7-7 英雄へ
《女は【剣聖】にはなれないって、言われたからでしょ!》
――トラウマがそう叫んだ、次の瞬間
世界は――礼拝堂は、色を取り戻して、時は再び流れ出す。
俺は、予想してなかったアンナさんのトラウマを見た事で、体中から汗を流して、そして、
「お母さんが?」
そう、呟いていた。
俺のその言葉に、アンナさんは、ちょっと驚いた様子を見せて、
「まさか、見たのかな? 【眼聖】スキルでも、心の中までは覗けないと思うけれど」
……少し黙った後、アンナさんは、
「私のお父様とお母様は、政略結婚ではあったけれど、とても愛し合っていてね」
語り出す。
「けれど、お母様は私を産んだ後、大病を患ってしまって、子が産めない体になった。……そして貴族の社会には【剣聖】は男性からしか生まれないという迷信があった」
「迷信……」
「ただ、女性で剣聖を目指す人が居なかったっていうだけだよ――だけどお母様の親族達は、その迷信を信じた」
代々、【剣聖】を輩出する事で、貴族としての地位を保っていた家。
その世継ぎが、【剣聖】になるかどうか解らない女性。
「私が12歳になる前、私がスキルを授かる年頃になる前に、お母様を、没落する家にいさせてはいけないと、無理矢理、お父様と離婚させて、さらわれるように連れ戻された」
未来の無い家と一緒であれば、自分達の家にも被害が及ぶ、そう思ったんだろうか。
……本人同士じゃなく、家同士の結婚が生む歪さに、俺は、貴族という生き方の闇をみる。
「だから、私はそんな謂れを覆したかった、父の下で【剣聖】スキルを授かる事を願った、けれど14歳の時、女神様が私に授けたのは……」
「――【英傑】」
「……子供の頃から、父に憧れてた、【剣聖】になる事は、私の子供の頃からの夢だった、だけど……今考えれば私はね、家の為じゃなく、世界の平和の為に"剣聖"になろうとしてたんだ」
「……それの何が、ダメだったと思うんですか?」
「ダメだろう、だって貴族は何よりも、家柄と誇りを大事にしなきゃいけないんだから――世界の平和なんかよりも。きっとその心を、女神様は見抜いた」
それでも、と言って、
「私は必死に、"剣聖"として生きようとした。お父様は止めてくれたけど、それが家を守り、お母様と再び暮らせる方法だと思ったから」
……ドロウマナコ先輩が言っていた、"絵物語のような活躍"、そのモチベが、両親への思いだなんて思わなかった。
「本当に、いっぱい、"努力"をしたんですね」
「ああ、だけど」
そこでアンナさんは、また笑って、
「その結果が、あのからっぽの家だよ」
そう言った。
「帝国学園に入学し、エンペリラ様の後押しもあって、聖騎士団団長に就任にして、これならきっとお母様も戻ってくると――何ヶ月かぶりに家へと戻ってきた時には、もぬけの殻だった」
「――それって」
「私も最初は、なんでって思ったよ。けれどよく考えれば解る事だ。私は、本物の剣聖じゃない、その嘘は、何時露呈するか解らない。……そうなる前に身を隠すのは自然だろう」
「……本気で、そう思ってますか?」
「……他の可能性も、無論、考えたよ。お父様は、私に偽る事を止めさせたくて、家の為に生きる事を止めてほしくて、姿を隠したとか、だけど」
そこで少し黙ってから、
「それならやっぱり私は、【剣聖】として死ななければならない」
そう、告げる。
「いつ、【英傑】だとバレるか解らない私が生き続けるより、今、私が【剣聖】として死ねば、隠れ生きているお父様の命は、名誉は、保たれる、……お母様も、剣聖の子を産んだと称えられる」
「……そんな事、アンナさんの両親は望んでない」
「そうだろうな、でも」
……ああ、この人の笑顔は、
あの頃の俺と同じ、
「それが私の、願いだから」
からっぽだ。
――未来なき理想
……ああ、本当にアンナさんは、自分が本物かスライムかなんて、どっちでもいいんだ。
スライムだったら殺されればいい、スライムじゃなかっても、今度こそスライムと相討ちに――あるいはスライムを倒した後、自分で命を絶てばいい。
そんな風に考えている。
「……仮面の騎士となり、正義を行ったのは最後のワガママさ、これでちょっとは、聖騎士団というものが、皆の為の物になればいいんだけど」
……そして俺は、マナコ先輩と同じく確信する。
「後は頼むよ、〔何も無しのアルテナッシ〕」
