9-4 話し方が九割
クリスタルケイブの大通り、四人で歩いてそのどん詰まりにあったのは大広場、蒼く輝く鉱石を切り出し組み合わせて作られてて、客席側は100人近いメイドが満たし、そして、
大きな水晶壁をバックにした、硬質の舞台の上で、
「外でも語ったとおり、今ここに集まっていらっしゃる方々のほとんどが、今日メイドになったばかり」
集うメイド達の前で、演説するようその場に立つ、
「それでもメイドを名乗るのならば、主人への奉仕心、それを第一にしてください!」
俺の従者、メディの姿があった。
「キャーッ! メディさーん!」
「あんたについていけば、メイドになれる!」
「メイド神! メイド神!」
な、なんか異様なテンションに場が包まれている! メイド神って何!
「な、なんなんですかこれ、どうなってるんですか!?」
俺は慌ててエルフリダ様にそう聞けば、
「俺様が、外で自発的に予選を開いていたのは聞き及んでいるか?」
「は、はい、ゴルリ君から」
「1億円目当てのコスプレだけのメイドが、思った以上におってな、それでふるい落としを勝手にしたのだが、そこでメディは」
一呼吸を置いて、エルフリダ様は言った。
「メイドの神になりおった」
「メイドの神に!?」
訳分からなさすぎてただリピートする、そんな俺の混乱に寄り添うように、カバンさんが、男の声だけど綺麗で丁寧な語り口で、
「ただただお金目当ての連中が集まるばかりの場で、メディ様は素晴らしきメイドとしての所作を見せたのです。そしてその過程で、メイドの里の出身ということも解り、いつのまにやら彼女を持ち上げるムードに」
「え、えっとそれに、メディもノッたんですか?」
「はい、意外ではありましたが」
い、意外にも程があるというか、メディってそういう目立つようなのって苦手なイメージが、
……いや、入学試験の時も一位になりたいって言ってたし、そもそものモチベーションが、メイドの里の人達を見返したい、っていうものだったし、
寧ろ、ああやって、自分から表舞台に躍り出るタイプだったのかもしれない。
(俺はメディがどんな人か、本当の意味ではわかっていない)
それは当たり前のことだったのはずなのに、まるで、今気づいたかのようにショックに感じられて、
「佳い女よな」
そこでエルフリダ様は、
「メイドという誰かの傍に立つ者でありながら、その奥には、名誉欲と、それを成すための向上心を滾らせている」
女性の体から――男の体に変わって、
「ますます、俺様のメイドとしてほしい」
そう言った。
……この人はやっぱり、俺からメディを奪うことを、全く諦めていない、
それに対して、俺の心の中を、
「そんなの――」
焦りにも似た脂汗のような感覚が満ちて、俺の口から思わず、王様に対しての不敬な言葉が奔りだそうとした時、
「メディ様にコテンパンにやられておいて、何をおっしゃってるのですか」
って、カバンさんが言った。
「え? コテンパン?」
「あ、こら、カバン、し~っ!」
焦った様子のエルフリダ様、唇に人差し指をあてながら、でっかい声でし~っ! って言う。逆にうるさい。
「勝手な予選大会のファイナルで、【支配】スキルが効かなかったことからでもわかるでしょう、メディ様の主人はアルテナッシ様だと」
「え、そ、そうだったんですか?」
【支配】スキル――タートルリゾートで鮫みたいなモンスターすら、数十秒だけど言うことを聞かせた壊れスキル、なんだけど、
スキルが通じるかどうかは、忠誠心に比例するって言ってたから――カバンさんの言葉を信じるなら、メディは俺をまだ、ご主人様って思ってくれてる。
それは嬉しいことだけど、それなら何故、
俺から逃げるように、エルフリダ様にわざとさらわれてしまったんだ。
……いやそれは、そうだ、
もう一つ聞かなきゃいけないことが、あった。
けどそれを尋ねるのは、エルフリダ様やカバンさんじゃない、
だから俺は、
「メディ!」
舞台に向かって、思い切って声をあげた。
――20数人のメイド達の視線はもちろん
「ご、ご主人様!?」
メディの視線も当然、俺に向かって、彼女は、
大声で叫ぶ。
「どうされたのですか、その愛らしい姿は!?」
「愛らしいとか言わないで!」
うっかり麻痺していた俺が女装していたことが、メディのセリフでぶり返されて、顔を真っ赤にしてしまう。うう、知り合いに見られるのって、心だけじゃなくていろんなとこが熱くなる!
