7-3 ハーレム展開は禁止です
アレフロンティア大陸中央にそびえ立つ、女神教の文字通りの総本山である聖山、
その頂上に、聖女であるセイントセイカ様がおさめる"聖都"がある。
険しき道のりといった物理的な要素は勿論、聖山に満ちる聖気によって、魔物はもちろんの事、不心得者すら拒絶するという、そう簡単に、訪れる事も出来ない場所に、
「聖都へようこそ、アルテナッシ君!」
今、【奇跡】の力で招かれていた。
「え、え、聖女様!?」
「聖都って、ここが、この場所がですか!?」
驚くフィアと、状況から現状を把握するメディに、
「ほうよ、えっと、お名前はなんやったっけ?」
聖女様がそう尋ねれば、
「た、〔猛る聖火のフィアルダ〕です、聖女様」
「〔癒やし手のメディクメディ〕、あの、その節はご主人様をお運びいただきありがとうございました」
二つ名を開示しながら、ガチガチに緊張している二人。そりゃそうだ、相手はこの世界の女神様の血を引くとか、300年生まれ変わり続けてるっていうとか、現人神のような存在なんだから。
けれどセイカ様は、にこにこ笑って、
「そっかそっか、二人がうちの、恋のライバルなんやねぇ」
――なんかとんでもない事を言い出した!?
「はぁ!?」
「こ、恋のライバル!?」
絶句する俺に代わって、驚き声をあげ、顔を赤くする二人。
「い、いやいや、別に私はお兄ちゃんのことなんか好きでもなんでもないんだから!?」
「わ、私とご主人様は、あくまでの主従の関係です、聖女様や皆様に言われるようなものではありません!」
当然のように否定する二人、俺も慌てて声をあげる。
「あ、あのセイカ様、それは本当にとんでもない思い違いです」
「そうなん? えっとほな、うちがこのままアル君をもらってええっちゅうこと?」
「――そういう訳じゃ」
と、俺が言うのにおっかぶせるように、
「お兄ちゃんが、聖女様と結ばれるとか、やめてください!」
と、フィアが真っ赤な顔で叫んだ。あ、頭の上のチビも、ピキャー! と、威嚇するように炎を吐いた。
セイカ様はそんなフィアを見て、一瞬呆気にとられたようだけど、
――すぐに直後ペカーっと笑って
「ああ知っとる! これってツンデレって奴やねぇ!」
「ツンデレ!?」
謎の単語を吐くセイカ様、それに戸惑うフィア、セイカ様は一気にフィアに詰め寄って、そして、
抱きしめた。
「え、えええ!?」
聖女の抱擁という異常事態にパニックになるフィアに、
「うんうん、つまりうちとフィアちゃんは恋のライバル! うわぁ、テンションあがってきたんよ! お互いがんばろうねぇ!」
「い、いや、恋のライバルって!? と、ともかくお離しくださぁい!」
そう言われても、フィアにほっぺたすりすりまでするセイカ様。それを見て、ぽか~んとしているメディに俺は、
「その、セイカ様、今まで恋をした事が無いらしくて……、だからあれ、恋に恋している状態なんだと思う」
「……なるほど」
メディは目を細めながら、
「ご主人様ご本人へ恋してるというよりは、相手は誰でも良く、恋という感情そのものを楽しんでいると」
「うん、多分」
じゃなきゃ、恋のライバル出現ってイベントで、あんな風にテンション高くならないと思う。
「まぁ、その、そういう訳だから、俺とセイカ様はただの友達だから」
「わかりました、……それにしても」
「ん?」
そこでメディは、にこっと笑った。
「成長なされましたね、ご主人様」
「……成長って何が?」
「――思いやりです」
――それは
「もとより優しい方ではありましたが、加えて相手の気持ちになって考えるようになったと思います」
「そ、そうかな?」
「ええ、……失礼ながら、会った直後のご主人様であるなら、そのように相手の気持ちをそこまで考察せず、ただ求められるままに応じただけかと」
そういうものなのか?
