3-4 もう一人のからっぽ
今の俺のスキルのお題は、【○ッ○○】。
……これを聞いて、二つのスキルがパッと思いついた。一つは【タックル】、強力なぶちかましはきっと、だいたいの敵に通じそう。
そしてもう一つの方は――こっちの方が強力っぽい。どちらを使うかは、状況に応じて選ばなきゃ。
にしても、お題が全部カタカナ混じり、漢字が出てこない。萩の星を使ってから漢字を混ぜるの禁止って言われてたし、スキル事態がこんな縛りプレイを仕掛けてくるのはなんでだろ。
……なんて事を、つらつらと考えているのが何故かというと、
「みてくだせぇ、生徒様ぁ!」
「おら達が心込めて育てたドラゴン達も、元気がなくなっちまっただぁ!」
「はぁ……」
と、麦わら帽子を被ったリザードマン夫妻に、同じような事をもう15分くらい聞いてるからだった。
――俺が今いるのはドラゴンの牧場
元々このボルケノンドは、その名の通りでっかい火山がシンボルの地方。そこから沸き上がる熱とマグマは、火をエネルギーや文化とする種族、そして、ドラゴンにとってまさに恵みそのもの。
(ドラゴンだけじゃなくて、温泉やマグマシチューみたいな観光資源、ボルケノンドは火山のエネルギーで成り立っている地方)
この灼熱の大地にて、元々一年生徒へのカリキュラムは、火のモンスターを討伐して、その後、温泉で汗を流してマグマバーベキューを楽しんで貰う流れだったみたいで、現地住民達もその為の準備をしていた。
ところが今朝、いきなり火山が力を失いこの有様だと。
空は赤く見えるけど、それでもリザードマンさん達曰く、いつもはもっとこりゃ赤い、との事で。
大地に力が無いせいか、放牧されてる、ずんぐりむっくりぬいぐるみみたいな赤いドラゴン達も、やる気を失ったみたいにぐでーと伸びてる。正直かわいい、ちょっともふりたい。
「どうにかして生徒様にはぁ、火山様を復活させていただきてぇ」
「い、いや、そういうのは、先生達に頼んだ方が」
「でんもぉ、他の生徒さん達がぁ、貴方様がトップで入学したって言ってただよぉ」
ああうん、言ってた、ていうか現在進行形で言われている――今の一年生達は、待機中な訳だけど、そうすると出来る事は話すくらしかなく、俺が聖騎士団にスカウトされた事、獣人と一悶着あった事、そして、俺が凄いスキルの持ち主なんじゃないかって話も盛んにされている。
そんな噂話が原因で、ここのリザードマンに頼まれ事をされている訳で。
「頼むだよぉ生徒様ぁ」
うう、なんとかしてあげたい気持ちはあるけど、俺じゃどうしようも。
――メディも隣にいないこの状況じゃ
とか思ってた時、
「何を、してる」
スメルフが、後ろから話しかけてきた。
「いや、実は」
「リザードマン達との、話は、聞いている、鼻ほどでは無いが、俺は、耳もいい」
「ああ、だったら」
「何を、してるとは、何故、断るか、という事だ」
「え? いや救うたって、何をすればいいかも解らないのに」
「――匂いは、する」
「え?」
何を言い出すんだスメルフ? って、わっ!? ひ、人から、試験の時みたいなでっかな狼になった!
のほほんドラゴンとは正反対の、凶悪な面構えをした巨大狼に、ビビる、リザードマン夫妻、
「うわぁぁぁモンスター!?」
「ひえぇぇぇ!?」
夫妻だけじゃなく、寝そべってたドラゴン達がピュケェェェ!? と鳴き声をあげるので、
「あ、大丈夫です、モンスターじゃないです!」
と言った俺だが、むんず、と、
「え?」
服の後ろを銜えられて、そしてそのまま上へぽぉいって放り投げられて!? わわっ!? と思ってたら、そのままもふっ! と、柔らかい毛でいっぱいの、スメルフの背に着座させられて、
「しっかり、掴まれ」
そ、そして、走り出す!? わ、うわぁ!? どんどん景色が遠ざかってく!? ロデオマシンみたいに体が揺れる!?
