3-end 心は急に変われないけど
――みんなでサウナを出てから20分後
「「「カンパーイ!」」」
クラス別に用意されたマグマバーベキュー、肉がどんどん焼けてく中で、ジュースで俺達は乾杯していた。
「か、乾杯」
ちょっと陽キャなノリなので、俺は遅れて、少し控えめな声、だけど、
「ほらアル君、お肉とってあげる」
「うめぇ!? サウナの後だと、味覚が8倍になってる気がする!」
「すみませんあのメイドとアル氏の関係を教えていただけますか付き合ってたら僕の色んな所から血が出そうですが」
め、めちゃくちゃ話しかけてくれてる、苦笑いくらいしか返せないけど、それでも、ちょっと嬉しい。
「アル、焼けたぞ、食え」
「あ、ありがとう」
俺の皿に更に肉を追加するスメルフ、それを見てサイコロを持った男子生徒が、
「スメルフ、だっけ? お前、皆とバーベキューとかするんだな」
「するが、ダメか?」
「ダメじゃないけど、いや、なんか獣人って、一人が好きなタイプだと思ってた」
「獣人にも、色んな、奴がいる、孤独を好む、皆と騒ぐ、唯一人を愛す、それはお前達と、一緒だ」
「一緒……そうね……」
「そこはかわらないのじゃのう」
「とりま、もう一回カンパイするか!」
「カンパーイ!」
こんな調子で盛り上がっていくパーティ、そんな中で男子生徒が、二つ名を翳し始めた、
「自己紹介まだだったよな、俺は〔命賭けのギャンブライジ〕だ」
そしてそれに、周りも続く、
「ゆ、〔夢見る令嬢ロマンシア〕ですわ! 世間知らずの身ですので、どうぞよしなに……」
「〔暗く伏したるクラァヤミィ〕……ふへっ……」
「〔騎乗するはハクバオージェ〕、元貴族、よろしくね」
「オージ様の従者、〔疾く駆けよウマァガール〕だひひん!」
「〔血吸い少女のチスタロカミラ〕☆ よろー☆」
「俺は〔弟の兄アニィツイン〕! こっちが双子の弟の」「〔兄の弟オトォツイン〕です、よろしくお願いします」
「〔狐火見たりノジャイナリィ〕なのじゃ、祖母が大和出身じゃ」
「〔一撃のボンバリー〕、敬具」
って感じで次々と、次々と、クラスメイト全員が自己紹介を俺にしていく。それが終わったら肉を食べる、飲む、盛り上がる。
こんなの、生まれてから、そして前世でも経験した事ないから、正直、戸惑いの方が多い。
でも、みんなと同じ物を食べながら、笑い合うこの空間は、けして嫌いじゃなくて――
……あれ?
あそこにいるのって――あっ!
「ちょ、ちょっとごめん、少しだけ席外すね!」
「あれ、トイレ?」
「いってらっしゃいなのじゃー」
見送られた俺は、それを追いかけていく。左へ曲がった”彼女”は建物の影へ、俺はそれを追って、背中に声をかける。
「フィア!」
「ひゃっ!?」
いきなり声をかけた所為か驚いたみたいで、怒った様子で振り返り、
「な、なによアル! 急に声をかけて」
「い、いや、フィアの姿が見えたから」
「あ、あぁ、先生や上の人達の話が、やぁっと終わったのよ、それでちょっとだけ、あんたの顔を見に来ただけ」
「そっか」
……右手に持ってるのは、いつものハンマー、左手に持ってるのは氷のハンマー。
それにしても、あのスライム、本当にフィアにピッタリな武器をドロップしたな。
俺の宝石が写真に変わったみたいに、とどめをさした奴の願いを叶えるとか?
