3-7 サウナ回-ととのうよりも大切な事-
「スライムをぉ倒したぁぁぁ!?」
――火山の活動が再開し
すっかり、元の様子に戻ったボルケノンドと、予備の服を着せてもらった俺。おかげさまで予定通りのカリキュラムが行われて。
そんな中でヴォルケノンドの中心村、リザードマンさん達が忙しくなく働き、ドラゴン達が嬉しそうに歌い火を吐く場所。
溶岩石で作られた建物が建ち並ぶ中で、現在、焼けた石で肉と野菜を焼く、マグマバーベキューの準備中の所で、
俺達の報告は、ヴァイスさんをおったまげさせていた。
「はい、これがその証拠です!」
そう言ってフィアは、戦利品を見せる。それにまたおったまげて大声をあげるヴァイスさん。
「私達四人の勝利です、アルもスメルフも、良く活躍してくれた」
「まぁほとんどが、私とお姉様のおかげだけどね!」
「そうだな、俺は、ポーターに、徹した」
「俺も最後に、囮になっただけだしね」
「……そ、そう、ありがとう」
あれ? いつものフィアなら、そうでしょそうでしょ! って、調子にノる所なのに、なんか雰囲気が違うな。
「あ、あの、アルテナッシ」
フィアの呼びかけに、何? と、聞き返そうとした時、
「と、ともかくぅ! フィアとアンナはぁぁぁ! 私とこっちに来いぃ!」
それをかき消す、デカヴァイスさんのデカヴォイス。
「え? 私とお姉様?」
「――彼等はいいのですか?」
「庶民と獣人は後回しぃぃぃ! 先に聖騎士団の話を聞くぅぅぅ!」
そう言って、フィアとアンナはヴァイスさんに連れて行かれた。
……残されたのは俺とスメルフ、なんか気まずい。
そして、
「なんじゃとあいつら、スライムを倒しおったのか!?」
「イ、イカサマ、じゃねぇよな、どんだけ強いんだ?」
「ヤバ☆」
クラスメイトも、遠巻きに俺達を眺めてるし。
正直、居心地は悪い――だけど悪い事ばかりじゃない。
よかった事として、次のお題が【○○○】なのだ――カタカナはもちろん、漢字だけでもいける。
まさか飴と鞭の中で、これだけとびきり激甘なスイーツが入ってくるとは思わなかった。
めったにないだろうお題、でも、宝の持ち腐れにならないようにしないと。もったいぶってたら、【○。。】みたいに変化するかもしれないし――やっぱり【チート】か、いや、一度使ったスキルは再利用できないんだから、そこも含めて考えないと。
「――アル」
ん? スメルフが、話しかけてきた。
「疲れた、か?」
「え、……ああ、うん、正直しんどい」
「俺もだ、そして、バーベキューまで、まだ時間はある」
「ああそっか、だから皆、思い思いに過ごしてるのか」
なるほど、スメルフが何をしたいか解った。
「えっと、温泉、ご飯の前に入っておこうって事?」
そう、ここは観光地で、視界に入るだけで複数の温泉施設がある。
マグマ由来の風呂って熱そうだけどいいかもと、俺がそう思ってたが、スメルフは、
「アル、サウナは、入った事があるか?」
「え?」
サウナって、あのサウナ?
……スメルフの視線を追えば、サウナと看板に書かれた施設があった。
異世界にもあるんだ、いや、世界的にみれば風呂よりサウナの方が一般的か。水の使用量が少なくて済むし。
「サウナ、好きなのか?」
「いや、入った事は、ない、だが、興味はある」
「興味が」
「ああ――聞く話に、よれば、サウナをした後は、ととのうという、至高の感覚に、ステージにいくとか」
「ととのう」
「興味はあっても、試す勇気がない、……正しい入り方をしないと、命に関わる、と聞いている」
ああ、確かに、サウナってそういうものって印象はある。
とはいえ、前世は勿論、この異世界でもサウナなんて入った事がないから、実際の所は知らない。
そう、”一回も入った事がない”から、知識なんて全く無い。
入り方が解れば、教えてあげる事も出来たんだろうけど。
サウナの、知識。
……いや、
いやいや、
いやいやいや!
いくらなんでもそれはない!
