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幕間:王宮の静寂と、二つの姿の優しい時間


「変化の儀」の騒動からしばらく経ち、王宮には穏やかな静寂が戻っていた。ティオは、魔力制御により、獣人の少年の姿と、仔狼の姿を自由に切り替えられるようになっていた。


午後の日差しが、閉鎖書庫の天窓から差し込む。スノウは、古い机に向かい、集中して政務文書を読んでいた。


ティオは、最初は獣人の少年の姿で訓練をしていたが、疲れて仔狼の姿に切り替え、スノウの足元の絨毯にゴロンと転がった。


『——ふう、やっぱりこの姿が一番リラックスできるや』


俺の仔狼の尻尾が、スノウの執務用の椅子の足元にトントンと軽く触れていた。


しばらくして、温かいものが俺の毛皮の背中に触れるのを感じた。


スノウは、書類から顔を上げずに、優しく、一定のテンポで俺の背中を撫でていた。


『——んん……スノウ、書類、終わったの?』


俺は、半分寝ぼけた声で念話を送る。


スノウは、撫でる手を止めずに、静かな、柔らかな声で応じた。


「まだだよ、ティオ。少し、頭を休ませたい。君の毛皮は、こうして触れていると、本当に心が安らぐ」


彼は、俺の仔狼の耳の根元を、特に優しく撫でた。


『——くすぐったいよ、スノウ……。でも、気持ちいい……』


『——すまない。だが、君が二つの姿を自由に使えるようになってくれて、本当に良かったと思っている。狼の姿も私は好きだったからね…』


スノウの言葉には、王子の立場から解放された、親愛の情と安心感が滲んでいた。


訓練の合間、俺は獣人の少年の姿に戻り、スノウと向き合った。


『——ねぇ、スノウ。俺、もう「人間」になることは諦めるよ。この「獣人の姿」で強くなる!そして、スノウが王になるまで、ずっと傍にいる!』


スノウは、俺の銀灰色の頭に優しく手を置いた。その表情には、深い決意を受け止める優しさがあった。


「そうか。お前の新たな目標、受け取った。君が獣人として生きることを選んだのなら、私も全力で君を支える。君は、誰よりも頼もしい、私の盾だ」


彼は、そっと付け加えた。


「君の二つの姿の能力は、他の誰にもない強みだ。この二つの体で、限界まで力を高めていこう。きっとこの世界で最強の存在になれるはずだ」


夜が更け、スノウは読書を始めた。俺は、仔狼の姿で、ベッドのスノウの足元に潜り込む。


スノウは、本を読みながら、時折、爪先で俺の耳の毛を優しく撫でた。


「ティオ。次の訓練の課題だ。『遠隔解析鑑定』を始めよう。仔狼の姿の優れた感覚と獣人の魔力を合わせ、王宮の外壁から、レオン兄上の執務室の魔力的な配置や、警備の心の内を読み取ってみてくれ」


『——わかった!頑張るよ、スノウ!』


王宮の暗闇と、権力争いの渦中にあっても、閉鎖書庫と私室には、獣人の少年と仔狼、二つの姿を持つティオとスノウ、二人だけの、甘く、優しい時間が流れていた。

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