第三話:鉄錆の味と、罪悪感
(やった! 勝った! 俺の知恵の勝利だ!)
達成感は一瞬で、すぐに激しい罪悪感が太一を襲った。
彼は、自分が組み伏せた雄鹿の首筋から顔を離した。温かい血の匂い。彼の目の前には、太一の知恵と爪によって命を奪われた、一つの命がある。鹿は、琥珀色の瞳を見開いたまま、もう動かない。
(俺は……本当に人間じゃなくなっちゃったんだ……)
太一は、喉の奥で小さく唸った。その唸り声は、勝利の雄叫びではなく、人間性を失ったことへの静かな悲鳴だった。
この数日間、彼は飢餓に駆られ、本能に従って狩りを続けてきた。だが、初めて「知恵」を使って命を奪った今、その行為は彼自身の「人間である太一」の意識を深く傷つけた。
獲物の肉を貪る。それは、「生きる」という抗えない本能によるものだ。鉄錆と獣の熱が混ざり合った、血生臭い肉。しかし、その肉はコンビニのサンドイッチへの渇望とは比べ物にならない、原始的な力を彼の身体に与えた。
【レベルアップ!】
頭の中で、まるでゲームの通知ウィンドウのようなものが琥珀色の光と共に浮かび上がった。
(え、なになに!?この熱いの、やっぱりレベルアップってこと!?)
全身に熱い奔流が駆け巡る。先ほどまでの激戦で消耗しきっていた肉体が、瞬時に力が満ちていくのを感じた。
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Lv.1→Lv.2
生命力:回復
体毛密度:増加
身体能力:微増
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(うわ!これ、完全にゲームの画面だ!面白いな、おい!疲労が一瞬で吹っ飛んだ!)
彼の心は、この現象の「ゲーム的な面白さ」に一瞬だけ能天気に浮かれた。だが、その直後、冷たい現実が彼の興奮を打ち砕く。
「力」を得た。しかし、その力は、「人間性を失った」ことの証明のように感じられた。
(強い力は手に入れた。でも、これじゃ、ただの理性を持った凶暴な狼じゃないか。俺の望みは、人間として誰かと笑うことなのに……)
獲物の残骸から静かに離れた。その銀色の毛皮には、まだ生々しい血がついていた。彼は、清流で体を洗いながら、琥珀色の瞳を、森の奥深く――人間社会があるであろう方角――に向けた。
「グルゥ……(行きたい。でも、この姿じゃ、威嚇にしか聞こえない)」
孤独と絶望が、彼の心を支配する。そして、極度の疲労とこの状況への絶望が、彼の脳裏にこの世界に来る前の光景を、鮮明に、そして現実のように蘇らせた。
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