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4-2 それは夏休みの宿題のように

聖騎士団長(ソーディアンナ)さんから報告を受けてます、{イグノアー(孤立する罵倒)}を倒す時、アルテナッシさんも活躍されたと」


 ここは円卓帝国にあるカフェテラスのオープン席、様々な人々が集う場所。

 そんな中で、俺とメディの席には、サスペンダーで半ズボン姿に変装?した、この国の第七代皇帝エンペリラ様が座っている。

 いや、どういう状況!? 学園生徒の休日で、遭遇するようなイベントじゃない!

 それに、皇帝がここにいるのに、

 誰もそれを気にしてない。


「あの、エンペリラ様」


 そう、メディがおずおずと聞けば、


「ああ、どうかエンリとお呼びください」

「そ、そんな、それは恐れ多い」

「今日の僕はオフモード、ユガタからもらった、月15000エンのお小遣いを握りしめて、この街で遊んでるただの子供です」


 ――15000エン

 うん、14歳のお小遣いと考えると高い方だけど、皇帝の資金と考えるとどう考えても少ない。なんだろう、庶民感覚を鍛える為の価格設定?


「そ、それでは失礼ながら、エンリ様、……本当にバレないのですか?」

「ああ、僕のスキル、[エンペラーホリディ(ヘーカの休日)]は、この帝国内であれば、正体をバラしたいと思う方にしかバレません。まぁ、勘が凄く鋭い方や、正体を見破るタイプのスキルを持つ方とかは別ですが」


 ほ、本当に凄いな【皇帝】スキル、使われている間は、隣の男の子が皇帝陛下だったなんて、全く気付けなかった。……そんな風に素直に関心していると、


「……あ、あと、僕の正体を見抜く人がいます」

「え?」


 ――唐突な話題の挿入


「サクラさん、という方です」

「サクラ?」


 さっきと、そして、入学式の時に、陛下が呟いた名前だ。

 ――サクラさんに食べさせたいなぁ

 確か、萩の星を食べたあと、そう言ってた。


「その方は確か、大和の国の若き女王、だったような」


 と、メディがそう言った。へ~なるほどって思った次の瞬間、


「――はい、僕の元許嫁です」

「えっ!?」


 い、許嫁!?

 それはちょっと、ビックリしすぎる!

 ……でも、元?


