3-6 Burning Hearts~炎のAngel~
炎の国に訪れた、極地的な冬景色、
――この光景をもたらしたスライム、{イグノアー}に対し
「――【剣聖】スキル」
アンナさんは一足早く、スメルフの背から飛び出して、
「〈ブレイブブレイド!〉」
背負っていた両刃の剣で、そのままスライムを両断する!
「やったかしら!?」
「いや、まだだ!」
フィアとスメルフが言うとおり、二つに裂かれたアイススライムだが、それぞれが分裂したままに、今度はアンナさんを挟み撃ちで遅い始めた。
だけどアンナさんは、片方の攻撃を剣の腹で受け止め、そして、もう片方のスライムは、フィアが、
「〈ハンマーストップ〉!」
そう、思いっきりぶっ叩くと同時に、彼女もスメルフから飛び降りる!
「お姉様、こっちは任せて!」
「ああ――ほらフィア、一人よりも二人だろ」
「はい!」
そして”聖”の文字を含む、Sランクスキルを持った二人は、ネームドスライム相手にすら無双を始めた。
「す、凄い」
「ああ、まるで嵐、だな」
スメルフの言うとおり、アンナさんの周囲には剣が閃き、フィアの周りにはハンマーが巻き起こす炎が燃えあがる。
アンナさんはともかく、この前、スキルに目覚めたばかりのフィアが、ここまで戦えるなんて!
「あはは! 弱いわねぇ!」
いや、火が氷に対して相性がいいってのもあるだろうけど、スライムが傍目から見ても、弱っていくのが解る。
「アルに出来る事は、私にも出来るのよ! アルよりかっこよくスマートにね!」
――才能の違い
俺がそれをひしひしと感じていると、
「とはいえ、どこかで、加勢しないとな」
と、スメルフが話しかけてきた。
「〔何も無しのアルテナッシ〕、実際、お前の力は、何が出来る」
「え、ええっと」
た、確かにこのまま黙って見てる訳にもいかない、いつどんな形で戦局が変わるかわかんないし。
となると、お題の【○ッ○○】を埋めるのは【タックル】か? ……いや、二人が善戦してるのに、俺が下手に体当たりかましても、邪魔になるだけか。
(――やっぱりもう一つの方に)
そう思った、その時、
ぶわっ! っと、
「うわっ!?」
温度がまた急激に下がって、今まで以上に寒くなってく、か、体が凍り付いてく!?
スライムの意志か――吹雪がひどくなっていく、どんどん雪が積もり、炎の大地が悲鳴をあげるように凍て付いていく。
さ、寒い、【セーター】使いたいけど使えない、
「大丈夫、か?」
「お、俺は大丈夫、そっちは?」
「大丈夫だ、だが、あの二人は――」
心配してフィアとアンナに視線を向ける。
いや、これだけ周りが凍り付いても、二人の勢いは落ちてない。特にフィアの方は、寒くなればなる程に、その吹雪を燃やす、体からの炎が止まらない。青白い景色の中で、フィアの周りだけ紅蓮に燃える。
傍から見ても、崩れ溶けていき、絶体絶命のスライムに対して、
「どうやらあんたは、私にとって天敵だったみたいね!」
フィアは燃え盛るハンマーを、ひび割れてきたスライムに、
「さぁ、この一撃でおねんねしなさい!」
振りかぶって叩き付ける――その一撃で、スライムは木っ端微塵に砕け散って、
ダイヤモンダスト、氷の結晶となり舞って、
そして、
「フィア、後ろだ!」
「へ?」
とどめの一撃で、隙だらけだったフィアを、
さっきまでアンナさんを相手にしていたスライムが、飛びかかった。
アンナさんの言葉も間に合わず、
――氷の一撃は重く深く入り
「きゃああ!?」
フィアを吹き飛ばし、ハンマーをその手から零れさせた。
「フィア!」
俺は叫んだ後、すぐに、
「スメルフ、走ってくれ!」
そう言えば、狼は何も言わずに駆け出した。スライムは、倒れてうずくまるフィアへ飛びかかろうとしている、アンナさんは、足元を凍らされて動けない。
俺がフィアを助けなきゃいけない、
――【タックル】じゃない
戦う人間が居る状況で、俺がすべきなのは、それを上回る火力を出す事じゃない、パーティープレイで大切なのは、自分の役割を確認する事、そう、
――守る事
俺はメニュー欄を開く、
【○ッ○○】
それに対して俺は、空白を埋める言葉を、
――”お願い”する
「え、あ、きゃあ!?」
ようやくフィアが身を起こした時に、片割れのイグノアーは、
氷で作った槍で、フィアを串刺そうとしていた。
だが、
――スメルフの背から飛び出した俺はフィアをかばうように降りたって
その槍を、
背中で受け止めた。
――バキィィィィィ!
「え?」
氷の槍は、ボッキリと折れた。
「大丈夫だった、フィア?」
「あ、あ、あんたなんで」
俺に命を救われた形になったフィアは、俺を見て、
「筋肉モリモリマッチョマンの変人になってんのぉ!?」
俺の、パンプアップして、おニューの制服をビリビリに破いた肉体を見て、叫んでいた。
【マッスル】スキル Aランク
スキル解説[筋肉で解決出来そうな事は全て解決出来る]
うん、フィアがそう言うのは解る、実際今の俺、デカヴァイスさんの鎧姿よりもでっかいマッチョで、この寒さの中上半身裸だもの。
でも筋肉は熱く燃えている!
