5-2 神様! 空から女の子が!
――今日の授業も滞りなく進み
昼休みになった俺は、
「はぁ……」
ベンチに座り、青空を眺めながら、溜息を吐く。
いつもはメディと、あと最近はフィアと一緒に昼食を取る俺だけど、今日は二人とも別の用事があって俺一人。
スメルフとごはんを食べようかと思ったけど、なんかロマンシアに毛繕いしてもらうからと断られた。どういう経緯でそうなったのか気になる。
なので今の俺は一人、外、学園を覆う壁際に置かれていた、木製のベンチにどかりと座っている。軽く視線を右斜め上にすれば、学園遠見の塔が今日も聳え立っていて、あれがこっちに倒れてきたらどうなるんだろう? とか思ったけど、
(いや、そんな事よりも)
穴埋め問題――正直、ノジャイナリィの問題を解くだけで一週間もかかってしまったけど、残りは全くわかんない。1の呪文に関しては、知ってる限りの5文字の魔法の呪文をいれてみたんだけど、該当するものは無し。まぁ、スキル全盛の今って、魔法自体が前時代の遺物だから、もっと調べなきゃダメだろうけど……。
ともかく、この穴埋め問題を解く為の、重要な鍵になる部分は、解ってる。
3【○○】 [オーガニ族のシンボル]
これだ、だってこれは他の奴と比べて、オーガニ族というのを調べればいけそうだから。
……そう思って、学園の図書室とかに言っても資料みたいなものは無くて、それならば研究所にと思ったけど、Sクラス以外の一年生は、入る許可が下りなくて。
メディやフィアにも相談したけど、状況は芳しく無い。
(――どうすればいいんだろ)
そう、青空を仰いでると、
「おい、あそこに座ってるのって」
「ああ、1年のFクラスのアルテナッシだよ!」
「あの〔何でも有りのアルテナッシ〕!?」
……なんか俺の噂話が、俺に聞こえるようなボリュームで聞こえてくる。ヴァイスさんが叫んだ、間違った二つ名とセットで。
「いやぁ凄かったもんなぁあのレース」
「Sクラスはこてんぱん、いい気味だ!」
「スネークウィップって奴、休学してるんだっけ」
そういえば、そんな話も聞いたな。元貴族のオージが色々と動いたらしいけど、詳しい内容は、唇に人差し指をあてて、ナイショだよ、って言ってた。その時のオージは正直イケメンで、からっぽな心でもちょっとキュンとしそうになった。
なんにせよ、おかげでフィアはもちろん、俺を拾ってくれた施設にも、被害がいかなさそうなのはありがたいとかそう思ってると、
「おいおい、Sクラスをそんな責めんなよ」
「そうだよ~、真面目な人もいるんだから」
ああ、当たり前だけど、Sクラス側の人達もいる。
そりゃそうだ、Fクラスが正義で、Sクラスが悪、そんなハッキリと別れてる方が怖い。
アンナさんやマナコさんみたいに、いい人達も沢山いるんだから、とか思ってると、
「そうですわ、ほら、ついさっきまたあの方が、素晴らしい功績をあげたと報告があったでしょ」
「ああ、4年のSクラスの」
「ええと確か、〔神探しのゴッドフット〕氏だったっけ」
「そう! 【神聖】スキル持ち、聖騎士団所属! 各地で女神様の遺跡や痕跡を探す偉大なる巡礼者!」
――へぇ
そんな立派な人もいるんだ。
うんうん、やっぱり、Sクラスだからってだけで差別するのは良くない。
「今回は、密林の奥地まで旅してるんだっけ」
「ええとなんの部族だったっけ」
「あ、そうだ、オーガニ族だ!」
……ん?
「オーガニ族? 聞いた事がないなぁ」
「秘境に住んで、あまり他種族と交流しない種族らしいよ」
「え、そんな所に女神様の聖地が!? ロマンある~!」
え、今、なんて言った?
