9-3 大人も辛いよ
からくり加工の家を出た俺達は、誰もがゲームで家に引きこもってるせいでガランとしている、クリスタルケイブの大通りを、俺とゴルリ君とカバンさん、そして女性メイドverのエルフリダ様、その四人だけで歩いてて、
「液晶水晶は、パパがずっと研究開発していたとびっきりのワンダーもふ」
そんな中、ゴルリ君が語り出す。
「遠くの光景を光に変換して、それを水晶ケーブルに伝わせて映し出す技術、学園のドロウマナコさんにも協力してもらって作ってきたもふ。今のネットワークは里のみだけど、いつか世界中を水晶液晶で繋ぎたいって、ともかく、凄い発明品もふ」
そりゃそうだ、電話のような伝達手段がないこの世界で、遠くの人達に映像を届けられるなんて、世界が変わるイノベーション過ぎる。
「だけど、その水晶液晶という発明品に、もう一つのとんでもない発明品とセットになった」
「そうもふ、それが、遊技機もふ」
――ゲーム機
前世の世界にもあったもの、テレビに繋ぐ遊び道具、……俺がけして、遊ぶことは無かった物。
外で遊ぶことが難しい世の中で、子供達のコミュニケーションツールだったし、ゲームがあるから命を落とさずにすんでいる人達も沢山居て――だけどどんなものと同じく、やりすぎは注意で。
「俺様が思うにこのゲームとやらは、"生きるための無意味"の極地よな」
「生きるための、無意味?」
「言葉通りよ、生きるための不必要なものであるはずが、無ければ死んでしまうという矛盾を創り出すもの。己の人生を天国と地獄、どちらへも導く生き甲斐よ」
……確かにそう語るエルフリダ様、歩きながら携帯ゲーム機で、なんか果物を落とすパズルゲームをしている。うん、とっても危ない。
大通りに誰もいないとはいえ、いつころぶかわからないのに、それでもゲーム画面に集中しながら、
「ひとつ聞くがワクモフサンの息子よ」
エルフリダ様が、問いかける。
「貴様の父親は、このようなものも開発しておったか?」
「し、してないもふ! パパはずっと水晶液晶の開発に集中してたもふ!」
「――ふむ、それならこの遊戯機は」
エルフリダ様に続いて、カバンさんが、
「スライムがアイテム化したもの、でしょうね」
って、言った。
……つまり、流れから考えると、
ワクモフサンは水晶液晶を作った。
その時、スライムが現れた。
ワクモフさんがスライムを倒したか、それとも元々瀕死だったか、
ともかく、スライムはワクモフサンの欲望に従ってゲーム機になった。
――そしてスライムは分裂する
分裂したスライムは全てゲーム機になり、それが里全体に行き渡って、みんなゲームに夢中の引きこもりになった。
……そう考えると、今、里全体にスライムが蔓延しているというヤバい状況だ。
(でも、なんで俺の世界のゲーム機に、化けることができたんだろう?)
……まぁこの世界って、言葉もそうだし文化もそうだし、ありとあらゆることがスキル経由で伝わってるから、きっと、何か繋がりがあるんだろう。そうじゃないと説明がつかない。
ともかく俺は、
「あの、エルフリダ様」
「む、ここか、こうか!」
「……エルフリダ様」
「なんだ、しつこい!」
「――歩きゲームは危ないですよ」
「王である俺様に意見するかあぁスイカにならなかったでは無いかぁ!」
と、パズルゲームに夢中のエルフリダ様に俺は、
「二つ、聞きたいことがあります」
そう、切り出した。
「一つは、カバンさんから聞いた話だと、ワクモフサンはスライムに乗っ取られたって聞いてましたけど、まだ心の中へ入り込んでいませんよね?」
スライムに直接取り込まれると、殺意の方に心を支配される。
けど、今のワクモフサンは、その前の段階だ。乗っ取られた、っていう表現はおかしい。
「それに関しては、私の方から説明を」
そう思ってたら、説明した当人から返事があって、
「単純な話、乗っ取られているのと変わらない状況だからです」
「変わらない?」
「ええ――スライムは相手の欲望に合わせて変化します、そして、欲望の塊を手にした人間は、確実に、世界に対して悪影響を与えていきます」
「――それは」
確かに、〔神探しのゴッドフット〕先輩の時も、先輩はあの女神の小像のせいで、世界中の部族の人達に迷惑をかけていた。
「スライムに限らず、魔物は|人々を滅ぼすことに執着していますが、何も"殺意"だけが世界を滅ぼす手段ではありません」
「なるほど」
そこでエルフリダ様は、
「やる気のある無能に、権力を与えるのに似ておるな」
冷静に、恐ろしいことを言った。
……確かにその所為で、滅んでしまった国も、前世には沢山有る。
「その通りです、もちろん、最終的には心を乗っ取る為のアイテム化でしょうけど、スライムはその"過程"ですら利用します」
「アイテムという力で、増長させておいて、実はそれが無駄だったと知らせ、心に隙間を作り乗っ取ると、なんとまぁ悪趣味よ」
よ、ようするに、二段構えってこと?