……でも確かに、施設に居た頃は、誰かの役に立とうとはしたけど、本当に相手が何を求めてるか? までは、考えなかった気がする。
実際、フィアが本当にしてほしかった事を、俺はずっと気づけなかった訳だし。
メディの言うとおり、恋をしたと言われたなら、前世みたいに"言われた通り"になっていたかもしれない。
けどそれは、
「もしそうなら、それは皆とメディのおかげだと思う、ありがとう」
確かな事を、彼女に言った。
するとメディもニコッと笑って――
「じ~っ」
「「はっ」」
お、オノマトペを口で言いながら、セイカ様が右目だけで俺達をみつめてきて、
「……本当に、あんた達ってただの主人とメイドなの?」
と、フィアが疑いを向けてきた。
「そ、そうだよ、メディは俺のメイドで、あと友達!」
「繰り返しますが、皆様が想像されるような関係ではありません!」
だから二人で慌てて否定する。暫くの間、疑いの目を向けてきた二人だけど、
「まぁ、えっか」
セイカ様がやにわそう言って指を鳴らす――すると、
「うわっ」
――俺達はまた瞬間移動した
……場所は屋外、高い建物の屋上、そのテラス席に俺達は座らされていた。真っ白なテーブル、真っ白なイス、そしてテーブル上には真っ白なカップにいれられた透明な水。
「ごめんねぇ、お水くらいしか出すもんあらへんのよ」
そうニコニコ笑うセイカ様に、俺達は戸惑いながらも、いただきますと水を含む――喉へとすっと染みこむ、まるで体全体を浄化するような透き通った味、……味覚がまだまだ鈍い俺にとっては、むしろこのもてなしは、有り難かった。
その上で、屋上から聖都の街並みを見る。
建物は勿論なのだけど、人々の衣服までが真白を基調としている。行き交う人々は皆、笑顔を浮かべているけれど、どれだけ人が群れようと、喧噪さは見受けられない。
あの大きな教会は――俺達がさっきまで居た場所だろうか。
それに向けて、一糸乱れぬ祈りを捧げている民達の姿。
これを無機質と感じるのか、静穏だと憩うかは、人によって違うと感じた。
……俺は、そんな聖都の様子を眺めながら、
「セイカ様が、俺達を聖都まで招いたのは何故ですか?」
と、聞いた。
「――円卓帝国での騒動を聞いたんよ」
その言葉に、俺はセイカ様へ顔を向ける。
「ソーディアンナって娘の話、アル君とも知り合いの子やったみたいやから、もしその事で悩んでるんなら、なんやアドバイス出来る思うてね」
「――それは、ありがたいですけど」
パワーアップした【奇跡】スキルは、帝国のトベッキーさんによるイリュージョンシフトよりも、凄まじい瞬間移動を可能にしている。ただ、
「それなら、お兄ちゃんだけじゃなく」
「私たちもお呼びになった理由は?」
そう、フィアとメディを招いた理由が解らなかった。
するとセイカ様は口を開く。
「一つ目の理由は、アル君からだけ事情を聞くより、他の人からも情報を欲しかった事」
「……もう一つは?」
「恋のライバルになりそうな相手をチェックしとこうかな~と」
二つ目の答えに俺はもちろん、メディとフィアも、聖女様相手だろうと呆れた顔になってしまった。俺達三人の反応を見たセイカ様、
「ええやん! 今のうちは恋愛脳なの!」
って、テーブルを両手でぺしぺし叩いた。
「そ、それって、自分から言うようなもんじゃないと思いますよ」
俺はそうつっこんだ、けど、
「ふふ……ほんに恋ってステキやね……今のうちならアル君のため世界だって滅ぼせそう……」
「それはおやめくださいませセイカ様!?」
「聖女様が言うとシャレになってないです!?」
な、なんかヤバイ雰囲気になって、すぐさまメディとフィアにつっこまれるセイカ様。
(からっぽの俺なんか相手にここまで……)
本当に恋に恋してる状態なんだと思ってたけど、セイカ様はすん、っと真面目な顔になって、
「まぁ、半分冗談はともかく」
「半分本気!?」
「ともかく、もうちょいくわしゅうお話聞かせてくれへん?」
そう請うてきたので、三人三様の手段で、事の経緯を全て話した。
「仮面騎士と遺体、どっちが偽物で、どっちが本物って所かぁ」
「はい、まずそれを確かめる事が先かなって」
「それはせやけど、アル君、もう一つ大切な事あるよ?」
「へ?」
そう言ってセイカ様は、右目で俺をみつめてきて、
「――ソーディアンナちゃんはスライムと相打ちになった」
と、言った。
……確かに、それが死因だけど、
――あっ
「「「ああっ!?」」」
俺はもちろん、フィアもメディも声をあげた。そ、そうだ、倒されたスライムは、
相手の求めるもの、欲望に応じて、アイテム化する!
剣聖のアンナさんと相打ちとなるスライムなんだから、そうならないとおかしいくらい!
「で、ですが、そんな話は聞いてないですが」
「相打ちだったら、アイテム化とかはしないんじゃ?」
メディの情報、フィアの予想、そんな中で、
――俺の背筋に冷たいものが走る
「――もしかして」
「せやねぇ、そのもしかしてやねぇ」
セイカ様は、不安そうに、
可能性について話す。
「一つ目は、遺体がアンナちゃんの欲望で作られた偽物で、仮面騎士が本物である事、そして二つ目は」
最悪と、
「遺体が本物で、仮面騎士が偽物って事」
それを越える邪悪を。
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