――オーガニ族
えええぇ!?
「ちょ、ちょっと待って――」
俺は思わずベンチから立ち上がり、その話をしてる人達に駆け寄ろうとした、
――その時
「あれ? ちょっと待って、塔の上にいるの?」
「まさか!」
オーガニ族について話してた人達が、何やら見上げて騒ぎ出す――俺もつられて視線をそっちにやると、
塔の際に白い人影が見えて、白い髪、白い衣装を着たその人が、
――飛び降りた
え、ええ、えええ!?
「おい嘘だろ!?」
「いやぁぁぁぁぁ!?」
――白昼の突然の惨劇に悲鳴が響き渡る中で俺は
自由落下速度で地面に叩きつけられそうなその子を、
(助けなきゃ)
と思って、
(どうやって)
って思って、
(――あっ)
そして、穴埋め問題のスキルの、
(これか)
4【○。。○】 [神様、空から女の子が!]
答えに辿り着く、そう、
空から女の子が降ってきたなら――
「【キャッチ】スキル――」
スキルを行使した俺の体は、引き寄せられるように、落下地点まで駆けていって、
凄まじい速度で落下してくる彼女に腕を広げて、
「〈アイガーリボーイミーツガール〉!」
――踏ん張って、全力で女の子を受け止める!
「ぐうっ!?」
激しく重い衝撃が、腕を伝って足の裏に抜けていく、だけど、
――俺の体はもちろん
彼女自身も、無事だった。
「……よ、よかったぁ、……ああいや、大丈夫!?」
そして俺は、腕の中の彼女に声をかけると、そこには、
「――え?」
透き通るほど真っ白な髪、高そうな純白の服は、|ところどころに銀細工《シルバー巻くとかさぁ!》。肌も白く、瞳の色も白く――そしてその瞳は、
右目だけだ、左目が閉じている。
「……か、片目」
先生に教えられた情報と一緒で――
俺の背中に、冷や汗が浮かぶのが解った。そして腕の中のその少女は、
「おおきによぉ」
と、笑った。
……待って、
待て待て待て待て、えっと、片目の少女? それってまるで、
――聖女の特徴と被るような
「アルテナッシィ!? よ、よりにもよって貴様が助けたのかぁぁぁ!?」
上からデカヴァイスさんの叫び声が聞こえて、
「な、なんですか皇帝!? ああ、皇帝からの伝言、今からそこに人を寄越すから待機しておけぇぇぇ!」
そう、言われた俺、えっと、皇帝様がわざわざ呼びかける相手ってそんなのももう、
(いやいやいや、そんな訳ない、そんな事有り得ない、というかお願い勘弁して)
ともかく祈るように願うけど、
「ちょ、ちょっと待ってっよ、あの女の子ってやっぱり!」
「嘘だろ、まさか!?」
「でもそうとしか思えない!」
周りのギャラリー達が、俺の最悪の予想を肯定するような反応をする、俺はがたがた奮える中で、
腕の中の女性が口を開く――
「――逃げてくれへん?」
「え?」
「お願いよぉ」
そう言って、彼女は、
俺の頬に手で触れて、
「助けられたなんて初めてなんよ」
そう、何故か頬を染めて、言ってきた。
硬直する俺、嫌な汗をかきまくりながらの応答、
「え、い、いや、逃げるって」
「早く」
「いやでも」
「は~や~く~」
「わっ」
この時の俺のパニくった心は、彼女の片目を閉じた笑顔に、まるで急かされたようになってしまって、
「わかりました!」
そう言って、何も解らず走り出して、そして、
――こんな声を背中に受けた
「「「アルテナッシが聖女様を誘拐したぁ!?」」」
そのとんでもない事実に、俺は目が飛び出す勢いで驚き、腕の中のその人――聖女様を見たけど、
彼女は相変わらず、俺を熱っぽく、片方の目でみつめるばかりだった。