「ちょっと、あんた、バーベキューに戻らなくていいの」
「あ、そうだった」
そうだ、これを言わなきゃ。
「フィアも混ざらない?」
「――え?」
「ほら、皆で食べたら楽しいしさ」
「……」
暫く黙った後、フィアは、
「おあいにく様! 今から私は、お姉様と、貴族のラグジュアリーな晩餐会に招待されてるの!」
「あ、そうなの?」
「ええ、私が名前付きのスライムを倒した事に、興味がある方が多いらしいわ、残念だったわね」
「そっか、それなら仕方無いか」
ちょっと残念だけど、しょうがない。
「楽しんできて!」
「わかってるわよ! それじゃあね!」
そう言って、フィアは振り返って走り去って行く。
「さてと、俺も戻るか」
「アル」
「ひゃっ!?」
後ろから急に声をかけられて、フィアと同じような驚き方をしてしまった。振り返れば、俺を見下ろすスメルフがいて、
「ど、どうしたんだスメルフ、俺、今から戻るとこだったけど」
「……アル、頼みたい、事がある」
「え?」
「もう一度だけ、お前の、匂いを嗅がせろ」
「――あっ」
……そうそれは、
俺が【アロマ】の力で、拒否した行為、
だけど、
「――わかった」
俺は、スメルフの提案を受け入れる。スメルフは目を細め、そして、俺の首元あたりに鼻を近づける。すぅっと吸い込む音がした。
「……不思議な、匂いだ、この世の物とは、思えない」
「そんなの、解るのか?」
「ああ、解る、魂だけじゃなく、お前の心の匂いも」
――それは
「薄い、というより、無い、感じない、だが何か、一つある」
……それって、
俺が取り戻した【笑顔】の事か?
からっぽな俺の心の中に、唯一あるものを、匂いで感じたっていうのか?
「――これは」
――正直、怖い
嗅ぐ事を許したのは俺だけど、それでも恐怖を覚えてしまう。
こいつ、どこまで俺の事を見抜くんだ、
そう思ったけど、
「トマトと卵を、炒めた、奴か?」
「へ?」
思わぬ言葉に、俺は、間抜けな反応をしていた。
「……すまない、途中から、お前の体に染みついた、その香りがした」
「あ、あぁ」
な、なんか一気に力が抜けた、朝ご飯の匂いって、そこまで残るものなのか? サウナ入ったのに。
まぁでも、
「メディが作ってくれたんだ」
それは、【笑顔】と同じくらい、
「美味しかった」
俺の心に、今日、火を灯してくれたものだ。
「――そうか」
スメルフは俺から顔を離しながら、ふっと笑い、そして、
「心と体は、魂の器」
話し出した。
「欠けたり、歪んだり、からっぽであれば、それに宿る魂は歪み、傷となり、膿を出し、悪臭を放つ、それは何時か、世界を滅ぼす悪となる」
「――匂い」
「だが、ソーディアンナのように、人は誰もが、完璧な器を、もってる訳じゃ、ない、寧ろ、それが当たり前だ」
「……当たり前」
それは、良く考えればそうであるはずの常識なのに、俺にとっては、新鮮に聞こえた。
心がからっぽなのは、自分だけじゃない。
そう思うと、ほんの少し、本当にほんの少しだけど、
少し、心が軽くなる気がした。
「器が完璧でない、のなら、それを埋める何かが、あればいい」
「――朝ご飯」
「ああ、なんでもいい、心身が崩れても、それを補う何かがあれば、魂は、正しくあれる」
そう言ってから、スメルフは俺の肩を叩いた。
「お前が、誰かとの食事を、誰かとの時を、楽しむ者で、良かった、そうでなければ、噛み殺していた」
「そ、それは勘弁願いたいな」
「許せ、獣人の、宿命だ」
恐ろしい事をさらりと言うスメルフ、ただ、最後に、
「お前の、魂が、戦う時が、きっと来る」
こう言った。
「その時は俺を、友として、傍に、いさせろ」
「――友達」
……メディに、ドラゴンタクシーの上で、できるかなと呟いた事。
それが今日の内に、叶うなんて思わなかった。
その事実を噛みしめてる時――
「あれ?☆ ここにいたわけ?☆」
「お、お邪魔してしまったでしょうか?」
クラスメイト達が、どうやら迎えに来た。
「早くもどらないと肉なくなっちゃうよー☆」
「それは困る、まぁ、いざとなったら、狩りにいくか」
「はわわ、ワイルドですわー!」
と、ギャルの後ろを、お嬢様と並んで、尻尾をゆっくり振りながら、バーベキュー会場へ戻るスメルフ、俺もその後を追う。
正直、こうやって皆で過ごす時間に、違和感を覚えない訳じゃない。
幸せに心と体が追いつかない。それはきっと、俺の器が歪だから。
だけどそれでも、友達と食事する事が、嬉しくない訳じゃない。
(少しずつでいい、ゆっくりと進もう)
今は、隣で笑ってくれる、友達がいるのだから。
……まぁただ次のお題は、
ちょっと、いやかなり、全力で視線を反らしたいけど。
きっと、使うだけで、いや、
――六面揃えるまで苦労するだろうなぁ
【ル○○○○○○○ブ】スキル -ランク Lv2
スキル解説[ ]
アルズハート
[【笑顔】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




