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第十四話:病の解読とスキルの可能性

 

 夜明け前。約束通り、川辺でミィナと妹が待っていた。三歳の妹、リゼという名らしい。肌は青白く、額には熱で汗が張り付いている。腹部は、服の上からでもわかるほど不自然に膨らんでいた。


『——よくやった。ミィナ、少しだけ離れていろ』


 緊張が走る。初めて鑑定を人間に使う。リゼの小さな体に、琥珀色の瞳を集中させる。意識の全てをリゼの「状態」へと向けた。


 能力、発動。


 リゼの頭上に、白い文字が浮かび上がる。


 =======

 対象:リゼ(3歳)

 状態:衰弱(極度)

 病因:寄生蟲病タスクワーム

 影響:腹部膨張、臓器機能低下、高熱

 進行度:末期(残存生命力15%)

 =======


 寄生蟲病。末期。


 絶望的な真実が、頭の中に冷たく叩きつけられる。残された時間は残り少ない。


 だが、必要な「治療法」が分からない。


 必死に鑑定結果の奥を覗き込もうとする。意識を集中させ、現象の核心を掴もうともがく。


『——必要なのはなんだ……?』


 意識を集中するほど、頭の中の情報がノイズを立てる。白い文字が波打つように揺れ、最後に一つのメッセージが浮かび上がった。


 =======

 情報不足。詳細な鑑定には能力の進化が必要です。

 =======


 壁だ。 鑑定という力が、明確な限界を突きつけてきた。病気の原因は分かっても、治療法までは教えてくれない。


(能力の進化?どうやって進化させるんだ……?)


 その時、太一は、タスクボアを倒した直後の興奮状態で意識の外に追いやってしまったスキルポイントの通知を思い出した。


 太一は、すぐさま自分自身に琥珀色の瞳を向けた。魔獣を鑑定するように、自身の「状態」を問う。


 その瞬間、頭の中に自身のステータスが展開された。


 =======

 名前:太一

 種族:ウルフ

 レベル:6

 スキルポイント:3

 保有スキル:念話・魔力制御【体表強化】・鑑定(進化可能!)・身体サイズ自由変形(若狼サイズまで)

 取得可能スキル:(+)

 =======


 タスクボアを倒した時に通知があったはずの「スキルポイント」が、はっきりと可視化されていた。


 スキルポイント? 初めて見る文字だ。今までレベルが上がった時はそんなものでなかったのに。Lv. 3からLv. 6へ一気にレベルが上がった為か、別の理由があるのか分からないが…。


「鑑定(進化可能!)」という文字が、他のスキルと異なり、熱を帯びた赤色で点滅している。


 これだ!


(このスキルポイントを使って、鑑定を進化させるんだ!)


「鑑定」の項目にスキルポイント(3)を全投入する。


 体内の魔力が、再び熱い奔流となって頭部に集中する。一瞬の激しい痛みの後、頭の中に新たな通知が浮かび上がった。


【鑑定が進化しました:解析鑑定アナリシス・アイ

【スキルポイント:0】


 太一は、すぐさまリゼに琥珀色の瞳を向け、改めて解析鑑定アナリシス・アイを発動させる。


 リゼの頭上に浮かび上がった情報は、先ほどとは違い、単なる病因だけでなく、病原体の詳細な弱点、そして有効な対処法が、知識の奔流として流れ込んでくる。


 =======

 推奨治療薬:火照り草(高熱性毒)、青い苔(麻痺毒)

 備考:微量配合し、タスクワームの体表機能を麻痺させ、熱性の毒で殺す

 =======


 治療法がわかった!


『——ミィナ、よく聞け。妹さんの病気は、体の中に「蟲」がいるせいだ』


『——蟲……!?』ミィナの声に、動揺と恐怖が混ざる。


『——ああ。そして、それを殺すための「薬」もわかった。』



 解析鑑定アナリシス・アイで見た目や分布もわかった。

太一は、安堵と確信を込めて念話を送る。


『——必要なのは二種類。「火照りホテリグサ」。赤い小さな実がなる植物だ。もう一つは、「湿地帯の青いアオゴケ」。毒だが、微量なら蟲を殺す作用がある』


 ミィナは、太一の異様な知識と確信に満ちた口調に、疑問を抱く余裕はなかった。彼女の頭の中にあるのは、妹の命だけだ。


『——わかった!どこにあるの、その草と苔は!?』


『——「火照り草」は、森の奥深く、「鉄の匂いがする岩場」に生えている。「青い苔」は、森の西側、「水が澱んだ湿地帯」だ』


『——待て。一人で行かせるわけにはいかない』


 太一は、すぐさま若狼サイズに体を膨張させる。妹の命は救える。あとは素材を手に入れるだけだ。


『——俺がお前を案内する。だが、一つだけ約束しろ。俺の指示には、「絶対」に従え。道中安全とは言えない。』


 ミィナは、大きく頷いた。不安と決意が、その小さな顔に混在している。


『——わかった!太一の言う通りにする!』


 太一は、リゼの小さな体を一瞥した。残存生命力 15%。時間がない。


 この知識と力は、ただ生き残るためだけじゃない。誰かの命を救うためにこそ、使われなければならない。


 ミィナは自身の体にリゼをしっかりと固定し、森の奥深くへ、ミィナと若狼が一組の影となって駆け出していく。太一の獣の力と人間の知恵、そしてミィナの人間としての切実な希望が、ここに結びついた。


 嘆きの森の奥で、異世界の生存競争は、新たな局面を迎える。

お読み頂きありがとうございます!


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