転生御者の聖地巡礼
私の上司は同じ趣味を持つ仲間でした。
私の名前はアンビル。
転生者だ。
私の趣味の一つに聖地巡礼、というのがある。私の前世の記憶によると聖地巡礼は映画やアニメでモデルとなった地へ趣き、その登場人物たちのことに思いを馳せる、というような意味でつかわれる言葉である。まぁ、本来の聖地巡礼はもっと違った意味ではあるのだが…。
それは置いておいて。
私の聖地巡礼の元ネタは、ズバリ、都市伝説である。
休みになるたびに都市伝説の聖地巡礼をしていたのだが、そのことを御者ギルトのマスターのヴァレン・ノクス(通称:ヴァル)にバレてからは、二人で聖地巡礼をしている。ヴァルも都市伝説が大好きな御仁だったのだ。ノリノリについてくるし、私の休みをヴァルの休みと合わせてくれるようになった。
そして、今はそのヴァルと一緒に都市伝説の地に来ているのだ。
ちょっとテンションが上がっております!!
今回の都市伝説というのは、こういう話だ。
遥か北の凍てついた地に「月を喰らう城」と呼ばれる廃墟があるという。
その城はかつて、天文魔導士たちの研究拠点だったが、ある満月の夜、城全体が空に浮かび、そのまま月に重なるようにして消えたのだとか。
以後、満月の夜になるとその城の幻影が空に浮かび、魔導士たちの哀しげな詠唱が風に混じって聞こえるという。
そして、それを見上げた者は「月の裏側に連れていかれる」と言われている。戻ってきた者はいない。
というような話だ。
当然、遥か北の凍てついた地なんてかなりの場所があるが、魔導士たちの研究拠点があったとなると数か所に絞られる。
私とヴァルと話し合った結果、北方のノルゼ=アルグレアに築かれていた魔導の要塞がその研究拠点だったのではないかと仮説を立てて、この地へ来たのだ。
「寒い…」
当たり前のことを言うヴァルに私も無言で同意する。
寒いのだ。
到着したのが夕方だというのも、この寒さの後押しをしているような気もする。
目の前には氷雪の大地が広がっており、早い話吹雪いているのだ。
観光名所でもないこの氷雪の大地に来るにあたり、山小屋のような拠点は押さえていたもののどうしても、早くその現場を見たいという願望が押さえきれずにここまで来たのだ。
私たちは、吹雪く光景をみたことで、冷静になり「とりあえず拠点に戻って、天候が落ち着くのを待とう」ということになったのだ。
私は先程伝えた通り、転生者だ。しかも転生ボーナスで補助系魔法チートなのだ。
このことはヴァルには伝えてはいないが、補助系の魔法が得意だということはヴァルも知っている。
ヴァルも魔法は使えるらしいが、その能力値は私も把握はしていない。
本人曰く「日常生活に困らない程度に全範囲網羅している。が、補助系はお前には敵わない」とのこと。
ヴァルは今年で27歳、まぁ整った顔だちをしているが、それよりも何よりも195cm越えの長身が特徴だ。大勢がいるところでの目印にちょうど良い。
私は今年で二十歳で、175cmであと5㎝の身長が欲しい願望がある。
拠点に着くと、私たちは無言で準備をする。復路を考えた場合、ここに居れるのは2日半といったところだ。
「この吹雪がどのくらいで落ち着くか、だよなぁ…」
ヴァルが不安そうに窓を見る。
「明日も吹雪くようなら近くにあった町で少し情報を仕入れるのもアリかもしれないですね」
ヴァルの同意を受けて今日はそのまま近くの酒場へ行くことにする。
寒い地域の酒場には強い酒がある、というのはどこの世界も同じなのか、アルコール度数が強い酒が多い。
拠点から一番近いところにあった酒場に入る。中は人が8割ほど埋まっていて、温かい。
にぎやかな雰囲気は、その土地の治安の良さを示している、と思っている。
お店の女将さんも、隣に居合わせただけの町の人も皆フレンドリーなようだ。
ちなみに、私は人見知りな部類に入る。
以前は体質的にアルコールの分解が下手だったが、こちらの私はアルコールにそこそこ強い。クワまでは行かないがざるに近い。ちなみに、ヴァルはクワだ。
そこで隣に座っていた親父から聞けた話に面白い話が少し聞けた。
こんな観光地でもないところに来た若者二人に店全体が興味津々のようだ。
曰く、この地には昔「星見の塔」と呼ばれる天空魔法の研究拠点があったそうだ。
それが月を喰らう城で出てくる研究施設のようだ。天文の研究ではなく、気候という自然のコントロールを研究する施設だった。
この土地の年の半分以上が極寒の土地で気候の研究は大いに歓迎されたらしい。
星見の塔、という名は初代の所長が天体を見るのが好きで着けたらしい。
何ともロマンチストだ…。
このような都市伝説のような話が出始めたのは数年前。
町に来て日用品を買ったあと、よく酒場に酒を飲みに来ていた研究者たちが突然誰一人として来なくなったのがきっかけだった。