この人は、スライムじゃない。
「私と違って、自分の二つ名に、未来を見出した君」
目の前のアンナさんが、ここまで人を思いやれる人が、スライムな訳がない。
遺体が、スライムだ、だから、
――俺は後ろを振り返り
遺体を、じっとみつめた。
「……アルテナッシ?」
――すると棺に収まった遺体から
「――え」
【○○】、が浮かび上がる。
突然起きた現象に、アンナさんは、目を丸くした。
「な、なんだい、その空白は?」
「……この空白に、俺の心に欠けている物を埋めると、このスライムは、無害なアイテムになります」
そう、フィアやゴッドフット先輩の時と同じ――アンナさんと俺の過去から考えれば、本来、ここに埋める言葉は決まっている。
だけど俺は今、
違う言葉を思い浮かべる。
「先輩は、俺に言いました」
――ボルケノンド、スメルフの背に乗って駆けている時
「自分の夢は、世界平和だって」
……今思えば、何故アンナさんがそんな夢を描いたか良くわかる。
それしか方法が無かったからだ。
本当に、自分が守りたい物。
だから、
「俺が今、その、敵になる」
「何を言って――」
「アンナさんが」
俺は目の前の【○○】に、
「未来を取り戻せるように」
言葉を埋めた――
「【剣聖】」
――その瞬間
棺におさまっていたアンナさんの遺体が! 光り輝きながら一気に膨れ上がり!
「なっ!?」
そしてその輝きの影のように、黒い闇を噴き出させながら、一気に俺の体を飲み込む!
「あ、あぁぁぁぁぁぁ!?」
粘体に包まれる俺の体――だけど息苦しさは無い、溺れはしない、だけど、
(心に、どす黒いものが、入り込んでくる!)
からっぽな俺の心を満たす黒い物、悪寒、吐き気、酩酊、あらゆる負の感触の後に、それを燃やし尽くすような怒りがわき上がってくる!
――虚しさに殺意の衝動が埋まる
「あ、あぁ、あぁあ……」
……からっぽな俺は、そうじゃない誰かを、
――誰かの幸せを
「ああああああああ!?」
殺したがっている!
こんな気持ち、俺は知らない!
「ア、アルテナッシ、お前は、何故!?」
だけどそれでも、俺が、
「ア、アンナ、さん」
正気を保てるのは、
「俺を、スライムに乗っ取られた俺を」
――アンナさんへの信頼と
彼女の本当の、
力。
「倒してっ!」
その俺の叫びと共に、俺の体を飲み込んだスライムは、
――弾けるように分裂した
「ッ!?」
俺を中心に起きる閃光、そして突風、……アンナさんは驚きと共に怯んだけど、どうにか、その目を開く。
……アンナさんの目の前には、棺の前に倒れる、
スライムの体を、まるで騎士の鎧のように纏った俺。そして、
――そこら中に散らばる騎士の形をしたスライム
……礼拝堂に満ちる、静寂、
だがやがて、俺は、俺達は、ゆっくりと立ち上がる。俺以外の、俺に化けたスライムは半透明だ。そして、各々、棺の前に備えられていた武器を取っていく。斧を、槍を、弓を、鞭を、
その中で俺は――自分の腰に下げた刀も抜かずに、
剣を取った。
そして、
呆然と立ち尽くす、仮面の騎士へと振り返って、
――騎士達は名乗り始める。
「【斧聖】」
「【槍聖】」
「【鞭聖】」
「【槌聖】」
「【杖聖】」
「【鎌聖】」
「【鏢聖】」
「【矛聖】」
「【弓聖】」
「【鋸聖】」
「【盾聖】」
次々と、スライム達が、武器を冠するスキルの名を呟く中で、俺自身も、手に取った剣を構えて、
アンナさんに名乗った。
「【剣聖】のアルテナッシ」
そして翳す、二つ名では無い、
怪物としての、ネームドの強さを。
――{剣聖悪騎アルテナッシロストフューチャー}
スライムに自分の身を乗っ取らせ、十二人の聖騎士となった俺は、
武器を一斉に、アンナさんへと向けた。
「……な、何を、何を考えてるアルテナッシ」
俺の凶行にしか思えないだろう行動に――狼狽したアンナさんが、
「一体何でこんな事を!?」
そう叫んだから、俺は、
「……俺が貴方を、英傑に、いや」
ただ、告げた。
「英雄にする」
次の瞬間――槍を持った俺が、アンナさんへと飛びかかった。
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
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