ExtraSide三人称視点 ボルケノンドの村のフィアルダ
からっぽな心を、笑顔一つ、朝食の灯火、そして新たに出来た友を隣にする事で、どうにか〔何も無しのアルテナッシ〕が、人並みにクラスメイトのバーベキューを楽しんでいた頃。
「……バカ」
貴族達の晩餐会に呼ばれたはずのフィアルダはそうせずに、ボルケノンドの村を、二つのハンマーを両手に下げながら歩いていた。一つでも重そうなのに、それを二つも引きずりながら歩くフィアルダを、リザードマン達は感嘆の声をあげてみつめている。
他者に、凄いと思われる事。
それは、彼女にとっては本来、求めるものである。
だけど今の彼女は、寂しさでいっぱいだ。
「何よ、アルテナッシ、……何も無しの癖に」
施設では、役立たずのお人好し、そしてスキルは何も無し、そんな彼が自分と同じ学園に入り、あまつさえ、クラスメイトに馴染んでいる。
“聖”の力を持っているからと、1-Sという、特別クラスに配置された自分とは全く別だ。
Sクラスに、馴れ合いは無い。
息遣い一つ間違うだけで、命を落としかねない、そう錯覚するような空間。それでいて、あからさまな言葉を使わず、自然に優雅に、それでいて心を引き裂くように、彼等は自然の摂理のように、”自分達以外”を見下す。
そして、一部の者達は、同じクラスメイトであるはずのフィアも、その対象にしていた。
露骨な罵倒を浴びせてはこない、だからこそ、自分への上から目線が、洗練されていて恐ろしい。
今朝だって、ソーディアンナが来てくれなかったら、自分はどうなってたか。
貴族の晩餐会も、アンナの取りなしのおかげで、自分は参加せずにすんだ。だからしれっとアルテナッシと合流するつもりだったのに、
アルテナッシは、
笑っていた。
「はぁ……」
行く当てもなく歩いている、バーベキューが終わるまで、どう時間を潰そうか、そう思ってた時、
キュピィ、っと、後ろから鳴き声が聞こえた。
「ん?」
振り返ればそこには、ちっちゃくてかわいい赤いドラゴンが、短い足をよちよちさせ、短い翼をぱたぱたさせ、歩いてきてた。
「なんだ、野良ドラゴンか」
気にせずフィアは、また前へ進む、だが、キュピキュピ鳴き声は続く。どれだけ歩いても、何度振り返っても、チビドラゴンはそこにいる。
たまらず、フィアはとうとう後ろへ向いてしゃがみこみ、チビドラゴンを覗きこんだ。
「あんたねぇ、なんで私についてきてんのよ、私があんたの親にみえる?」
と言えば、手をあげて、キュピィ! と鳴いた。
「……いや、いくら【炎聖】スキルで、髪が燃えるようになったからって、あー」
そこでフィアはまるで観念して、ハンマーを傍においた後、赤くてかわいいチビドラゴンを両手で掴んで顔の前にあげる。
「何? あんた、親無しなの?」
そう問いかけてみれば、笑みを浮かべたままにキュピィと鳴くドラゴン、解ってるのか解ってないのかそれが解らないけれど、
「そっか私と――あいつと同じか」
そこまで言ってフィアは、己が頭の上にドラゴンを乗せた。ドラゴンは、熱く燃えるフィアの頭をとても気に入って、口からかわいく炎を吐いた。
――ひとりぼっちの彼女にとってまるで救いで
……フィア、再びハンマーを持って立ち上がる。
「いい? 一人になったって、強くならなきゃいけない、偉くならなきゃいけない」
それは今拾った親無しのドラゴンではなく、自分自身に言い聞かせるように、
「そうじゃないと、本当の意味でひとりぼっちになってしまう、今までのあいつみたいに」
決意するように――両方のハンマーの柄を強く握って、
「私はもう、一人になりたくない」
前を向いて、どこへだろうと歩き出す。
後ろを振り返る事は勿論、視線を下に落とす弱さも見せたくないから。
だから彼女は気付かない。
「……お兄ちゃん」
そう、寂しげにつぶやく程に、
氷のハンマーから、自分の腕を通してゆっくり、黒い影のような何かが、流れ込んでくる事を。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
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