2-1 翔んでる! 円卓帝国
――朝日が昇ったその時に
ベッドでぐっすり寝た俺は、メディに起こされ、身支度をして、お世話になった酒場兼宿屋を出た。途中でドラゴン車に乗って、3時間くらいかけてやって来たその場所は、
だだっ広い草原で、何も無い。
「メディ、ここが入学試験会場?」
「はい、ご主人様」
メディから受け取った刀を、留め具を使って腰に下げた俺、改めて聞くけど彼女の返答は肯定、
確かになんにも無いこの場所に、
「人は凄く集まってるみたいだけど……」
だいたい300人くらい? 皆、俺やメディと同じ年齢なのかな。色んな姿や格好をしてる。
「どうよ試験前に、俺の【賽子】スキルで運試ししねぇか!】」
「こ、こんなに沢山の殿方達が、ああ【夢想】がとまりませんわぁ……!」
「オトォ、【双子】スキル使っとこうぜ」「わかりましたアニィ兄さん」
「君マジかわいいんですけどぉ☆ ね、ねぇ! 【吸血】させてほしーし☆」
「……【一撃】」
元気な人、清楚な人、双子な人、ギャルな人、一撃な人、様々な人達が過ごしてる。
ん?
あれって、もしかして獣人?
緑のメッシュが混ざった黒い長髪に、狼みたいな耳があって、尻尾もある。褐色肌の長身だ。初めて見た、あんまり人と交流しないって聞いてたけど、あの人も試験を受けるのか。
いやいや、あんまりじっと見てると失礼、目を反らそう。
他に視線をやっていると、メディが話しかけてくる。
「帝国学園の入学試験方法は様々です」
「様々?」
「フィア様のようにスカウトされる事を除けば、貴族のみの試験、Aランクスキル保持者限定の試験など」
「Aランク――でも、それって嘘を吐けるんじゃ?」
「学園に、たった一人ですが、スキルのランクを見抜ける力がある方がいるようです」
なるほど、それなら不正は出来ないか。
「……今日の試験は最大にして最後のものになります」
「最後」
「ええ、身分や種族、そしてスキルに関わりなく参加出来るので、”最大にして最底辺の試験”と揶揄されています」
「ひ、ひどい言われよう」
「ですが、事実です、試験を受ける条件はスキルに覚醒して、まだ試験を受けた事が無い16歳の者。基本的に再受験は出来ません、なのでほとんどの方が、ご主人様と同じ16歳です」
「ああ、ギリギリまでこの試験の為に修行してたって事か」
「はい、それでも10分の1のみが合格する、狭き門ですが」
10分の1、難関に過ぎる、俺が受けた高校も、そこまでの倍率じゃなかった。
それでも俺は、
「そっか、ありがとうメディ」
と、笑った。
「……大丈夫ですか?」
メディの心配は最もだ、昨日の夜、あれだけ受験失敗のトラウマで泣き喚いていた俺だもの、でも、
「失敗しても、傍にいてくれるんだろ?」
それが、心が軽くなる理由だった。
「勿論、受かるつもりだよ、でもなんというか、前の時より怖いだけじゃなくて、ワクワクもしてる」
「それは――とても良い事ですね」
「ああ、それにぶっつけ本番で挑む俺に出来る事はもう」
――祈るのみ
そう思ったその時、
「ん?」
空に何かがあるのに気付いた、鳥じゃない、黒くて丸い影のような、それが段々、近づいて、ていうか、
大きくなって!?
「な、なんだあれ!?」
どんどん大きくなっていく黒い丸、俺達の上を横切って、はっきりとした影を落とす!
「円盤!?」
まるでSF映画に出てくるような、そう思って叫んだ俺に、
「いえ、円卓です」
メディは、動じないままに訂正する。そして巨大な”円卓”は、ざわつく俺達より300メートルくらいの所で静止して、ゆっくりと下降していく。
「あ」
その途中で、円卓の正体に気付いた。
――国だ
高い城壁に囲まれながら、その中央に、シンボルのように城がそびえ立つ国だ!
「この大陸を統治する、人口約1万人のエンパイアオブザラウンド」
国そのものが、空を飛んできて、今、
「私もこの目で見るのは初めてですが、あれこそが、第七代皇帝エンペリラ様の【皇帝】スキル」
ズシン! という音と供に降り立つ。
「――〈キャピタルリロケーション〉」
う、嘘?
