている。
思考:第三王子は、王都外の魔獣討伐を装って始末させろ。辺境伯との連携を強化。
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レオンの具体的な殺意と計画を、俺は遠隔で正確に読み取った。
『——スノウ!レオンが、王都外の「魔獣討伐」を口実に、俺たちを始末しようと計画してる!辺境伯と何か繋がってるみたいだよ!』
スノウは、その報告を聞き、ペンを止めた。
「遠隔解析、成功したようだな、ティオ。王宮の結界を越えるとは、本当に恐ろしい才能だ」
「だが、レオン兄上の動きは予想通りだ。公的な命令で私たちを王都の外に出させ、「事故」に見せかけて始末するつもりだろう。辺境伯は、私と国王陛下の間で不当な税の取り立てで揉めている領主だ」
スノウは、冷静に反撃の策を練り始めた。
「ティオ。我々はその『魔獣討伐』の命令を、利用させてもらう」
翌日。第二王子レオンから、「辺境伯領の森で、異常発生した魔獣を討伐せよ」という、緊急の公務が下された。
表向きは第三王子の権威の誇示だが、裏では暗殺計画が進行している。
スノウは、あえてこの依頼を即座に受理した。
「王宮内にいても、レオン兄上の陰湿な監視は変わらない。むしろ、王宮外の広い場所の方が、君の真の力を隠さずに使える」
『——わかった、スノウ。どこまでが「魔獣討伐」で、どこからが「暗殺者との戦闘」か、俺が解析鑑定で全部見破ってやる!』
スノウは、獣人の姿の俺を馬車に乗せ、たった二人で辺境伯領へ出発した。騎士団の護衛は、レオンの息がかかっているため、あえてつけなかった。
馬車は二日かけて辺境伯領の森に到着した。
この辺境伯領は、不当な重税と領民への圧政が原因で荒廃していた。
森に入る前、俺は仔狼の姿に切り替え、周囲の状況を詳細に解析した。
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鑑定対象:周辺の魔獣
生態:異常な発生は見られない。報告された「グリムボア」の群れも、通常の数。
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(魔獣の異常発生なんて、真っ赤な嘘だ。やっぱり、レオンの罠だ!)
そして、森の奥深くから、不自然な人間の魔力が近づいてくるのを察知した。
『——スノウ、騎士じゃない。五人の暗殺者が、隠密魔法を使って近づいてきてる!』
スノウは、冷静に馬車から降りた。彼の顔には、冷たい決意が浮かんでいる。
「来たか。レオン兄上の本命は、いつも騎士団の制服を着ていない」
暗殺者たちは、隠密魔法を解き、毒を塗った弓と魔力剣を構えて、俺たちを取り囲んだ。
「第三王子スノウ。そして、獣人よ。お前たちの王宮外の旅は、ここで終わりだ」
スノウは、獣人となった俺を信頼し、冷静に指示を出した。
「ティオ。仔狼の姿で、まず五人の連携を崩せ。剣士は私に任せろ」
『——了解、スノウ!』
俺は、仔狼の姿から獣人の少年の姿へ瞬時に切り替えた。
俺は、【細胞活性】を最大出力で発動。全身の筋肉がブーストされ、一瞬で地面を蹴り、残像を残すほどの高速で暗殺者の懐に飛び込んだ。
ドッ!という音と共に、俺の魔力硬化した拳が、暗殺者の最も脆弱な魔力器官に叩き込まれる。
「ぐぁっ!」
暗殺者の一人が、魔力循環を断たれ、泡を吹いて倒れた。
(もう一体一体、確実に仕留める!)
俺は、残りの暗殺者の連携を完全に無視し、高速移動と急所狙いで、次々と戦闘不能に追い込んだ。
最後に残ったのは剣士。彼は、スノウを狙っていたが、俺の圧倒的な戦闘力を見て、焦り始めた。
スノウは、その隙を見逃さない。彼は、懐から特殊な魔導具を取り出し、剣士の足元に放った。
「地の封印!」
剣士の足元が、突如として硬質な土の壁に封印された。その動きが一瞬止まった隙に、俺は仔狼の姿に切り替わり、魔力制御によって硬質化させた牙を、剣士の喉元へと突きつけた。
「……私の負けだ」
獣人と王子による連携で、暗殺計画は完全に阻止された。
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