……いや、やっぱり寒い! 余計な脂肪がついてない所為で、寒さが肌にダイレクトに来る、けどとりあえず、
――むんず、と
「え?」
俺は、フィアの体を片手で持ち上げると、
「力こそパワー!」
「うぇぇぇ!?」
アシモチャンに怒られそうな事を言いながら上へ放り投げた。それを、ハンマーを拾ってくわえていたスメルフがキャッチする。
スライムとタイマン状態になった俺は、奴相手に振り返り、
「はぁぁぁぁ!」
気合いをいれて、筋肉に力を込めて、大地に足をぶちこむくらいに踏ん張って、
全身に力を込めて、込めて、込めて、
込めて込めて込めて込めて込めて込めて、
――スライムが襲いかかってきた瞬間
その力を、
開放する。
「〈オウィッシュオンアマッスル〉!」
襲ってきた氷の体すらも砕く、俺のパンチは、
「うらぁぁぁぁ!」
雄叫びと供に繰り返される無呼吸の連打だ! 最強種のスライムの氷漬けになった体を、まさに力ずくで砕いていく!
肉のつぶての連射砲、筋肉の効果か、気分が高揚する、頭も体も燃えている、単純な体の反復運動が、ただただ体を動かす事が、とっても楽しい!
だけど、ランニングとは違う無酸素運動は、【チーター】スキルを使った時と同じく、
「あ、あ、あぁぁぁっ!」
いつまで持つ物じゃない――乳酸菌が筋肉にたまって、体が重くなっていく。連射は勢いを失っていき、そしてとうとう右ストレートが、
――からぶった
俺の拳に砕かれたボロボロになったスライム、しかし、魔物は最後の殺意を振り絞り、
ガラ空きになった俺に、一撃をくらわせようとして、
「――【剣聖】スキル」
その一撃を、
「〈ブレードバード!〉」
アンナさんの放った飛ぶ斬戟が、”ちょっかい”をかけた。
少し氷の体が砕けるだけで、ダメージには繋がらない、ただ俺を救う為に、スライムの意識を引く為の。
「ああやはりモンスター、すぐに挑発にのるのだな?」
アンナさんが、スライム相手に言葉をかけはじめた時には
――既にスライムの背後では
「だから、お前はもう終わりだ」
スメルフが高く飛び上がり、さらにその背からフィアが、
炎で作った翼と供に舞い上がっていた。
「【炎聖】スキル!」
そして十分な高度から、急降下しながら、燃えるハンマーを、
――イグノアーに叩き付ける
「〈バーニングエンジェルハンマー!〉」
熱く燃える重い一撃を以て、
氷のスライムの体が砕かれ、勢いまま、凍り付いた大地が叩かれた瞬間、
――冬の景色は一瞬で吹き飛び
そして、どかぁぁぁぁぁぁん! っと、
火山まで噴火して――
……十秒後、俺達が立っていたのは、
火の山が噴火し、マグマの川が流れ、ドラゴン達が喜びの鳴き声を火と供に奏でる、
炎の国の名に相応しい景色だった。
「あ、あっつぅ!?」
「なんと豪快で、勇壮な光景だろうか」
「凄まじい、な」
三人が次々と感想を言う中で、灼熱の熱気が、俺の肌を叩く。
(これが、炎の国ボルケノンド)
本来の姿を取り戻した光景に、胸をときめかせる俺であったが、
――そんな灼熱の中でも、ひやりとした冷気を感じた
まだスライムが!? そう思って振り返った、だが、
「――あれ?」
フィアが、素っ頓狂な声をあげる。
冷気の原因――フィアの足元に転がるのは、宝物、スライムを倒した証拠、
それは、氷で出来たハンマーだった。
「え、ええ!? 何これ、武器!?」
スライムから現れた武器に、喜びよりも驚きを覚えるフィア、それに、
「驚いたな、ここまでフィアの為に用意されたようなアイテムがドロップするとは」
「あ、お姉様」
アンナさんが話しかけてきた。そして、俺と、狼の姿のまま近づいてきたスメルフに視線を向ける。
「今回の戦果は皆が協力した結果だが、この報酬はフィアが手にするべきだと思うが、どうだろう?」
アンナさんの発言に、
「俺は文句ないよ、とどめはフィアが刺したんだし」
「あ、あんた、……ってあれ、マッチョじゃなくなってる」
「あ、本当だ」
「いや、本当だじゃなくて、なんなのよあんたのスキルは?」
「い、いやそれが、なんというか」
「ま、まぁいいわよ、助かったのは事実だし、その、あの」
「ん?」
「な、なんでもない!」
なんだ、何を言おうとしたんだろ?
疑問に思う中、スメルフが今度は、フィアに話しかける。
「素直に、なったら、どうだ」
「だから嗅ぐなぁ!」
「嗅いでない、嗅がなくても、解る」
「う、ううう~」
……まぁいいや、とりあえずお題がどう変わったかチェックしとこう、
メニュー欄を開いてと、あてはめやすい奴だったらいいけど――
【○○○】スキル -ランク
スキル解説[カタカナ限定3文字で]
「めちゃくちゃゆる~い!?」
「アル!?」
縛りがゆるければゆるかったで、驚きを隠せない俺であった。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




