4-5 多分彼は三人目だから
――円卓帝国の中央部分
そこは、皇帝陛下が住む城を中心に、学園を含めたあらゆる施設が、等間隔に六カ所に配置されている。分けるとこんな感じ。
Sorcery 魔法院
Paladins 聖騎士団
Institute 研究所
Regency 摂政機関
Academy 学園
Labyrinth 迷宮
その中の一つである迷宮、学園の授業に改装されたというワンダーなダンジョンの前で、
「第1回! チキチキ! Sクラス VS Fクラスダンジョンレース選手権ぅぅぅ!」
皇帝陛下専属騎士、〔がなる怒鳴るのデカヴァイス〕さんの実況通りの催しが、ダンジョンの入り口前で行われていた。
(バラエティ番組じゃん!)
俺はそう心の中でつっこむ。だってなんかダンジョン入り口前なのに観客席みたいなのがあるし、実況席みたいなのもあるし、でっかいスクリーンみたいなものもあるし、
……そのスクリーンに、ペカーッ! っと、映写機の映像みたいなのを映してるのは、機械じゃなくて、ベレー帽を被ったそばかす女性だ。
何やらお絵描きしている彼女を見て、メディが、
「【眼聖】スキル、〈クレアボヤンスアワー《お菓子片手に視写会を》〉」
俺の為に、説明する様子も、
「聖騎士団所属、〔絵師は見る人ドロウマナコ〕様のスキルです、千里眼の景色を共有するという事ですが、まさかこんな形でとは」
それを聞いてる、隣の俺の姿も、そして、
「激熱の鉄火場じゃねぇか!」
今回のレース、俺が出てくるように頼んだFクラスのクラスメイト、
「いい勝負が出来そうだな、アルよ!」
三つのサイコロを手の中で揺らす、〔命賭けのギャンブライジ〕も映ってた。陽気な彼に、俺は少し曇った表情を向ける。
「ギャンブルって意味じゃ、正解かもね、心臓が痛い……」
「おいおいテンション低いなぁ! てめぇが望んだ博打だろ!」
「そ、そうなんだけどさ」
大丈夫だって笑って肩を組んでくるライジに対して、俺は苦笑を返すしかない。そして、そんなやりとりをする俺達の前に、
「全く、ダメダメ達がイチャイチャしてるわね?」
フィアルダと、そして、
「本当ねぇ、ひねり潰したくなっちゃうわぁ」
自己紹介のつもりか――〔蛇舌ちらりのスネークウィップ〕という二つ名を翳す、蛇っぽい女子生徒の姿が、Sクラスの代表として並び立っている。
「フィアルダちゃのそのぉ炎と氷のハンマーでぇ、イチャイチャをぐちゃぐちゃに潰しちゃいましょぉう、ねぇぇぇぇぇ!?」
「……はい、もちろんです!」
……炎と氷、両手それぞれに巨大なハンマーの柄を握り、頭の上にチビドラゴンを乗せたフィアルダ、
何時も通り笑っている、だけど、
――俺は昨日の中庭で、フィアが脅されているのを知っている
明るいフィアに対して、チビの方は、どこか元気が無さそうだ。
(……多分俺の怒りは、Fクラスをバカにされた事もあるけど)
それと同じくらい
(フィアを脅した、こいつも許せない)
そう思ってる。
すると自然に俺は、この蛇女を睨み付けてしまっていた。それに気づいた蛇女、
「あらあらぁこわいわぁ?」
体をくねくね揺らしながら、俺を睨み返す。
「レースがはじまったらぁすぐに締め殺さなきゃねぇ?」
その凄みに、俺は、
(あっ)
情けない事に怯んでしまって、冷や汗をかいて後退ろうとした、その時、
――バチィン!
「いったぁ!?」
せ、背中が思いっきり叩かれた!?
叩いたのは、ギャンブライジ!?
