4-6 賽は投げられた
レースが始まって、30分。
ワンダーなダンジョンの各階を、地雷、ワープ床、眠りガス、あらゆるトラップと魔法所為のちっちゃいドラゴンのモンスターが溢れる場所を、俺達は攻略してく。
「ご主人様、あちらに階段があります!」
と、メディが言ったり、
「おい、いっそこの落とし穴で下の階に行こうぜ!」
って、ライジが提案したり、
「遠投の首輪つけて壷投げちゃったぁ!?」
って、フィアが大失敗したり、
「うそでしょぉ!? 拾ったレアアイテムがライスボールにされたわぁ!?」
みたく、蛇女が叫んだり、
……みたいな感じで! とても教習用とは思えない、余りにも一手間違えれば命取りな試練が続く! 1000回どころか2000回くらい学べないかこのダンジョン!?
そもそも"空飛ぶ帝国"の地面の下に、こんな深くダンジョンが広がってるの謎だけど、そこも含めてワンダーなのか。
ともかく、そんな右往左往して20階まで辿り着いた俺達、そこに、外にいるヴァイスさんからの実況が響く。
「FクラスもSクラスも一進一退ぃぃぃ! 会場は盛り上がってるがぁぁぁ、お前達ぃぃぃ! もうちょっとSクラスを応援しろぉぉぉ!」
……歓声は聞こえないけど、ともかく、俺達の活躍は伝わってるみたいだ。
FクラスがSクラスに、いい勝負が出来てるだけで、俺達の目的は達成されてるかもしれない。
だけど、それじゃダメだ。
善戦に、意味は無くて、勝たなくちゃいけない。
……らしくなくそう思ってる、からっぽの心が、何かを求めている。
それが何かを知りたいから、だから俺は、
「ライジ!」
フィアと蛇女が後ろから追いかけてくる中、俺は階段のある部屋に入った途端、
「頼むよ!」
「任しときな、大将!」
そう言ってから俺達は――階段の前で立ち止まり、フィア達へ視線を向けた。
「はぁ!?」
っと、フィアは驚くが、
「そういうことぉ、ここで私達を倒すつもりねぇ!?」
蛇女は、俺達がわざわざ立ち止まった意味をそう考える。フィアはそれを聞けば、
「私を倒すですって!? アルテナッシの癖に!」
予想通り、メディを背負う俺へと、一直線に飛んできた。そして、右手のハンマーを燃やし、左手のハンマーを凍らせて、
「〈ルビ|ィレッドアイスモアザン《何が好きぃ?》ユー〉!」
それを同時に俺達に叩き付けて、宝石みたいに真っ赤に燃える氷なんて、矛盾した攻撃をしかけて来る!
「うわ、わぁっ!?」
「ご主人様!」
やばい、【炎聖】スキルだけでも厄介なのに、炎と氷が備わり最強になってる!
そんな、俺とフィアの戦いを、
「ふふぅ、いいじゃない、それでいいのよぉ――庶民は庶民同士でつぶし合いなさぁい?」
舌を出しながら眺めている蛇女、そして、
「……で、あんたはなんのつもりぃ?」
その前で、どかっとあぐらをかいて座るのは、
「――私の事、誘ってるのかしらぁ?」
〔命賭けのギャンブライジ〕だ。
「あなたのスキルがなんなのかは知らないけれどぉ、どうせゴミクズなんでしょうねぇ?」
「……まぁそうだな、俺のスキルはよ」
そう言ってライジは、
「この三つのサイコロを振るだけだ」
「はぁ? 何それ?」
「おいおい、本当に調べてねぇのか? Fクラスは今日戦う相手だったろ?」
「ゴミ相手に調べるなんてぇ、卑怯な真似はしないわよぉ」
「嘘こけ、人数誤魔化しなんて、ちゃちなイカサマ仕掛けやがって」
「黙りなさいよぉ、庶民がぁ、クズがぁ、Fクラスがぁ」
「人間ってここまで露悪的になれるもんかねぇ、まぁいいや」
そこでライジは――こう言った。
「サイコロを三つ振って、ピンゾロが出たら、俺の勝ち」
「――は?」
「それ以外が出たら、俺の負けだ」
「ちょ、ちょっとぉ何ぃ、それ?」
そのライジの言葉に、戦っている最中のフィアですら、
「何を言ってんのあいつ!? 頭おかしいんじゃない!?」
思わず反応する、そりゃそうだ、サイコロの目さえ出れば言った事が叶うなんてそんなの、Sランクの域すら越えている、だけど、
――クラスメイトになってまだ日は浅いけど
あの人が望み通りの結果を出して勝利するのを、何度も見て来た。
今も同じように、
「ほらよっと」
「え、ちょ、こらっ!?」
サイコロは投げられて――だが、
「【蛇鞭】スキル!」
蛇女は見た目通りのスキルを叫び、そして、
「〈スネークウィップ!〉」
自分の腕を――うねうねとした蛇みたいに、何倍もの長さに伸ばした!? そしてライジの投げたサイコロをキャッチして、そのまま自分の胸元まで引き戻す。
「これで振った事にならない――え?」
だが、蛇女が手を開くと、
「何よこれぇ!? 四角いちっちゃなライスボールゥ!?」
が、入ってて――
「ああ、おにぎりの米を四角く固めて、ノリで2から6の目を作って、1の目は梅干しの赤を擦り込んだ」
い、移動しながらそんなもん作ってたの!? Tボーンステーキの骨を削るより凄い事してない!?
