9-8 君がくれた物
トマトトタマゴイタメターノ。
……その名の通り、ゴルリ君に追加で持ってきてもらった、角切りにしたトマトを卵を炒めた奴で、メディの得意料理。俺はそれでチキンライスを包んだものを、コックさんに差し出した。
「ご、ご主人様、これは……」
メイドさん達が観客のキッチンスタジアム、メディが少し驚きの表情を浮かべるけど、俺は彼女には応えない。
そうしている内に、コックさんがスプーンで、俺のオムライスをすくって、口へと運んだ。
咀嚼してごくりと喉へ下した後、
「美味しいし、面白い」
その口から、そんな言葉が漏れた。
「トマトトタマゴイタメターノ、私もまかないでよく作る料理です。けれど、これをオムライスにする発想はなかった。いえ、おそらくどこかの誰かが作っているとは思いますが、私にとっては新鮮です」
そう言って、もう一匙口に運んでくれる。
「……正直な所を言えば、全体的なレベルはメディさんにとても及びつかないものではありますが、楽しさという意味で言えば、上回ってます」
コックさんは、俺に笑いかけて、
「どうして、このような工夫を?」
そう言ってきた。
「……俺、少し前まで、美味しいが何かって解らなくて」
「――あっ」
俺の語りに、メディがハッとした顔になる。
「正直、今でも俺の舌は鈍いです。自分自身で、"美味しい振り"をしているだけかもって、不安になる時もあります。だけど、この料理は」
そこで俺はメディの方を見て、
「自信をもって、美味しいって言えるものだから、スキルとか関係無く、俺に生きる意味を与えてくれたものだから」
彼女に告げるように、
「この場で、出したかったんです」
言葉を終えた。
「……ご主人様」
そう、また、俺のことを呼んでくれるメディの表情は、決勝開始の時と違って、少し色があるもので。
――これが俺のせいいっぱいだ
スキル無しで、まともに戦っても、メディに勝てる訳がない。だからせめて、自分が一番美味しいとおもうものを、皿の上に気持ちと一緒に乗せた。
俺にとっての幸せは、スキルを与えられたことだけじゃなくて、
――メディが傍にいてくれたから
そのことを、勝つための力にしたくて。
そのことを伝えたいように、俺はメディをじっとみつめて――
「ひゃわ~っ!?」
えっ?
……こ、この、間の抜けたような、それでいてどことなく、気持ちよさそうな悲鳴は、
まさかと思いながら、メディと一緒に振り返れば、
「んぅ、君の血も美味しいし☆」
「カミラがオムライスを片手にしながら、|女《メカクレおさげ清楚ツンデレ》のメイドさんからまた吸血してる~!?」
という、状況だった。え、ちょっと待って、今のカミラ【調理】スキルをもうコピーしてるだろ!? この上何を追加したんだ!?
血を吸われた後、気持ちよく震えているした女性メイドさんから離れたカミラは、そのまま、オムライスをテーブルの上にのせた。
「審査、よろ~☆」
満面の笑顔を浮かべるギャルメイド、戸惑いながらコックさん、スプーンを持ったけれど、
「あ、ちょっと待つし☆ まだ魔法をかけてないし☆」
え、魔法?
いきなり何を言い出してるんだ、と思ったけどカミラは、俺とメディの方を向いて、
こう言った。
「【催眠】スキル――〈|ヒプノシスアイズ《言葉が魅力を持つことになった世界》〉!☆」
「え、なん――」
その瞬間、
「へ、ふへぇ!?」
な、なんだ、あ、頭がぼ~っとしてグルグルする!?
「カ、カミラさま、なにをされたの、ですかぁ!?」
メ、メディもおんなじような感じだ、もしかしてこれって、スキル通りの催眠状態!?
「ふふふ~☆ これでアルっちもメディッちもあーしの言うとおりに動くし☆」
いやいや、なんでそんな強力なスキル持ちが、メイドさん達の中に紛れていたの!?
「貴様、それは俺様の【支配】スキルのパクリではないか! 著作権料を寄越せ!」
「お静まり下さい我が王」
騒ぎ立てているエルフリダ様と、それを諫めるカバン様の言葉もどこか遠い、というか、著作権なんて概念この世界にあったっけ。
ともかく、ざわつく会場、ビックリした様子の画面の中のワクモフンさん、そして、一番面食らっているコックさん、
そんな中でカミラは淡々と、
「それじゃ魔法をかけるよ~、ふたりとも、あーしの真似をするだけでいいし☆」
ま、真似、一体何をする気だ? オムライスにかける、メイドの魔法?
――まさか
そ、それは、やめ!
「美味しくな~れ☆」
――俺の願いも届かないまま
カミラは、両手の親指と人差し指でわっかを作って、
それを胸の辺りにもっていって、上側にした親指と親指のつなぎ目をへこませて、
手のわっかでハートマークを作って、
ウィンクと一緒に、魔法をかけた。
「モエモエキュン☆」
そして、カミラのその動作を、
催眠状態の俺とメディも完コピしていて、
――一瞬の静寂の後
「ぐはぁっ!?」
コックさんがオムライスを食べる前にふっとび、
『もふぅ!?』
画面の中のワクモフサンまでがふっとび、
「うぎゃああああ!?」
「ぐわあああああ!?」
「もええええええ!?」
会場のほとんど全てのメイドが、まるで"催眠"にかかったかのように、俺達三人に向けての絶叫染みた声をあげて、
「きゅん☆」
笑顔を保つカミラに対し、俺とメディはお目々グルグル状態で、顔を真っ赤にして恥ずかしがる、けれど催眠の効果のせいか、このポーズを解除することが出来ず、
そして、やがて、
『――ゆ、優勝もふ』
まだオムライスは食べられていないけれど、モニターのワクモフサンは、
『天下一メイド会の優勝者は、〔血吸い少女のチスタロカミラ〕に決まりもふ~!』
高らかにこの場所での、勝利者の名前を告げるのだった。
――俺とメディのポーズとぐるぐるお目々赤面は、そのあ3分間とけることが無かった
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