「初めて会ったのは僕が9歳の時で、サクラさんは12歳、最初の内は僕の事なんて、弟みたいにしか思ってなかったでしょうけど、……僕は本気でした」

「だけど、婚約自体が無くなった、という事ですか?」

「ええ」

「そ、そうですか」


 ――よくわかんないけど

 貴族階級の人達にとって、結婚は政治の道具って言うくらいだから、色々とあったんだろうなというのは予想出来る。

 ……なんだか、エンペリラ様、寂しそうだな。そう思ってると、


「あの、お二人にご相談があります」

「え?」

「なんでしょう」


 エンペリラ様は、続けて言った。


「フラれてしまった相手に、せめて友達でいたいと願うのは、未練がましいでしょうか」

「へ?」

「え?」


 ――いきなりサクラ様を話題にした理由

 もしかして、この質問をする為? と、その発言にも驚いたが、


「その、恋人同士であるお二人の意見を聞きたくて」

「へ!?」

「え!?」


 そっちの言葉の方に驚く。俺とメディも顔を真っ赤にする。


「ち、違うよエンリ様! 俺とメディは主人とメイドでただの友達で!」

「そ、そうです、恋人なんて滅相もない!」


 慌てて弁解する俺達、エンリ様は最初、きょとんとしてたが、直ぐに謝ってきた。


「も、申し訳ありません! あの、授業の時もラブラブだと、Fクラスの担任の方から聞いてましたので」


 た、担任って、〔白板憎しのチョークコクバン〕先生(美人)? そんな報告しないでくれよ……。

 俺がうなだれている時、


「あの、エンリ様」


 メディが、


「先程の質問ですが、どういう理由でフラれたかにもよります、……正直エンリ様が、サクラ様を傷つけるような事をされたなら、どうしようもありません」


 ……まぁ、そりゃそうだよな。

 悪い事した、謝らせてくれ、せめて話だけでもさせてくれ、とか。

 それ事態が迷惑になる(ストーカー行為)、下手すればトラウマになる。

 ただまぁ、とてもじゃないけどエンリ様が、そんな傷つけるような事をする人には見えないけど。

 ――俺がそう思ってるとエンリ様は


「――解らないんです」


 と、言った。


「ずっと、その、仲良くしてたのに、ある日突然一方的に、婚約を解消するって言われまして」


 ……エンリ様の証言(一方的な意見)を、そのまま鵜呑みするのもどうかと思うけど、もし、本当にそうだった場合、

 正直そんなの、何か”大きな力(政治的な)”が作用したとしか思えない。

 それは、そんな事は、エンリ様も解ってるはずだ、でも、


「……それは、辛いですよね」


 俺は思わず、そう言った。


「――はい」


 そうだ、

 前世の俺は、誰かに自分の事を、話そうともしなかった。辛い、苦しい、そんな話をする事が、人に迷惑をかけると思ってたから。

 だけど俺は、|もう知っている《SMILE and TEARS》。

 弱音を晒す相手がいるだけで、心は少し、軽くなる事。


「――メイド長から教わりました」


 そこでメディが、


「友の悲しみには、正論(アドバイス)を返すより、まず寄り添い、耳を傾けるべきと」


 俺達に話しかけて、


「ですので、お茶のお代わりを頼みませんか」


 メディの提案に、まず、俺は笑い、そして、


「……ありがとうございます」


 エンリ様も、そう言った。

 その笑顔は、民に向けた威厳のあるものでなく、友達に浮かべるような、柔らかなものだった。

 ――そして1時間後


「ありがとうございました、それじゃ!」


 エンリ様はそう言って、去って行った。

 本当、色々話していったな、エンリ様。

 ……ほとんどがサクラさんとの、聞いてるだけできゅんきゅんしそうな甘酸っぱい思い出で、飲んでたブラックのコーヒーすら甘く感じるレベルだったけど。


「お話して解りましたが――エンリ様も、我々と同じ人間(年頃)なのですね」

「うん」


 エンリ様は大人びている、だけどその中身は、年上の女性相手に、今も恋している普通の少年。

 ……なんとかしてあげたい気持ちはあるけれど、俺達に出来る事は話を聞くくらい、だけど、


(それだけでも、いいよな)


 そんな事を考えてると、メディが、


「ところでご主人様は、どこでラクゴ(落語)について知ったので?」

「え、ああええと、施設にあった本で読んだ気がして」


 俺が咄嗟に下手な嘘を吐いた、その瞬間、


「こらぁっ! 〔何も無しのアルテナッシ〕!」

「うわぁっ!?」


 い、いきなり背後から名前(二つ名)を呼ばれた、俺は慌てて、メディと一緒に振り返る、そこには、


「あ、フィア!?」


 そう、赤髪ツインテールのご存じの顔があって、そして、


「え、なんだそのドラゴン!?」


 その頭の上には、ピキャー! と、かわいらしい鳴き声をあげる、真っ赤な色のチビドラゴンが乗っていた。


「ああ、こいつ? ボルケノンドで拾った私のペット、名前はチビ」

「ピキャキャ♪」


 フィアの言葉を音楽にするように、踊るように笑顔で炎を吐くぬいぐるみみたいにかわいいレッドドラゴン(チビ)

 そ、そうなんだ、ドラゴンは色んな種類がいるけれど、ここまでミニサイズのは珍しいな。

 ちなみに、フィアの隣には、


「お疲れ様です、ソーディアンナ様」


 メディが挨拶した通り、【剣聖】スキルを持つ聖騎士団(パラディン)のリーダー、アンナさんもいた。彼女は笑顔で俺達に会釈をした後、エンリ様の後ろ姿を見た。


「もしやあの少年は、皇帝陛下かい?」

「え、わ、わかるんですか?」

「ああ、ただの勘だけどね」


 す、凄いなただの勘。スキルで看破するならともかく。

 感心しているとメディが、アンナさんに声をかける。


「お二人で休日をお過ごしで?」

「それもあるが、軽く見回りを兼ねている」

「警備ですか」

「ああ、もうすぐ四国会談があるからね」


 四国会談?

 え、すだちとうどんとみかんとかつおについて、話し合うの?

 ……そんな訳ないか、普通に考えて、円盤帝国とその他の国との話し合いか。俺がそんな風に思っていると、


「ちょうどよかったわ、アルテナッシ、貴方に頼みたい事があるの」

「え――フィアが俺に!?」

「そうよ」


 フィアの言葉は、俺にとって、凄く嬉しい事だった。

 まだ施設に入りたての頃は、フィアは俺の事を頼ってたけど、フィアが成長する程に、俺は役立たずになって、最早、お兄ちゃん呼びをされる事もなくなってしまっていた。

 そんなフィアが、改めて俺を頼りにしてくれてる!

 なんだろう、凄く嬉しい。


「いいよ、なんでも言ってくれ」


 そう、前のめりになった俺にフィアは、


「決闘しなさい」


 と、言った。

 ――え?

 えっと、今、なんて、


「決闘よ! 私のSクラスとあんたのFクラスで戦うの!」

「ええぇぇぇっ!?」


 俺の叫び声の隣で、メディも目を丸くして驚く。


「な、なんで?」


 俺が思わずそう聞けば、


「この前、私達でスライムを倒したんでしょ? だけどそん中に、Fクラスのあんたらも加わってたのが気に入らないのよ」

「――気に入らないって」

「だから、SクラスとFクラスの対抗戦で白黒つける! ほら、これがルール、あとで読んどきなさい!」


 そう言って、無理矢理びっしりと文字が書かれた用紙を渡される俺、そのままフィアルダは、頭上のドラゴン(チビ)と、手に持ったハンマーを揺らしながら行ってしまう。


「――私は止めたのだけどね」


 そして、アンナさんも、


「だが、戦う事で通じ合う事もあるかもしれない、受けるかどうかよく考えてくれ」


 そう言って、去って行った。

 え、FクラスとSクラスの対抗戦?

 そんなこと言われても――そう困ってると、


「受けるかどうかはともかく、その戦いに勝つのは」


 メディが、言った。


「ご主人様の、次のスキル次第ではありますわね」

「あ、そうだ、チェックチェック!」


 エンリ様との話で、とっくに1時間は経っていた、俺はスキル欄を開いて、

 ――愕然とした


「え?」

「ご主人様?」


 う、嘘だ、なんで、


「これはもう、パスしたはずだろ!?」


 ――【○。。】


 どんな言葉も思いつかなくて、結局、諦めたお題。

 ……だけどどんな困難(宿題)も、ただ後回しにするだけじゃ、

 最悪なタイミングで(なんでもっと早く)返ってくる(やらなかったの!)事を、俺はこの時思い知らされた。


・更新情報

6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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