第二十二話:絶望の知識と、新たな誓い
熱が落ち着いてきたので投稿します!
店主の顔から、商売人としての笑みが完全に消えた。俺はその細い目が俺(仔狼)を見透かしているように感じた。
店主はカウンターの奥から古びた分厚い本を取り出すと、静かに語り始めた。
「ふむ……。その話は、この街でも知る者が少ない、古い『渡り人』の記録だ。まさか、里の娘が知っているとはね」
店主は本を開きながら言葉を紡ぐ。俺はその一言一句を逃すまいと、全身の感覚を研ぎ澄ませた。
「数百年も前のことだ。嘆きの森の奥深くで、『空の穴』が開いて、別の世界から一人の人間が落ちてきた。彼はこの世界の理とは違う『奇妙な知識』を持っていたそうだ」
『別の世界から……!』俺の心臓が激しく脈打った。俺は、その渡り人にこの世界で唯一の希望を重ねていた。
「その渡り人は、生涯をかけて、『元の世界に戻る方法』を探し続けた。彼の目的はただ一つ、帰還だった」
店主はページを指でなぞった。
「彼は存在するあらゆる魔法、あらゆる古代の術を学んだ。そして、この記録に残された彼の『最後の言葉』はこうだ」
店主は声を落とした。
「『この次元の扉は、一度閉じれば、二度と開くことはない。帰還の術は、存在しない』。彼はそのままこの森に骨を埋めたそうだ」
帰還の術は、存在しない——。
その言葉は、俺の頭の中で鈍い衝撃となって炸裂した。俺の唯一の目標だった「元の世界への帰還」が、数百年前の先達によって完全否定されたのだ。
(嘘だろ……。俺の目的が、最初から存在しないものだったなんて……)
絶望が、冷たい泥のように仔狼の小さな全身を包み込んだ。俺は店の床に座り込んだまま、念話も送れずにいた。
店主はミィナに言った。
「まぁ、あくまで伝説やおとぎ話の類かもしれないさね。さあ、もう帰りなさい。」
ミィナに抱きかかえられ、人通りの少ない路地裏に出た。ミィナは俺を強く抱きしめている。
「太一、大丈夫?」
俺は、しばらく沈黙した後、深く息を吐き出すように念話を送った。
『——ミィナ……聞いてくれるかい。俺は、元は別の世界の人間だったんだ…。だけど「元の世界に戻る」という目標は、もう諦める』
ミィナは息を飲んだ。
『——だが、俺にはもう一つ目標がある。それは、「人間の姿に戻ること」だ。』
俺はミィナの腕の中で、冷静な思考を呼び戻した。
(完全な人間への回帰は、現状ではあまりに遠い。だがスキルの可能性は大きい…。きっと人間になれるスキルだってあるはずだ。)
『——俺は、いつか人間になる術を習得する。』
『——俺の「鑑定」と「スキル」の力があれば、必ずその術を完成させられるはずだ。それが、この世界で、俺が「人間」として生き残るための道だ』
絶望は、俺の目標を精査させた。「人間の姿に戻ること」という唯一の最終目標を胸に、そのための具体的な手段として「姿を変える術」の習得に、俺の全てを集中させることになった。
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