かくして、偽物のサイコロを握らせた蛇女の前で、
「――【賽子】スキル」
本物のサイコロを振って、
「〈ワ|ンフォーオールフォーワ《1/216の純粋な運命》ン〉」
その目の前に、ピンゾロを出して見せた。
「はぁぁぁぁぁ!?」
例え小さくとも、はっきりと解る赤い目の三連星に、蛇女は声をあげる。ニヤリと笑うライジは、
「決まったぜ」
――座ったままに蛇女を指差して
「あんたの負けがなぁ!」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
蛇女に発狂染みた声をあげさせて、
……だが、
「……え?」
……静寂だけが、辺りを包み、
「……な、何よぉ!? 何も起こらないじゃないぃ!?」
蛇女は、喜びや安心、そして何よりも怒りを滲ませて、
「ただのハッタリ野郎だって事よねぇぇぇ!?」
今度は両腕を、蛇のように鞭にして、まだあぐらをかいて座ってるライジの首を絞めようとした――その時、
蛇女の、頭上の天井が割れた。
「――え?」
彼女が見上げた時には、そこには、
――177cmの身長に
筋肉の鎧を纏った弁髪の男が、拳を突き出して落ちてくる!
「――【一撃】スキル」
スメルフと同じ、Eランクスキル持ち、
ただただ体を鍛え上げた事で、全てをぶっ壊す力を得たクラスメイト、
ボンバリーの拳が、
「イチゲキ!」
蛇女の顔面を捉え、ダンジョンの床にめり込ませた!
「もんげぇぇぇぇぇぇ!?」
と、叫ぶ蛇女に続いて、
「な、なにいいいいいいいいい!?」
って、ヴァイスさんの実況も響く。
「ま、待てまてぇぇぇ!? なんで3人目のFクラスの生徒が来てるんだぁぁぁ!? しかもダンジョンの床をぶっ壊して! え、なんだユガタ? Sクラスも同じような事してる? それはそれこれはこれだろぉぉぉ!?」
相変わらずSクラス贔屓の実況がされる中、俺は急いで階段に向かう。
「あ、こら、待ちなさい!」
慌てて俺を追いかけるフィアルダ、そんな中で、
――蛇女が叫んだ
「な、なんなのよあんたのスキルゥ!?」
それは、ライジに対しての叫び、ふらふらになりながら立ち上がる、
「おいおい、もうあんたは俺に負けただろ?」
「し、質問にこたえなさぁい! そのスキル、ただサイコロの目を操るだけのクソスキルぅ!? それとも、事象を確定させるような神スキルぅ!?」
その言葉にライジは、
「知りたきゃてめぇも命を賭けなっ!」
そう返しながらまたサイコロを振る。
――レースの途中で俺とフィアの一騎打ちにして欲しい
ライジと、そしてボンバリーは、俺の願いを叶えてくれた。
だから、
「後は勝つだけだ!」
俺は走りながら、ライジやリーに聞こえるように叫ぶ、
「――ご主人様」
メディがどこか嬉しそうに、俺呼んでくれたけど、
それに続くように、
「――させるかぁ」
頭にチビドラゴンを乗せたまま、フィアルダは、
「何も無しのあんたなんかに、私が負けるかぁっ!」
そう叫んだ彼女に、走りながら振り返れば、フィアは怒りで炎を燃やしながら、
左手に握った氷のハンマーを、更に冷たく凍らせる。
俺への罵倒に心を燃やす様子、一見、いつもと変わらないように見える。
……だけど昨日、あれだけ脅されても、Sクラスの為に戦うフィアは、
――怖がっている気がする
「……ご主人様」
「……あぁ」
俺はメディを背負いながら、前を改めて向き直し、また走る、
「こら、待ちなさいよ、待て、待て!」
何も答えない俺の背中を、
「――待ってよ、アルテナッシィ!」
――子供の頃みたいに、寂しそうに追いかけてくる
寂しそうに、辛そうに。
そうだ、
昔はフィアは、結構泣き虫で。
守ってあげなきゃいけない存在で。
……いや、昔ならともかく今のフィアにとっては、俺にそう思われる事そのものが、苦痛かもしれない。ましてや俺は〔何も無しのアルテナッシ〕なのだから。
それでも俺は、叶うならと、願ってた。
FクラスがSクラスにも負けない存在って事を証明して、そして、
フィアにSクラスを止めて貰う、そしてFクラスに来て貰う。
その思いを叶える為に、
――【○。。】に埋めた言葉を確認する
チャンスは、一度だ。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