「ちょ、ちょっと待て、待機しろって言われてるのにここから離れたらまずいって!?」
という俺の願いも虚しく、スメルフは俺を乗せて全力疾走し、
「あ、貴様等、どこへ行くんだぁぁぁ……」
俺達の逃亡に気付いた、ヴァイスさんの大声すらも置き去りにするくらいあっという間に離れてく、【チーター】程じゃないけど、凄い速度だ。俺は冷や汗をかきながら、座り直してスメルフに問いかける。
「ちょ、ちょっとどこへ行くんだよ」
「トラブルの、匂いの、元だ」
「匂いって」
「ああ、この大地に、不要な匂いが、する」
そう言いながら駆けるスメルフ、……ダメだ、もう引き返す方法は無い。
ひび割れた大地を走っていけば、数分もしない内に、ドラゴン牧場はあっというまに見えなくなってしまった。
にしたって、この国のパワーの源、火山の噴火を止めるくらいのトラブルの匂い?
……なんか嫌な気配がする、鬼も蛇も両方出てきそう。正直、帰りたい。……そんな風に思ってると、
「……あれ?」
なんか空にドラゴンが飛んでて、それがこっちに向かってきてて、
「え!?」
誰かが、ドラゴンから”二人”で飛び降りてきた!?
――あれは
「きゃあぁぁぁ落ちるぅぅぅ!?」
「すまない!」
悲鳴と笑顔のセットで降りてきたのは、
「乗り換えさせてくれ!」
「フィアと――アンナさん!?」
【炎聖】と【剣聖】、その二人だった。しかし突然の出来事にも関わらず、スメルフは、動じる事もなく軽くスピードをあげた後に跳ねあがる。
空中で二人をその背にキャッチして乗せる――
「わぁっ!?」
いや、ハンマーを片手にしたフィアは、その重さが邪魔して落ちそうになって、
だけどガシッと――空いてる方の手を、アンナさんがしっかり握って引き上げた。
「大丈夫かい、フィア」
「あ、ありがとうお姉様」
「ふふ」
「な、なんですか?」
「いや何、最初会った時みたいに、お姉ちゃんと呼んでもいいんだが」
「そ、それは貴族様相手に余りに不敬です!」
狼の背の上で、顔を赤くするフィアに、穏やかに微笑むアンナさん。
……フィアの謎のお姉様呼び、この様子だと、帝国の教会へ神託をもらいにいって、スカウトされた時に、アンナさんと知り合ってその時から、って感じか。
お姉ちゃん、か。
そういえばまだお互い小さい頃、俺、フィアにお兄ちゃんって呼ばれてたっけ。
「……何見てんのよ、アル」
「あ、いや、なんでも」
俺にみつめられてた事に気付いたフィアがそう言ったので、俺は慌てて弁解する。
「お姉様、私、反対です、こいつらと一緒に行動するなんて」
「だが、きっと目的地は同じじゃないかな、サラマンダーよりずっと早い狼殿」
そうアンナさんが、スメルフに問いかければ、
「お前達は、空から、調査をしてたか」
そう、スメルフは、質問に質問を返した。
ああ、と言った後、アンナさんは、
「私達より早く、異変の原因に気付いたのなら、是非、協力させて欲しい」
「ああ、俺は、構わない」
アンナさんとスメルフのやりとりに、
「か、構わないって、なんであんた達と」
フィアは、不満そうな表情を浮かべると、
「手柄を独占したい気持ちは解る、功を焦るのは若者達の特権だ、だが、一人じゃ出来ない事も沢山ある」
「うぐっ」
「それともあれかな、君が今日のフィールドワークであぶれないよう、私が特別にやってきたのは、迷惑だったか」
「そ、そんな事ありません、嬉しかったです!」
「だったら”お姉ちゃん”のお願いを聞いてくれたまえ、フィア」
「わ、わかりました」
おお……あれだけおてんばなフィアが、すっかりおとなしく。
とか思ってたら、アンナさんはこっちを向いて、
「改めて、よろしく頼む、アル」
そう言って、今朝のように手を伸ばしてきたから、
おれはその握手しようとした時、
「ソーディアンナ、なぜ、お前の、言葉からは」
走りながらスメルフが、突然、
「――真実も、偽りも、匂わない?」
そう言った。
……そう言われたアンナさんの笑顔は、
「……なるほど、君は」
「その鼻で、人の本質を見抜くのか」
かつて俺が浮かべていたような、母の言われるままに練習しただけの、
作り物の、からっぽの笑顔に、良く似ていた。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




