Ep2 たかが6人で〝おれ〟の首をとれると思われたのは、屈辱以外じゃ表せねぇよ
「なにか用ですか? チンピラさん」
ルーシは、いきなり喧嘩を売りに行った。今のルーシは、銀髪碧眼で聖女という良く分からない肩書きがあるだけなのに。
「そう挑発してくるなよ。こっちとしちゃ、アンタの身柄抑えられれば良いんだからよ」
「そう言われて黙ってついていく馬鹿がいるなら、見てみたいですね」
背広から拳銃を取り出し始めた。ルーシは6人の男に銃を向けられ、絶体絶命に陥る。
「一発だけなら誤射になるかね?」
「さぁ、撃ってみれば良いじゃないですか? ヘタレさん」
パシュン!! という発砲音とともに、ルーシの髪の毛を銃弾が掠める。
「次は外さねぇぞ?」
「ッたく……、舐められたな」
「あァ?」
「たかが6人で〝おれ〟の首をとれると思われたのは、屈辱以外じゃ表せねぇよ」
瞬間、ルーシはまだ火種の残っているタバコを一番近くにいる無法者へ投げた。
アチッ! と見事な反応をしてくれると、ルーシは彼からハンドガンを奪い、それと同時に敵の手付近に連射した。
ルーシはリーダー格に銃を向ける。「大人しく帰れ。秘密警察が来ても知らねぇぞ?」
「けッ、警察に追われるのはオマエのほうだろ」
「減らず口叩きやがって」
ルーシは、拳銃を長袖Tシャツとベルトの中に無理やりしまい込む。
「だいたい、オマエらに用はない。こっちは大使館に逃げ込むしかないんだから」
そう言い残し、ルーシはWi-FI探しの旅に戻るのだった。
*
「ない、ない、ないぞ」
やっぱりこの国、インフラが整っていない。すでに夜になったが、未だフリーWi-FIも見つからず、このままだと路上寝する羽目になりかけていた。
「無理、路上生活なんて耐えられないでしょうよ」
とはいえ、現実的にとれる手段は限られてくる。ルーシは、歩道のベンチに座って疲れた足を休め始めた。
「んでよ~、その日本人の女の子に〝サムライ〟とか〝ニンジャ〟とか言ってたらベッドインできてさ~」
「親分、顔良いですからね」
「いやー、あの子可愛かったな~。手にリスカ? があって不気味だったけど──んん?」
「どうしました、親分」
「おい、そこの姉ちゃん」
ルーシは即座に立ち上がり、ベルトの間に挟んだ拳銃に手を伸ばす。
「おいおい!! 敵意があるわけじゃない。オマエら、抜くな」
「へい」
ルーシは怪訝な表情になる。「なんの用だ?」
「オマエさん、聖女だろ? ちょうど良い。行く宛ないなら、おれのところ来ねぇか?」
「……は?」
「説明が短すぎたか? おれはクール・レイノルズ。この国でもっとも高貴な血を引く男であり、実業家でもある。姉ちゃんの名前は?」
気の抜けた態度にルーシも少し安堵感を覚えたのか、リラックスした態度で言う。
「あぁ、ルーシだ。聖女でもあるし、酒で酔い過ぎてここへ来てしまった大間抜けでもある」
「酔い過ぎた? そりゃオマエさん、転生したってことだろ」
「はぁ? ……まぁ、前の世界にアンゲルスなんて国なかったけど」
「おもしれぇ女だな。なら、説明してやるよ。ただし、連中の耳が届かないところでな」
クールは近くの高級リムジンを指差す。それに乗れ、とのことだ。乗ったルーシは、葉巻やシャンパンの置かれている車内でクールと面向き合う。
「どこから説明すれば良いんだかな」
「聖女を国が徴収しているのは聞いたぞ」
「あぁ。それを知ってるのか。なら説明しやすいな」クールはシャンパンを開け、飲む。「アンゲルスはこんな街並みだけど、実のところ世界でもっとも先進的な民主主義国家なのさ」少し面食らうルーシへニヤリと笑う。「ただ、問題も多い。アンゲルスはイギリスのすぐ下にある島国だけど、NATOにも欧州連合にも入ってない。そのわけは……」
「アンゲルスが聖女という〝武力〟を保持する危険国家だからか?」
「頭良いね。その通りだよ。今の政府はEUやNATOに加盟したがってる。そのためには、聖女をまとめる必要があるってわけ」