「おいおい、勝負ってぇのはビビっちまった方が負けだぜ?」
ライジは笑って、
「しゃんとしろや、大将」
そう言った。
……俺がそれに笑顔を浮かべたその時、
「もう、なんで俺達を選んでくれなかったんだよ!」「双子で人数オーバーだからですよ」
観客席にいたクラスメイトの双子が、聞こえるようなおっきな声で言ってきた。
そしてそれに対し、
「あらぁ、別に貴方達でもよかったのよぉ?」
と、蛇女が言った。慌てた様子で、メディがどういう事ですか? と、尋ねる。
「簡単よ、従者は参加メンバーの人数にはカウントしない」
「え?」
「皇帝陛下の考え方じゃぁ、主人と従者はセットで一つぅ、だから、クラスメイトは三人でよかったのよぉ?」
「え、ええええ!?」
俺は、驚いた声をあげた。
「まぁあんた達がそういう勘違いをしてると思ったからぁ、今ここにいるのは私達だけなんだけどぉ?」
「どうする? 今から新しいメンバーをいれちゃってもいいわよ?」
蛇女とフィアルダの言葉に、俺は、
「……いや、いいよ、このままでいい」
「あらあらぁ、対等でいいなんてぇ、ちっぽけなプライドってやつぅ?」
「強がるわね、弱い癖に!」
そう、煽ってくる。
……そんな中で、メディが俺の背後に回る。
そして、俺の背中に右手で触れてから、背へと乗っかって、スキルを使う。
「【紫電】スキル――〈オールレンジテレグラフ〉」
紫色の静電気が、パチパチと俺の体を纏う。メディをおんぶする俺の姿を、フィアは睨み付けてくる。だけどその後、
「デカヴァイスさん!」
フィアは、実況席のフルアーマーのヴァイスさんの名を呼んだ――呼びかけられたヴァイスさんは、解説席のユガタさんに目をやった後、
「それではダンジョンレースをはじめるぅぅぅ! ダンジョンの様子は、音声は無いが、ドロウマナコのスキルで見てるからなぁ、それではぁぁ!」
俺達はダンジョンの入り口の前にある、スタート位置に付く、そして、
「スタートォォォ!」
ヴァイスさんの言葉と供に! 俺とメディは、ダンジョンの入り口の、
逆方向へすっ飛んだ!
「え!?」
「はぁ!?」
フィアと蛇女が驚いた時には、俺はメディと心を一つにして、
「「〈セレスティアルジャッジメント〉!」」
雷速からの一閃を放つ――その一撃は、
「ぐはあぁぁぁぁぁぁ!?」
俺達の後ろで、【隠聖】スキルで透明になって忍び寄っていた、
紹介されてなかったSクラスの3人目のメンバーを、斬り伏せていた。
「あぁぁぁ!? あ、あいつは、Sクラスの〔隠者極まるカクレミカクレ〕ぇぇぇ!?」
突然斬られて現れたSクラスの男子生徒がぶっ倒れる様子に、観客席もSクラスの人達を含めて一気にどよめく、だが、
Fクラスは、全員笑みを浮かべている。
「あ、あなたたちぃ、なんでぇ!?」
蛇女が叫ぶけど、俺達はそれに答えず、手加減した〈サンダーステップ〉で、多少痛んだけどなんとか走れる体で、既にダンジョンへと向かっていたライジの後を追いかけた。
「こ、この、待ちなさいよアル!」
「ま、まさかクズどもがぁ、私達の策を見破ってたっていうのぉ!?」
後ろから声がかけられる中で、俺は入る度に地形が変わる教習用ダンジョンへと乗り込む。次へ降りる階段を探してると、ヴァイスさんの実況が響く。
「ど、ど、どういうことだぁぁぁ!? Sクラスは2人で戦うつもりだったのでは――な、なんだとユガタァ!? それはブラフゥ!? Fクラスの連中はそれを見破ってて、双子の発言もアルテナッシ達の驚きも演技だったんだろうとぉ!?」
……どうやってユガタさんが解説してるのかわかんないけどその通り、何か裏があるはずと、クラァヤミィさんが闇に溶け込むスキルを使って、情報を集めてきてくれた。
「そ、そんな優秀で精鋭で伝統たるSクラスがそんな卑怯な! え、なんだユガタ? 戦いに卑怯も糞も無い? た、確かにそうだSクラスは卑怯じゃない! え? だがそれを見破ってたFクラスの方が凄い? お前はどっちの味方だユガタァァァ!」
うん、単純にうるさい。
ともかく、これでSクラスの思惑は一つ潰した、
あとは、賭けだ。重要なのは俺のスキル、
――【○。。】
この空白を俺は、既に、言葉で埋めている。
だけど、このスキルを発動させるには、賭けなきゃいけない事がある。
そもそもだけど、その”賭け”をする場所に辿り着かなきゃいけない。
(いけるのか、本当に?)
メディの力を借りて、魔法で作られた疑似モンスターを倒しながら、そう思ってると、
「任せろや大将」
ライジがそう言って、
「俺は、勝てない博打はしない主義だぜ」
掌の中の三つのサイコロを、俺に見せた。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




