第三十二話:不完全な変化と王子の取引
ドォンッ!!
騎士団が書庫の封印を破り、「異端の儀式」の場に突入した。騎士団長の声が響き渡る中、俺の体は激しい熱と苦痛の中で、琥珀色の光の塊と化していた。
『——スノウ!ダメだ!魔力の制御が……!』
魔獣核から引き込んだ生命力の奔流は、騎士団の魔力的な乱入によって暴走し始めていた。このままでは、俺の「人間になりたい」という理性が魔獣の狂気に飲み込まれてしまう。
スノウは、俺の額に手を触れたまま、一歩も動かなかった。彼の銀灰色の瞳は、突入した騎士団長と、その後ろに立つ第二王子レオンを射抜いた。
「退け、騎士団長! これは王家の秘儀だ! 儀式を妨害すればティオが魔物に変わるぞ!」
レオンは、冷酷に笑った。
「面白い。魔物になるなら、第三王子の護衛獣としての厄介な立場は消える。続けろ、騎士団長! そこで何が行われているのか、王家として調査する必要がある!」
騎士団の魔力が一斉に魔獣核へと向けられた。
その瞬間、俺の変異が強制的に完了した。
「ギャアアアア!!」
俺の体から凄まじい魔力が爆発的に放たれた。書庫の空気は一瞬で歪み、騎士たちはその衝撃波で後ずさった。
光が収束したとき、そこには仔狼の姿はなかった。
俺の体が、人間の二本足で立っていた。
しかし、それは完全に人間の姿ではなかった。身長は150cmくらいで、まだ幼さが残る。全身は元の若狼と同じ銀灰色の毛皮に覆われ、耳は鋭い狼の耳、尻尾はふさふさとした尻尾が揺れている。琥珀色の瞳は、以前より鋭い光を放っていた。
(これが……俺の新しい姿?人間じゃない…これじゃ獣人だっ!)
これは、俺が「人間の姿」と「魔獣の姿」の境界で、不完全な融合を遂げた姿、獣人だった。儀式の妨害により、魂の再構築が途中で止まってしまったのだ。
俺は人間の言葉で、息を吐いた。
「くそっ……。あと少しで……」
完全に人間の姿ではなかったが、俺は言葉を話せる! これが、「人間の姿を取り戻す」という目標への決定的な第一歩だった。
騎士団とレオン王子は、突然現れたケモノの少年を見て、驚きに固まっていた。誰もが予想しなかった結果だ。
スノウは、その一瞬の硬直を見逃さなかった。彼は、立ち上がり、獣人となった俺を背後に庇い、決然とレオンに向かって宣言した。
「レオン兄上。ご覧ください。彼は種の壁を越え、人間の知性と魔獣の力を併せ持つ『王国の新たな力』となりました。この姿こそ今後の王国の守護を担う姿に他ならない!!」
レオンは、激しい怒りを露わにした。
「ふざけるな、スノウ! そのケダモノは、魔物だ! 直ちに処分しろ!」
「処分? 結構です。ですが、彼が真の英雄であり、王家の秘儀によって生まれた王国の守護者であることを、歴史に刻ませていただきます。そして……」
スノウは、懐から一通の書類を取り出し、突きつけた。
「兄上が、昨夜行った**『騎士団による辺境伯領への不当な査察の命令書』です。この書類を公表すれば、兄上の地位は崩壊**する」
スノウは、儀式を囮に、書庫の秘密を漁る間に、レオンの不正の証拠を探し出していたのだ。
「取引です、レオン兄上。ティオを『王室直属の護衛官』として正式に認めること。さもなくば、この命令書は国王陛下の下へ届きます」
レオンは、憎悪に満ちた表情で、獣人の少年となった俺と、冷徹な弟を見比べた。彼の野望と保身が天秤にかけられた。
そして、屈辱に顔を歪ませながら、勝利を掴んだ弟に絞り出すように言った。
「……わかった。そのケモノを、王室直属の護衛官として認める」
俺は、不完全な変化という代償を払いながら、スノウの政治的な勝利に貢献し、「人間の姿を取り戻す」という新たな戦いのスタートラインに立った。
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