でも、確かに、ゴッドフット先輩も、自分のしてきたことを知って闇堕ちした。
スライムのアイテム化に、そこまでの意味があったなんて。
……そう考えると、俺の部屋に並ぶ、"無害化したアイテム"達。
当たり前のように飾っていたけど、なんだか、とても怖くなってきた。
「まぁつまり、まとめるとだ」
そこでエルフリダ様は、ボタンをパァン! っと、強く押しながら、
「ドワモフ族の長であるワクモフサンは、世界を滅ぼすほどのサボリたがりなのだ!」
と、言ったから、
「ボクのパパはそんなグータラじゃないもふ~!?」
今まで黙ってやりとりを聞いてたゴルリ君が、とうとう声をあげて話に割って入ってきた。で、エルフリダ様を肉球でぽふぽふ叩き始めた。
「さ、さっきから聞いてれば、スライムがどうとか乗っ取りがどうとかは知らないけど、ボクのパパは働き者で優しくて、皆のために毎日汗水垂らす最高のパパなんだもふよ!」
と、そう、叫ぶのだけど、
「――それがプレッシャーだったのかもしれませんね」
カバンさんがそう、静かに言った。
「良き長であろうとして、良き父であろうとした、それは生き甲斐にもなりますが、魂をも削る枷にもなります」
「そ、そんな、パパが」
カバンさんの言葉に動揺するゴルリ君、それに対してエルフリダ様、
「ようは貴様の父親は、休み方が下手くそだったのであろう、〔文化は遊びのワクモフサン〕などという二つ名でありながら、遊びを忘れてしまってはな」
そう言った後、エルフリダ様は――ゲーム機のスイッチを切って、こう言った。
「だが如何なる理由があろうと、子をほったらかしにして引きこもりなぞあってはならぬ」
そう言って、目を細める。
「貴様、母親はどうした?」
「……ママはボクが子供の頃」
「――そうか、詮無きことを聞いた、許せ」
一礼して謝った後、
「……一人育ての辛さも解る、親とて人間、子に対し、心配をかけるなとは言わぬ、弱音を晒すなとも言わぬ、だが、子から離れて一人引きこもるなぞ、それだけはしてはならんよ」
「――エルフリダ様」
その、普段とは違う真面目な様子に、俺は思わず名を呟けば、
「世の中には、会いたくても会えないまま、離ればなれになる親子もいるのにな、そうだろうアルテナッシ?」
「え、……あ、はい!」
ビ、ビックリした、一瞬、前のことを聞かれたと思った。
エルフリダ様くらいなら、俺が天涯孤独の身の施設出身という話は知ってるだろうけど、流石に転生バレまではしてないはず、……だよね?
正直、エルフリダ様って超然的な態度が神様っぽいから、何もかもを見抜かれている気もするけど、
「あ、あの、それとまだ聞きたいことが」
今はそれをおいといて、もう一つの尋ねたいこと、
「――メディは、どこですか?」
真っ先に聞くべきだったけど、タイミングを逃していたこと。
元々はエルフリダ様が、メディを拐かしたから俺はここへ訪れている。だけど今、エルフリダ様の傍にメディはいない。
その理由を、聞いてみれば、
返ってきたのは言葉では無く、
――指差しだった
「え?」
俺は、ずっと見ていたエルフリダ様の横顔から、その指の方向へ向かって視線を移動させる。
――そこにいたのは
「メイド長から教わりました!」
煌めく鉱石を舞台にするよう、その真ん中で、
「床の汚れは心の汚れ、部屋の隅までしっかりと!」
モップを持ったメディクメディが、
「床と共に皆様の心も、ピカピカに磨き上げるのです!」
そのモップを天に掲げながら、
「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
100人くらいのメイド達をまるで率いるように、怒濤の歓声に包まれている場面だったので、
「なんの集会!?」
俺は思わず、そう叫んだ。
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