Ep5 なら、全員ぶち殺しても構わないよな?
「さて、どれから奪っていくか」
ルーシは無法者らしい邪気あふれる笑みを浮かべ、次の一手を考える。
「ねぇ、そんなまどろっこしい真似しなくても、ヘリ奪って施設にぶつけてしまえば良くない?」
「はぁ? そうしたら、中にいるホープってヤツも死ぬだろ」
「大丈夫。ホープが監禁されてる部屋は、特殊合金を使った頑丈な場所だから」
「あぁ、そうかい」ルーシは腕を頭の後ろに回す。「なら、自動操作機能付きチョッパーだな。しかし軍基地に忍び込むのは危険すぎる」
「ヘリなら、ちょうど今、街の南にある民間ヘリポートに3機停まってる」
メリットは、メガネをかけ直しながら続ける。
「昼こそ警備は厳重だけど、夜になるとふたりだけしか警備員がいない。そしてそのヘリのひとつが自動操縦機能つき」
「詳しいな。偵察済みってわけ?」
「そんなところ」
「なら行こう。夜しか空いていないんだろ?」
ルーシとメリットはホテルから出て、近くにあった手頃な車のロックをピッキングで解除した。警報も鳴らず、ルーシは運転席へと座る。
「アンタ、車泥棒よ」
「良いじゃないか。これから私たちは、ヘリ盗んで聖女を閉じ込める施設に突入するんだ。車泥棒くらい、罪に問われないよ」
*
街の南までたどり着いた。ルーシたちは暗闇の中、車を海へ捨てる。
「一応証拠隠滅しておかなきゃ、だな」
「そうね」
「さて、ヘリはどこだ?」
「もう音で異変に気がついた連中がいるみたい」
「ちょっとなぶってくる」
ルーシは拳をボキボキ鳴らしながら、海辺のほうへ向かってくる警備員に浮いている黒い羽を突き刺す。
「あー、眠っていてくれ」
そう呟くと、彼らは気絶したかのように眠り始めた。ルーシは警備員たちを後目に、メリットに手招きする。
「行こう。夜なら、施設とやらの警備も手薄になっているはず」
「えぇ」
*
パラシュートがふたつあった。ルーシは仕事柄何回か使ったこともあるが、メリットはどうだろう。
「オマエ、パラシュート使えるの?」
「説明書どおりにやれば大丈夫」
「おもしれぇ女だな」
「アンタのほうがよっぽどおもしれぇ女よ」
こうして、ルーシはまっすぐヘリが進むように設定し、先にパラシュートを担いで空へ飛び出るのだった。
落下傘を開き、順当に着地する頃、
爆発音と熱波がこちらへ近づいてきた。しかし着陸自体には問題ない。ルーシたちはクレーンで開けたような穴が広がる施設へと入っていく。
「さて、武器の匂いがするぞ」
「あんなえげつない魔法使えるんだから、武器なんて必要ないでしょ」
「魔力切れという概念もあるだろ? 備えあれば憂いなし、ってな」
侵入した場所は、施設の1階だった。ルーシは早速備え付けられていたグレネードランチャーつきアサルトライフルを持って、末期的な混乱に陥る施設の中を歩いていく。
「ホープってヤツはどこへいる?」
「私の調べだと3階」
「もう階段しかないよな」
「分かってる」
非常階段を使い、ルーシたちは敵と遭遇することもなく3階へたどり着く。
だが、なにかが怪しい。トラップでも仕掛けられているように。そう思いながらドアを開け、ルーシは目を見開いた。
「なんじゃこりゃ」
大量の警備員が、火傷覚悟で3階に待ち構えていた。
ソイツらは、ルーシを見つけた途端ライフルを乱打してきた。
「いや、コイツらはヒューマノイド・ロボット。人権の適用されない人間よ」
そんな中、メリットがドームみたいなシールドを作り、銃弾を逃れる。
「なら、全員ぶち殺しても構わないよな?」
「連邦法だと、ヒューマノイドに対する殺人を裁く法はない」
「よし」
びゅぅぅん……という音とともに、ドーム型のシールドらしき現象は消えかかっている。
ルーシはグレネードを構えた。