……でも、
俺の心は、それをしたがってる。
皇帝陛下の時と同じだ、何かを倒す為じゃなくて、誰かの為にって。
――戦うだけがスキルじゃないよな
そう思った俺は、メニューを開いて、
【○○○】
その空白に、当てはめる、
「――【サウナ】」
その三文字を、願い呟いた瞬間、俺の中に、
――サウナの全てが
歴史、入り方、ロウリュ、温冷交代浴、フィンランド、自律神経、3set、オロポ、駿河区敷地にある天然水風呂、あらゆるサウナの知識が、俺の頭と体に入り込んできて、
――完成する
「――ととのう事を目指しても、ととのいはやってこない」
「……アル?」
「ととのう前に気持ち良く!」
「アル!?」
俺のいきなりの発言に、ビックリしたのはスメルフだけじゃない。他のクラスメイトもざわつきはじめた。
「行くぞスメルフ、俺がついてるから」
「あ、あぁ」
【サウナ】スキル Cランク
スキル解説[サウナの導き手になれる]
一度も入った事がないのに、俺の中にサウナの体験がうずまく。経験は今言葉として、自信と一緒に溢れてくる。
「ちょ、ちょっとお待ちになって、アルテナッシ様!」
サウナ施設に入ろうとした時、なんか清楚なお嬢様っぽい人話しかけてきた。続けて、他の女子生徒も口を開く。
「サウナの入り方を知ってるの……? 宇宙と一体化するという噂のサウナを……」
「わ、私も興味はあるのですけど、その、怖くて」
と二人が言った次に、王子っぽい人と語尾が変な子が来た。
「そうだよね、熱い所にいた後に、水風呂なんか入ったら、温度差で心臓止まりそうだし」
「そうですひひん、死んじゃうひひん」
ああ、その不安は良く解る。
ただ、何か未知な物に挑む時、正しく恐れるのは必要な事。車と同じ、どれだけ便利な物も、使い方を間違えれば牙を向く。あとひひんってなんだその語尾。
気付けば俺の周りには、1-Fの生徒達が集まっていた。
いつもの俺なら、しどろもどろしていただろう、だけど今の俺は、
――サウナーだ
「……サウナも水風呂もただの拷問、ととのうなんて、ただのマゾな行為って思ってる人も多い、だけど、これだけは確かだよ」
そこで俺は、ハッキリ言う。
「サウナと水風呂は我慢大会じゃない!」
「あ、なんか解ってる人っぽい発言! プロのサウナーだこいつ!?」「サウナのプロって何ですか兄さん!?」
よりざわつく皆に、俺は一呼吸してから、
「とりあえず皆、サウナで一番大事なのは水分補給だから必ず飲み物を買ってくれ。個人差はあるけど1回の入浴で500~800ml、1回のサウナで300~500mlの汗をかく、お風呂のあとサウナ3SETしたら、2リットル近い汗をかくから」
「ああ、耳障りの良い誘い文句じゃなくて、科学的な視点から説明してますわ!」
「クラスの皆、アルテナッシに続け-!」
「信頼」
――こうして
男女共用水着着用のサウナ施設を、クラスメイトで貸し切りにした俺達は、マグマの力を利用したサウナと、魔法でキンキンに冷えた水風呂、そして、水風呂を冷やすおっきな氷の塊、永遠氷越しに、ドラゴンの翼で仰ぐ事で、心地良い風を肌に感じさせる外気浴スペース、これらを使いサウナを堪能。
ロウリュやアウフグースも俺のスキルで行って、
サウナ、水風呂、外気浴、これを体に無理させず3set行った後、俺達に訪れたのは、
(たっぷり汗をかいたあと、水風呂でさっぱりして、裸に近い状態で風にそよそよ吹かれる気持ちよさ)
そして、頭はシャキっとしてるけど、体はふわふわしている状態、冴えた頭で体が休まってるのを全力で感じてる、ディープリラックス状態、
心身の安らかさを、激しく、なのにたおやかに覚える今を、こう表現する。
(――ととのった)
……この感覚を、クラスメイトのどこまでが共有してるかは解らないけど、
「あぁ……心臓のリズムが心地良いわ……ふへっ……」
「な、なんか凄いハッキリしてるひひぃん、ナニコレ、ナニコレヒヒィン」
「のじゃあ~」
「ヤバ、さいっこぉ……☆」
ととのうとかととのわないとか関係無く、気持ちいいのは確かみたいで、みんな、笑顔を浮かべている。
「アル」
「ん?」
「感謝、する」
「ん……」
俺の隣で椅子に座るスメルフの穏やかな顔を見て、
俺もまた――笑顔を浮かべる。
折角の【○○○】をこんな事にって思ったけど、
俺は、このスキルを使って良かったと心から思った。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