「で、ですが、その黒髪ロングがクラシカルなメイド服ととても相性が良く、何よりその恥じらう様子が」
「いやいや、具体的な評価とかいらないから、そうじゃなくて!」
俺は、自分の恥ずかしさと、
「え、この人、メディさんのご主人様?」
「ってことは、あの噂のアルテナッシ!?」
「待って待って俺なんか目覚めそうなんだけど!?」
周囲からあがるとんでもないセリフを、無視するように、振り切るように、
メディがさらわれる時、エルフリダ様が彼女に、そして、
俺にも聞かせるように言ったこと、
――メイドの里から追放されたとは、虚偽!
実際は逃げ出したのであろう!――
そのことを俺は、
思い返しながら、
「気にしないし、聞いたりしないから!」
そう、叫んだ。
「誰にだって、隠し事はあるって言ったよね! 俺もそうなら、メディもそうだ!」
「ご、ご主人様」
「だから、俺の傍に戻ってきてくれよ!」
……俺の言葉のあと、周囲が一瞬、シンと静かになる。
だけど、すぐにざわつき始める。
「え、何、どういうこと?」
「メディさんがなんかあって、アルテナッシから離れた?」
「盛り上がってまいり、いや、盛り上がってはないな……」
う、うう、やっぱりこんな皆のいる前で、叫ぶ気持ちじゃなかったか。
だけど、ここで声をかけなかったら、本当にメディがどこかへ行っちゃう気がして、
「くっくっく」
……ん、あれ、
エルフリダ様が、
「わぁーっはっはっは!」
きゅ、急に豪快に笑い出した!?
「ど、どうしたもふか!? 何がおかしいもふか!?」
「ただの王の癖です、気になさらないでください」
慌てるゴルリ君、冷静なカバンさん、そんな中で、
「なんともふぬけた言葉よなアルテナッシ、それが主人としてのお前の言葉か!」
「えっ、な、何を」
戸惑う俺に対して、エルフリダ様は、
「本当にメディを想うのであれば、どんな過去でも全てを受け入れてやる、それくらいの度量は見せれぬか!」
「――あっ」
その、指摘は、
俺の心に、突き刺さって、
だけど、
「ち、違います、エルフリダ様! ご主人様は、思いやりをもって私に!」
そんな俺をフォローしたのは、他ならぬメディ自身だった。だけどエルフリダ様は、それに対しても、
「片腹どころか両腹痛し!」
と、腕を組んで言った。
「ならばメディよ、何故アルテナッシから逃げた、何故主人から離れようとした、自身の過去がバレるのが、貴様にとっては受け入れがたいことだからだろう!?」
「そ、それは」
「親しき仲であろうと、何もかも全てを明かす必要が無いのは道理、しかし、結局それで離ればなれの道を選ぼうとするなら本末転倒よ!」
そしてエルフリダ様は、
「主従が、友が聞いて呆れる、貴様らは――」
はっきりと俺達を断罪しようとした、
その瞬間、
「ぐげぇ!?」
脳天から、クリスタルの地面へ落下した。
「へっ!?」
「えっ!?」
「もふ!?」
俺もメディもゴルリ君も、そして周りのメイド達も驚いた。だってさっきまで普通に立ってたエルフリダ様が、突然逆さまになって落下して、地面に頭を打ち付けたのだから。
けれど、その原因が、
「【収納】スキル――〈スル|ーフォーディメンション《入り口は出口》ョン〉」
ヨジゲンカバンさんの、半径5メートル以内なら収納ゲートを通じて他人のテレポート可能なスキルを使ってのことと、みんな気づく。このスキル、チート過ぎる……。
「カ、カバンよ、今の俺様の言葉は、二人にとって至言だっただろう」
メイド姿で呻くエルフリダ様にカバンさんは、
「言い方」
と、バッサリと斬り捨てた。
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
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