「こんなでっかい国を動かすなんて、どんな凄い人なんだ?」
「えっと、施設の方ではお学びになられなかったんですか?」
「あ、いや、……俺は勉強するよりも手伝いをしろって言われて、歴史は俺に必要ないからって」
「――やっぱり仕返しをしましょうよ」
「うっ」
「……いえ、そうですね、ご主人様は優しいですからしなくていいです、代わりに私が」
「ちょ、ちょっとメディ、落ち着いて」
なんか体がパチパチッって弾けだしたメディをなだめようとした、その時、
「おはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「うわっ!?」
「きゃぁっ!?」
な、なんだ、円卓帝国の――入り口の門っぽい所から――凄くでっかい女性の声が聞こえてきた! えっと、門の上に、誰かが二人居る?
「どうしたぁぁぁぁぁぁぁぁ! 挨拶されたら挨拶し返すぅぅぅぅ! それが礼儀というものだろうがぁぁぁっ!」
こ、これだけの距離離れてるのに、鼓膜が痺れるくらいの大声だ。
「礼儀知らずは、全員落第させてやろうかぁぁぁ!」
その声に俺達は慌てて、「「「おはようございます!」」」と返した。
「うむっ!!!」
あ、ま、満足そうな声が聞こえた。
「私は〔がなる怒鳴るのデカヴァイス〕! 隣の辛気くさいこいつは、〔寡黙なユガタクワイエット〕! 皇帝の専属騎士と専属執事ぃ!」
騎士と執事、言われてみればそれっぽい鎧姿っぽい、あ、執事っぽい人が会釈をしたっぽい。
「本日はよく集まってくれたぁぁぁ! 我々は諸君を歓迎するぅぅぅ! さぁ、入って来たまえぇぇぇ!」
そう言うと、ギギギと音をたてて、門が開く。微かだけど、街並みが見える。
よ、よかった、とりあえず試験は、帝国に入ってからか。
「行きましょうか」
「ああ」
という訳で、俺達は一斉に歩き出す。300メートルという距離は遠いけど、俺達を踏みつぶさないような配慮だったのだろう。
あの壁の向こうで、どんな試験が待ってるんだろう。
……、
……、
……あれ?
「ねぇ、メディ」
「は、はい」
「全然、距離が縮まらなくない?」
「や、やっぱり、そうですよね」
俺の違和感を、メディが肯定した瞬間、
――円卓帝国が一気に遠ざかりはじめた!
「ああ、移動してる!?」
「まさか、今回の試験って!?」
慌てて走り出した俺達に、デカヴァイスさんの声が届く。
「はっはっはぁ! どうした貴様等ぁぁぁっ! そんな調子では試験会場にすら辿り着けんぞぉぉぉっ!」
やばい、結構な速さで走ってるつもりだけど、それでも追いつけない!
これが最初の、試験者達の振るい落とし、
でもこれって、
「分の悪い賭けじゃない!」
「はい!」
メディは返事した後、俺の目の前にぐるりと回って、軽く跳ねた。
俺はそれを――【最強】スキルを使った時のように、お姫様抱っこで受け止める。互い、ちょっと頬を赤くしてから、
スキル画面を呼びだす。
【チー○○】
今朝まで十分に、何のスキルを当てはめるか考える時間はあった。
思いついたけど、それは使えるかどうか解らないスキル
いっそ、試験前に使う事で、新たな条件を呼びだそうとした。
だけどメディの一言で、俺はこれを残す事にした。
――次の【○○】が望み通りの形で出てくるかは解らない
そして仮説だが、低ランクのスキルだった場合、インターバルが生じる可能性――
Eランクスキルの【ぬるぽ】を使った後、気絶した時間を考えると、それを使えるようになったのは随分後だ。
それなら、このスキルを使う事にした。
俺の思い通りならこのスキルなら、
円卓帝国へと辿り着ける!
「【チーター】!」
俺の叫びと供に、空白が埋まった瞬間、
「おっ」
僅か2秒で、俺の時速は、
「おおおぉぉぉ!?」
陸上世界最速の生物、チーターと同じ120kmに到達し、
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ヴァイスさんの絶叫を、生んだ。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
6月2日からネオページ様の方で最新話を先行公開! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