それまではなんやかんやと町の人との交流があったのだが、吹雪の強い時期は訪問が途絶えることもまれにあったらしく、誰も気にしていなかったらしい。
が、吹雪が弱くなると蜃気楼のように見えていた星見の塔がどんなに晴れていてもきれいさっぱり見えなくなったのだ。
そして、その前後に「研究員が来なくなった頃に月に浮かぶ星見の塔を見た」という人が数人現れ、今の都市伝説が出来上がったらしい。
ちなみに、その星見の塔から町までは天候の良いときであれば歩いて15分程度。
星見の塔は町の外に建てられた建物らしく、研究者たちは生活必需品をこの町で調達すること、何かしらの荷物を星見の塔まで届けたりとしばしばあったようだ。
陽気に現地の人と酒を飲みかわすヴァルのコニュ力に圧倒されつつ、私も疑問に思ったことを口にした。
「その月に浮かぶ星見の塔を見たといわれる時期に、何か音を聞きませんでしたか?」
「音かぁ。いつも吹雪いていると聞こえるもんも聞こえないからなぁ…」
「それは、まぁ確かに…」
「あぁ、でもこの音なら明日は吹雪も収まると思うぞ」
「そうなんですか?」
町の人は吹雪の音で明日の吹雪き具合が分かるのか?それはすごい。
素直にそんなことを思っていると、そういえばと赤ら顔におやじがヴァルと私の方を見た。
「音は聞こえなかったが…月に浮かぶ星見の塔を見た日、吹雪が収まると思っていたのにその予想は外れちまったなぁ〜。ここ数年あんなに荒れた天候は無かったよ。あれは正直、俺の人生の中で一番のはずれだったなぁ」
「…よく覚えていますね」
ヴァルの言葉にその親父はこともなげに言ったのだ。
「あぁ。俺も月に浮かぶ星見の塔を見たからな」
私とヴァルは同時に絶句して、親父の顔をマジマジと見入ってしまったのだった。
翌日、酔っぱらい親父の予言通り、吹雪は収まっていた。
私とヴァルは星見の塔があったといわれている場所に向かった。
地元の人はそこに行く、という発想がなかったらしく、またここまでやってくるもの好きがいなかったので、当時のままの状態で保管されているようなものだった。
なんか面白いもん見つけたら教えてくれや。うまくすれば観光名所になるかもしれんからな
とガハガハ笑って言っていたので、この町の人は元来陽気な方が多いようだ。
私がそこに近づくと、魔法の残滓を感じていた。
私の表情が険しくなったのが見えたようで、ヴァルが声をかけてくる。
「何か感じるのか?」
「かすかな魔法の残滓を。数年たってこれだけ感じるって相当大きな魔法が使われたんだと思います」
「そうなのか??俺はまだ何も感じないな…」
ヴァルは目の前に広がるその空間を見つめている。
私たちはお互い無言で跡地に到着する。
「確かに…言われたらかすかに残滓を感じはするが…お前どんだけ繊細なんだよ…」
ヴァルからの言葉に私は答えることが出来ない。
私の目の前にはかつて存在していたであろう要塞が半透明の姿で存在しているのだ。
跡地に残っていたものと一致して見えるのでおそらくこの要塞が星見の塔だろう。
「目の前に星見の塔がある」
過去の記録だ。おそらく、星見の塔の記録データが私とヴァルの魔法に反応して、跡地のどこかに残っている記憶媒体が反応したのかもしれない。
「記録…されているのか?」
私の言葉に絶句していたヴァルがようやく口にした言葉に私は頷く。
こういった研究機関には記憶媒体はほぼないが、要塞には記憶媒体の設置が義務付けられている。
この建物は要塞として使われていたものを再利用したか、のちのち要塞として活用する予定だったのか。
私とヴァルは記憶媒体を探すことに。要塞なのであれば複数の記憶媒体を設置するものらしい。その一つが私に画像を見せているのだろうとヴァル。
ヴァルは戸惑うことなく跡地の一番残骸の多い場所に向かい、そこで記憶媒体を見つけた。
要塞の画像を私が見てから30分後の事であった。
一般的に記憶媒体装置は、魔力を補充するか、決められたワードでアクセスすることが出来る。
今回は当然のように魔力の補充を行う。こういった場合の魔力の相性は関係ないと言われている。
設置場所も瓦礫の中だったこともあり、少しは寒さは凌げる。風を感じなくなったのはデカい。
私とヴァルはそこに写された画像を見ている。音は完全に故障していたのか再生できたのは映像だけだった。それもかなり損傷が大きいみたいで、画像も飛び飛びだ。
何とか問題が起こった時の画像が残っていればいいのだが…
そんなことを思っていたのだが、杞憂ではあった。
「重力制御魔法の研究だったのか…」
私の呟きにヴァルは一瞬、嫌そうな顔をする。
目の前の映像は重力制御魔法の実験中のようで、数人の研究者たちが重力制御装置に魔力を送っている映像が映ったのだ。
