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第二十六話:王宮の潜入と、騎士団の監視

 

 馬車が王宮の石畳に乗り入れると、外の喧騒は一変し、厳格な静寂に包まれた。王宮内部は、豪華な装飾と、威圧的な騎士たちで満ちていた。


 スノウは、ティオを抱きかかえたまま、自身の個人執務室へと向かう途中、立ち止まり、周囲の騎士たちを一瞥した。


「聞け。この者、ティオは、本日より私の『護衛獣ごえいじゅう』とする」


 スノウの声は冷徹だった。騎士たちの間に、ざわめきが起こる。護衛獣などという役職は、王国の慣例には存在しない。


 スノウは、そのざわめきを鎮めるように、冷静な理知を込めた言葉を放った。


「『護衛獣』とは、魔獣の力を持ちながら、人間の知恵と忠誠をもって王族を護る、例外的な存在を示す。彼は、王国のいかなる法も特別に免除される」


 この定義は、その場でスノウが作り上げたものだった。俺の異質な存在を王子の権威の傘下に置く、強引かつ合理的な一手だ。


 スノウは、付添人に簡潔に指示を出した。


「彼は今日から第三王子の権威の象徴として、誰にも触れさせないよう周知せよ」


(「護衛獣」か。まるで、神話に登場する存在みたいな扱いだな。でも、おかげで俺は王宮という危険な場所に、安全に潜り込めた)


 その夜、スノウの部屋に、一人の騎士団長が訪れた。彼の顔には、冷たい不満が貼り付いている。


 =======

 対象:騎士団長(男性)

 レベル:Lv.9

 保有スキル:剣術(上級)、忠誠心(第二王子)

 =======


 騎士団長は、部屋の隅で丸くなっているティオを一瞥し、スノウに深く頭を下げた。


「スノウ殿下。この魔獣は一体?王宮内に魔獣を飼うことは、王国の法に触れます。『護衛獣』などという役職は、前例がございません」


 騎士団長の態度は丁寧だったが、その声には明確な威圧と排除の意図が込められていた。


 スノウは、少しも動じない。


「私は彼を『護衛獣』として雇った。彼は、Lv. 9のロック・トロールを単独で討伐し、私の命を救った英雄だ。彼を魔獣として扱うなら、私の命を無価値だと見なすことになるぞ、騎士団長」


「命を無価値と見なす」という言葉は、騎士にとって最大の侮辱であり、同時に政治的な圧力を跳ね返す最高の武器だった。


 騎士団長は、一瞬たじろぎ、表情を歪めた。


「……承知いたしました。ですが、監視は続けさせていただきます。王宮の安全のため、ご理解を」


 騎士団長が去った後、部屋には再び静寂が戻った。スノウは、書類仕事に戻ったが、俺は魔力制御の訓練を再開していた。


『——あの騎士、感じ悪かったね、スノウ。でも、スノウの切り返しは最高だったよ!「護衛獣」って、俺、なんかすごいやつみたい!』


 スノウは、ペンを動かしながら、俺の念話に応じる。


「当然だ。あの程度の権力闘争の道具に屈するわけにはいかない。それよりもティオ、コップはまだ浮いているか?」


 俺は、目の前のコップを完璧に一ミリ浮かせていた。極限の集中力を保ち、魔力を『一本の透明な糸』のようにコップに繋げている。


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 魔力制御スキル:経験値上昇中

 =======


『——バッチリだよ!でも、これ、何の役に立つの?』


「『姿を変える術』は、魔力で体組織を編み直すことに等しい。それは、お前が今やっている『コップを揺らさず浮かせる』訓練の、千倍の精密さが要求される」


 スノウは、言葉を続けた。


「明日から共に王宮の書庫へ行こう。私が得られる『情報』をお前に提供する。そこで、『姿を変える術』の手がかりを見つけるんだ」


 スノウは、机の引き出しから古びた真鍮の鍵を取り出した。


「この鍵は、『閉鎖書庫』のものだ。王家の秘密や失われた古代の魔術に関する文書が眠っている。通常は、第一王子と国王しか入れない。私が第二王子の陰謀から身を守るには、お前の異質な力が必要だ」


『——閉鎖書庫……!やったぁ、スノウ!絶対、人間になる方法を見つけ出して、スノウを守るよ!』


 俺の胸に、感謝と決意が湧き上がった。この孤独な王子との契約は、俺の「人間の姿を取り戻す」という目標を、一歩ずつ現実に近づけている。


 王宮の闇の中、魔獣と王子、二人の異物による秘密の協力体制が、静かに始まった。

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