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3-3 アルくんくんかくんか

 1200人の生徒達が通う、英雄教育施設円卓帝国学園。

 五年制で、小中高のように30~40人前後で基本クラスが分けられる中で、俺は1-Fに配属された。そう、いわゆる底辺者が集めさせられているというFクラス。

 確かに、クラスの中には、前の試験の時に見かけた人もいる。

 大学にあるような階段教室(アリーナスタイル)。担任の挨拶と学園の説明、その直後、生徒同士の交流を目的として設けられた休憩時間で、


「ええと、彼が〔何も無しのアルテナッシ〕?」

「ちょっと男子~、 声かけなよ~」

「え、賭ける? 命を?」

「おいここにデスゲーム(死の賭博)経験者がいるぞ」


 早速、浮いてしまっていた。

 ……このクラスの担任(美人)からは、講座や実技などの基本的な授業が行われると同時、大陸の様々な場所で開かれる、”ダンジョン攻略”や”ギルドクエスト”といった、フィールドワークがメインとなるって説明された。

 そして今、円卓帝国は、早速その授業の為の場所へ向かっていて、そこに着くまでに、

 ――はーい、それまでに二人組作って~

 と、言われたのである。


(これ、俺だけがあぶれる奴(前世で経験済み)!)


 いや、俺にはメディがいるからと思ってたけど、従者は別枠ってハッキリ釘を刺されたし。ちな今(ちなみに今)メディは、諸々の手続きの為に教師室へ行ってる。


「いやだって、聖騎士団様にスカウトされた奴だろ、俺が組んでも足手まといになるって」

「けど試験を合格したのは……あの子の実力じゃなくてメイドの力って噂があるわね……」

「疑念」

「いや、そんな事はないと思うよ、彼自身の(スキル)が無ければ、学園生活を送れる訳がないんだから」

「でもオージ様ぁ、力の得体が知れないひひん、〔何も無しのアルテナッシ〕ですしひひん」

「でも聖騎士団に目をかけられてるだけで、私達と住む世界が違うっぽいし、……あとひひんって何その語尾?」


 ひそひそ話がでかいのか、俺の耳が良すぎるのか、容赦無く聞こえてくる話は、俺自身が納得せざるを得ない物。

 聖騎士団の話は、一旦保留にしてもらったけど、それが俺とクラスメイトの壁になってるのは明白で、


(い、いやだからって、自分から動かなくてどうするんだ)


 前世じゃできなかった事、母さんから禁止されてた事、


(友達は、自分から作らなきゃ)


 そう思って、立ち上がったその瞬間、


 ガラ(スライド音)バン(戸が端にぶつかる音)! っと、教室のドアが勢い良く開く音がして、え、っと振り向けば、


「――ここに、いたか」

「え、へ」


 そこにいたのは、


「スメルフ!?」


 三日前、入学試験の時に俺をフィアから助けてくれた、緑混じりの黒い長髪をした、褐色肌で長身の狼の獣人だ。


「じゅ、獣人がなんのようだし☆!?」

「恐れるな、遅刻したが、今日から、俺も、このクラスだ」

「クラスメイト☆!? マジで☆!?」


 なんかギャルっぽい人が驚きの声をあげる。ノーネクタイの胸元をはだけさせたスメルフは、俺に鋭い眼光を向ける。


「獣人が……私達のクラスに……? 病みくない……?」

「あ、あの種族は女神様から、Eランク(ゴミスキル)しか授からない奴等だろ?」

「素の能力が高いからって、学園に合格するだなんて」

「は、はわわ、ワイルドイケメンですわぁ!」


 クラスメイト達の話が聞こえる中で、ずかずかとスメルフは俺に歩いて、い、いや走ってきて!?


「わ、わわわ!?」


 思わず後ろへと飛びのいたけど、そこは壁な訳で、それで、

 ――ドォン!

 ……俺は、長身のスメルフに見下ろされながら、壁に手を突か(壁ドン)れた。


「お、俺になんの用?」

「お前は、俺に、借りがあるな」

「え、ああ、うん」

「その借りを、返して、もらっていいか?」

「お、俺に出来る範囲であれば」

「よし」


 そう言ってスメルフは、何、なんか顔を近づけてきて、


「――嗅がせろ」


 と、言った。


「え?」


 と、俺が驚く間に、

 ――くんかんくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんか


「って、ちょ、ええ!?」


 俺の体を匂い始めた!? 髪、首元、鎖骨、指の間、いやそんなところまで!?


「ちょ、ちょっと何してんだあいつ!?」

「ここは学舎(まなびや)だぞ!?」

「はわぁ!? だ、誰か絵師様を呼んで記録してくださいまし!」


 いや、こんな姿を残そうとするなそこのいかにもなお嬢様!?

 や、やばい、ただ匂いを嗅がれてるだけど、変な誤解をされてしまうような状態なのは確かで――


「お待たせしましたご主人様、フィールドワークですが、今回は私は参加出来ないと……」

「あっ」

「えっ」


 メディ、来ちゃった。

 あああああ!?


