第三十三話:獣人の戸惑いと新たな日常
閉鎖書庫での「変化の儀」から一夜明け、俺はスノウの私室で目覚めた。全身は、まだ慣れない毛皮に覆われた体だ。
俺は人間の少年の姿、ただし、銀灰色の毛皮、尖った狼の耳、そして長い尻尾が生えている。身長は中背でまだ幼さが残る。
(これが俺の限界なんだな。完全な人間にはなれなかった。やつらの妨害で儀式が崩壊したから、俺はもうこの「獣人」の姿として生きていくしかない…)
俺は、人間の言葉を話し、人間の手を使うことができる。何より、自由になった。
【解析鑑定】で自分のステータスを確認する。
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名前:ティオ(太一)
種族:獣人(不完全変異種)
Lv.7
保有スキル:【解析鑑定(Lv.7)】【細胞活性(Lv.2)】【魔力硬化(部分)(Lv.1)】【体術(Lv.5)】
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(もう人間の姿にはなれない…なら、この獣人の力を最大限に引き出し、この世界で強く生きる!そして、スノウの傍にいる!)
スノウは俺の隣で椅子に座り、温かいミルクの入ったカップを俺に差し出した。
「気分はどうだ、ティオ。まだ体に馴染まないだろう?」
『——うん。なんか、全身がむず痒いっていうか、落ち着かない。でも、力が溢れてるのはわかるよ』
スノウは、俺の狼の耳にそっと触れた。その手つきは、以前にも増して親密で優しい。
「無理もない。ティオは、二つの種族の狭間で生まれた存在だからな。だが、この姿だからこそ君を王宮内の誰にも予想できない存在にした」
スノウは、ミルクを飲んでいる俺の尻尾を撫でた。俺の尻尾は、感情に正直にぶんぶんと振れていた。
「……可愛いな、ティオ。この姿なら念話じゃなくても私と会話ができる…。君が隣にいてくれることが、私にとって何よりも大きな支えだよ」
『——スノウ……。俺、決めたよ。もう「人間」になることは諦める。この「獣人の姿」で、最強の護衛獣になる。そして、スノウが王になるまで、ずっと傍にいる!』
俺の強い決意に、スノウは驚きの後に深い喜びと理解を示した。
「そうか。お前の新たな目標、受け取ったよ。ティオ…私と共に歩んでくれ…。そして、その獣人の力を、どこまでも高めていけ。私も、そのための知識と機会を与える」
「王室直属の護衛官」という肩書きを得た俺の新しい日常が始まった。
日中は、スノウの護衛として、執務室、庭園、時には会議にも同行した。貴族たちは、俺のケモノの姿を見て、警戒しつつも、模擬戦での強さを知っているため、静かになった。
そして、夜。俺は閉鎖書庫での能力特化の訓練を続けた。
俺の新たな目標は、「獣人としての能力の最大化」だ。
『——【細胞活性】を『高速移動』に応用するんだ。全身の筋肉細胞をブーストさせて、瞬間的に音速に近いスピードを出せないか……!』
試すと、部屋の中で凄まじい風圧が発生し、体が壁に激突しそうになった。
「焦るな、ティオ。君の生命力は強靭だが、速度への魔力集中は神経系に過負荷をかける。段階的な制御が必要だ」
スノウは、研究者としての顔を覗かせた。
「君の獣人の体は、人間の知性と魔獣の生命力を融合させた体だ。この姿で魔力制御と身体能力を極限まで高めれば、この世界で最強の守護者になれるはずだ」
ある日の午後。スノウは、俺を連れて王宮の会議に臨んだ。
王族、高位貴族、騎士団長などが顔を揃える、王国の意志決定の場だ。レオン王子も、憎悪を隠しきれない顔で着席している。
会議の最中、レオンは挑発的に言った。
「スノウ殿下。その毛皮の護衛官は、会議の場で不躾ではないか? ケモノがこの場にいること自体、王家の威厳を損なう」
スノウは、静かに答えた。
「レオン兄上。ティオは、王室直属の護衛官です。そして、彼は人間の言葉を話す知性を持っています」
そしてスノウは、俺に向かって優しい声で言った。
「ティオ。この議題、君ならどう見る」
俺は、仔狼の耳をぴくりと動かし、立ち上がった。
毛皮の少年の姿は、会議室の重厚な空気の中で異質な存在だ。俺は、会議の議題となっていた『国境の砦の防衛強化案』について、解析鑑定で得た魔獣の生態知識と地形情報を組み合わせ、最も効率的な防御配置を提言した。
「……砦の南側は『風の魔獣』の移動ルートです。魔力を遮断する魔法障壁を地下に埋設し、魔獣の接近そのものを防ぐべきです。これにより、騎士の消耗を半分以下に抑えられます」
俺の的確な意見に、会議室は静寂に包まれた。騎士団長と一部の貴族は、その正確すぎる分析に、驚きと感嘆の表情を浮かべた。
レオンの顔は、屈辱で歪んでいた。
俺は、獣人として、この王宮で真の居場所と力を確立し始めていた。俺の新たな戦いは、「最強の獣人」として、スノウの王位継承を守り抜くことだ。
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