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第二十九話:英雄の証明と、模擬戦の決行

 

 模擬戦は明朝。残された時間は一晩だ。


 スノウは執務室で軍事記録を調べ、俺に騎士団の戦術と精鋭の弱点を伝達した。


「ティオ。騎士団の精鋭は、連携に優れている。特に、『光の裁き』と呼ばれるLv. 8以上の光魔法を持つ者がいるはずだ。お前の【細胞活性】は物理的な治癒には優れるが、純粋な魔力攻撃には耐えきれない」


『——わかってる、スノウ。でも、俺には『光の裁き』を無効化するほどの防御スキルがない……。どうすればいいんだよ!』


 俺は焦っていた。Lv. 6の俺が、Lv. 8やLv. 9の騎士団の連携に勝つ術は、「解析鑑定」の予測しかない。


 スノウは、冷たい床に座り込み、俺の頭を撫でた。


「お前は、『姿を変える術』の基礎訓練をしたばかりだろう。魔力制御で、『体の一部を硬質化させる』ことを試せ。硬質化は、魔獣の防御スキルとしては一般的だが、お前の微細な制御を用いれば、ピンポイントで光魔法の直撃に耐えられる防御障壁を作れるかもしれない」


(魔力制御による硬質化!)


 これは、魔力制御の応用と防御スキルの自力習得を兼ねた、極めて難易度の高い特訓だ。


 俺は、部屋の隅でひたすら練習を続けた。魔力を皮膚の表面に極限まで圧縮し、硬質な膜を張る。失敗すると、魔力が暴走し、皮膚がピリピリと痛む。


 夜明けが近づく頃、俺の前足の爪が、岩のような硬さを持つ膜で覆われた。


 =======

 新たに【魔力硬化(部分)】を習得しました。

 =======


『——スノウ!できたよ!完璧じゃないけど、光魔法の一撃を逸らせるかもしれない!』


 スノウは徹夜で疲れた顔に、わずかな安堵の笑みを浮かべた。


「これで防御の盾は手に入れたな。あとは、お前次第だ、ティオ」


 朝。王宮の中庭にある訓練場は、既に数百人の騎士と貴族たちで埋まっていた。彼らのほとんどが、第三王子の護衛獣が惨めに敗北する様を見に集まった、野次馬だ。


 第二王子レオンは、高台の観覧席で、冷徹な笑みを浮かべていた。


 訓練場の中央には、五人の精鋭騎士が整列していた。彼らは全員がLv. 8以上で、隊長はLv. 9のベテランだ。


 スノウは、観覧席に座る前に、俺を地面に降ろした。


「ティオ。生き残れ。お前が勝つことで、私の運命も、王宮の空気も変わる」


『——任せて、スノウ!俺、絶対勝つよ!』


 俺は、仔狼の姿のまま、五人の騎士団精鋭に対峙した。騎士たちは、俺を見下し、侮蔑の念を隠さない。


 模擬戦の開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。


 五人の騎士は、一斉に連携体制に入る。二人が前衛で重厚な剣を構え、二人が側面から槍で突進。そして後衛には、光魔法の詠唱を始めたLv. 8の魔導騎士がいた。


 レオンの狙い通りの、ティオを瞬殺するための完璧な布陣だ。


(魔法が来る!狙いは俺の心臓!)


 俺は、【解析鑑定】で魔導騎士の魔力収束点を正確に読み取り、予測した。


「光の裁き(ホーリー・ジャッジ)!」


 魔導騎士から放たれた純粋な光の魔力が、俺めがけて一直線に飛来する。


 俺は、即座に【魔力硬化(部分)】を発動。前足の爪に、岩石よりも硬い魔力の盾を瞬時に作り出し、光魔法の直撃を横へ逸らした。


 キンッ!という魔力と魔力の衝突音が響き渡る。光魔法は逸れ、地面の石畳を大きく砕いた。


 騎士団と観客たちは、小さな仔狼がLv. 8の魔法を単独で防御したことに、静かな衝撃を受けた。


 しかし、時間はない。前衛の剣と槍が、俺の防御の隙をついて襲いかかってきた。


 俺は、【細胞活性】で瞬発力を極限まで高め、剣の軌道のわずかな隙間をすり抜けた。そして、トロール戦で磨いた急所狙いで、牙を、騎士の鎧の継ぎ目、人間にとって最も弱い箇所へ正確に叩き込む。


『——邪魔だよ!』


 騎士は、鎧ごと地面に叩きつけられ、呻き声を上げた。


 連携が崩れた瞬間、俺は仔狼の小さな体を活かし、次々と騎士の足元を狙った。彼らの重心を崩し、組織的な連携を完全に破壊する。


 最後に残ったのは、隊長のLv. 9騎士と、光魔法を外した魔導騎士だ。


 隊長は、俺を「危険な魔獣」と認識し、全魔力を込めた一撃を放とうと、剣を大きく振りかぶった。


 俺は、魔導騎士の二度目の魔法詠唱を許さないため、身体を盾にしながら、隊長の剣の真下へと飛び込んだ。


 隊長は、仲間を巻き込むことを恐れて、剣を振り下ろせない!


 その一瞬の躊躇を、俺は逃さなかった。俺は、隊長の足元の魔力循環を解析鑑定で読み取り、渾身の牙を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


 隊長は、魔力循環を断たれ、魔力を失い、その場に崩れ落ちた。


 ホイッスルが鳴り響き、模擬戦の終了が告げられた。


 五人の精鋭騎士は、誰一人として立ち上がれなかった。観客たちの間には、驚愕と興奮が入り混じった大歓声が湧き上がっていた。


 高台の観覧席で、第二王子レオンの偽善の笑顔が、怒りと驚愕によって完全に凍りついていた。


 スノウは、静かに立ち上がり、訓練場を見下ろした。


「見たか、兄上。これが、私の『護衛獣ティオ』だ。彼は実力の証明を果たしました」


 俺は、強くなるための第一歩を、王宮の権力争いの舞台で、鮮烈に踏み出した。

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