「ご、ご主人様!? 一体何を!?」

「いや違うんだって、こいつが勝手に!?」

「すぅぅぅぅ……」

「いや胸元に顔を埋めて吸うな!?」


 俺は勿論周囲がざわつく中で、スメルフは全く気にしないまま俺の匂いをかぎ続けて、

 そして、


「やはり、な」

「え?」

「危険な、匂いが、する」

「――え?」


 その一言に、俺は呆気にとられた、だが、


「お前、どこから、来た?」


 その言葉に背筋が凍った。


「な、何を言って」

「俺の【嗅覚】スキルは、Eランク、だが、もとより俺は、鼻がいい、だから解る」


 胸元から顔をあげ、俺の耳にかじりつかんばかりにその顔を近づけて、


「世界を、壊し、かねない」


 告げる。


「魂の、匂いさえ」


 やばい――

 転生バレ、する。

 それが危険な事に感じた俺は、咄嗟に、

 ――スキルメニューを開いて、


 【○○マ】


 この空欄に、思いついた言葉を反射的に埋める。


「【アロマ】」


 ――その瞬間


「ふぐっ!?」


 スメルフは一気に飛び退いた、涙目になり、自分の鼻を抑えている。


「貴様……!」


 いきなり離れて、俺を睨み付けるスメルフに、周りも騒いでたが、


「なんじゃ、この香しき匂いは?」

「なんだか凄く和む~」

「花の香りかしら~ふろーらーる~」


 だんだんと、皆は俺から漂う香りにリラックスしていった。しかし一方でスメルフは、俺に対して怒りを滲ませていく。


 【アロマ】スキル -ランクD

 スキル解説[TPOに合わせた素敵な香り空間を演出、ラベンダーはリラックス効果があります]


 どっかで聞いた(WeTube)事のある知識(解説動画)、アロマは、人間にとっては心地良くても、嗅覚の鋭い()にとっては刺激が過ぎる。

 と、とりあえず離れてくれた。


「ご、ご主人様、一体何が」

「ああ、メディ」


 メディが駆け寄ってくれたと同時に、


「――面白い、男だ」


 スメルフはそう言って、ふっと笑った。


「決めた、フィールドワーク、俺と、組め」

「え、ええ!?」

「どうした? 今回、メイドは、連れて行けないのだろう?」

「い、いやでも」


 スメルフの申し出に、俺もメディも慌てていた、


「借りは、まだまだ、返して貰ってない、そうだろう?」

「そ、それはぁ」


 相手は確かに、俺の試験合格を恩人、だからこそ危険な匂いのするこの男に提案を、受けるかどうか悩んでいた、

 その時、


「ぴんぽんぱんぽぉぉぉぉぉぉぉぉん!」

「うわ!?」


 スピーカー、じゃなくて、物凄くでかいヴァイスさんの声が、教室の外から聞こえた!? 全員がざわつく中で声は続く。


「【大声】スキル〈ボイスインフォメーシ(大声復古の大号令)ョン〉であるぅぅぅ! 1学年ども、その場から動くなぁぁぁ! でなければ、座標が、ズレるぅぅぅぅ!」

「ざ、座標がズレる?」

「今より、魔法院所属のトビッキーによる【転移】スキル、〈イリュージョンシフ(幻想瞬移動伝)ト〉、発動ぉぉぉぉぉ!」


 わ、俺達の足元が薄緑色に光る!

 もしかしてこのまま、瞬間移動!?


「あ、ご主人様!」


 光はメディの足元には現れてない、……あ、ひひんが語尾の子にも現れてなかったけど、オージって人に無理矢理しがみついた。え、大丈夫あれ? 合体事故(メガテン)みたいな事起きない?

 なんて事思ってる内に、そのまま光に飲み込まれて――

 ……、

 光が、晴れたら、

 空には円卓帝国があって、そして、

 中ではなくここは外だ――それも青空でなく、赤い空。

 だけどこれは夕焼けとかじゃない、空そのものが赤い、赤空(あかぞら)だ。


「全員揃ってるなぁぁぁ!」


 その赤い空をバックにして、


「お前達の初授業はぁぁぁ! ここ、円卓帝国の領土、ボーボー地方ぉぉぉ!」


 俺達と同じく、トビッキーって方の【転移】スキル、幻想瞬移動(しゅいど)伝で移動してきたっぽいヴァイスさんが、他の先生さん達に混じって、目の前に立ってて、


「燃えあがる炎の国、ボルケノンドぉぉぉ!」


 その言葉(大声)のとおり、火山が噴火し、マグマの川が渡る、身も心も燃えあがりそうな灼熱の国、

 ……そのはずなのに、


「――あれ?」


 一年生徒全員(238人)が降り立った大地はひび割れて、火山からあがるのは火炎ではなく、ぷすぷすと力なく煙があがるばかり、肌に感じる気温も、熱さというより生ぬるさを感じる程度。

 ――例えるならば空だけが真っ赤な乾季(干ばつ時)のサバンナ

 全然、名が体を表していない光景に、


「あれぇぇぇ!?」


 ヴァイスさんの、でかい鎧からのでかい声が、また響いた。

・更新情報

6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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