天候の制御魔法ではなく、重力の制御魔法の研究所だったのか。
確か天候と重力は反転関係にある魔法だったよな、と私はぼんやり考えていた。
私もその制御魔法を感じていたのに、途中で別の制御魔法を微かに感知したのだ。
「これは…重力制御魔法と…あと一つ…。なんだ…??」
私は呆然と呟く。
「星見の塔が……上っている」
私と同じ映像を見ていたヴァルが私の言葉に反応する。
私には、目の前の映像とは別に重力制御魔法で上昇し途中で別の制御魔法が追加されて暴走していく要塞が見えているのだ。
相対空間機能が破壊されたのか、要塞はゆっくりと左回りに回転している。
目の前の映像もそれに合わせて研究者たちが左右に揺さぶられている。
二つの映像が同時に入ってきて、私のキャパを超えてしまいそうになる。
「アンビル。画像は見るな。お前は残滓に集中しろ」
混乱しかけていた私の状況を理解できたのか、ヴァルの手が私の目を覆う。
その瞬間、複数のアクセスが遮断されたのを感じた。
映像は消えたが、残滓はそのまま私の鼓膜の裏に星見の塔を映している。
「見ているものを説明しろ」
いつものヴァルからは想像できない冷静な声音に私の散漫していた意識が元に戻る。
「回転しているゆっくりと左回り。私の位置からはかなり上がっているのが見える。月とほぼ同じ高さまで上がった」
「こっちでも研究者たちが制御しようとしてるな」
「あ…。星見の塔の動きが止まった」
「制御が成功したのか?」
「……違う。別の制御魔法が発動した」
私の見ている光景は月と同じ高さまで上がった星見の塔を中心に突然吹雪が発生したのだ。
「…天候制御魔法?」
「はぁ?」
私の言葉にヴァルが反応する。
「重力制御魔法だけでもコントロールが大変なのに、なんで天候なんてコントロールが難しい制御魔法発動させてんだ!?」
「重力を反転させて止めようとした?無理やり発動させた魔法が天候制御魔法??」
「そんなもん常識だろう…が……って、その法則ってここ数年の発明だったよな…」
「…反転魔法が同時に起こった場合って…」
「爆発、だな」
私の見ている光景も星見の塔の爆発が起き、突然の吹雪がさらに狂暴になっていく。
数秒で届くその衝撃に身を竦ませているとヴァルの手が目の前から消える。
同時に目の前の映像が星見の塔の瓦礫となり、私は思わずその場に座り込んでしまった。
どうやら私は息を止めていたらしく、ゆっくりと息を整える。
「どうやら都市伝説の前半の真相は実験中の暴走、ってところみたいだな」
座り込んでしまった私にヴァルは私の方を見ずにそんなことを呟いた。
「前半?」
ヴァルの言い方に違和感を感じ、ヴァルを見上げるとヴァルは未だに記憶装置の方を見ている。私もそれを追うように記憶装置に目を向ける。
そこには同じように瓦礫になった映像が続いていたのだ。
そしてその映像には、研究者と同じような服を着た数人の人が何か話している。
ヴァルの表情が険しくなる。
「ここから先は大人の事情なんだろうな。ここに近寄らせたくない連中が後半の話をくっつけてそれらしく噂にしたってところか」
「なぜ?大人の事情って…」
私の言葉が尻つぼみになる。それに気づいたヴァルが苦笑と共に答える。
私が大人の事情に気付いたことに気付いたのだろう。
「反転魔法のことが大きく取り沙汰されはじめたのは、ここ数年。そのこと自体は大きな発見でもあったが、その背景にあったものがこれだけ大きな事件だったってのはさすがに表に出せなかった、ってところだろうな」
「隠ぺいしてなかったことにした…と」
「多分、それが真相だろう」
何とも後味の悪い真相ではある。
私は無言でうっすらと見えている本物の月を見上げる。
「でも、あの親父さんの天候の予測能力はすごいな。外したって言ってたけど、それも魔法の暴走が外れた原因だっただけなんだからな」
ヴァルのちょっと疲れたような言葉に私は思わぬことを聞かされて、私は気が抜けたのか爆笑してしまったのだった。
いきなり笑い出した私を変なものを見るかのように見ていたヴァルは、笑いが収まって立ち上がる私を見て、少し考えたあと
「まだ昼前だが…飲みにいくか」
とダメな大人代表のようなことを言ってきたのだった。
私とヴァルは翌日には復路のため馬車の上にいた。
散々飲み倒した私たち二人が、二日酔いもせず馬上の人になっているのを化け物のように見送った酒屋の女将さんは今回の聖地巡礼での一番の被害者なのかもしれない。
うっすらあった、上司と都市伝説で盛り上がるアンビル、という構想にいろいろくっつけてみました。世界観的にネットが使えないので、実際に現地に行って不思議体験をするというトンでもストーリーでした。
前作では評価ありがとうございました。
まさか評価が入るなんて!とってもテンションが上がりました!!




