3-2 回る回るよ社会は回る
――【○。。】
空白と句読点二つでなく、空白一つと小さな空白の組み合わせ。ャュョみたいな小文字しか埋められない。
俺は最初、シャッ、とか、シュッ、とか、それっぽい言葉を当てはめてみた、だが、
[真面目にやってください]
と、スキル解説欄に怒られたし、挙げ句の果てに次に変なのいれたら1週間インターバルとか言われた。
俺の力なのに、とことんまで俺を困らせる謎仕様。
……結局、俺は虎の子のパス権を、使うしかなかった訳で。
「だから今は、【○○マ】になってる」
「な、なるほど」
空飛ぶ円卓帝国の更に上空、ドラゴンの背の上で会話をする俺とメディ。尚、運転手さんにはパズルの話だと誤魔化している。
「それもまた、難問ですね、最後にマがつく言葉」
そう、ありそうでないんだよね。思いついたのは焼き鳥の【ネギマ】、……ポケットの中に出てきたらべたべたになりそう。
「授業の時までに何かいい言葉を――」
と、話してた時、
「よぉし、そろそろ学園に運んでやろうかぁ!」
と、運転手さんが言った、だが、
「すみません、”迷宮”前に降ろしていただけますか?」
って、メディが言った。
え、迷宮? 学園じゃなくて?
というか、そんなのがこの街にあるの?
「ご主人様は、円卓帝国に来てまだ日が浅いので」
「なるほどな! ほい来たぁ!」
俺の疑問もよそにドラゴンは加速をつけて、一気に帝国の中央部へ向かって行った。
そして、多くの人達が集まる中で、翼をはためかせながら降り立つ。俺達もドラゴンの背から飛び降りた。
「ありがとうございました!」
「楽しかったです!」
礼を言う俺達に、ニカッと笑った運転手は、そのまま飛び去っていった。それを見送った後、俺は上空から見えていたものの入り口に、改めて視線を移す。
「本当だ、いかにもダンジョンの入り口っぽい」
古代遺跡といった風情で、朽ちかけても神秘さを保つ建造物の入り口は闇深くて、危険とスリルの匂いがいっぱいする感じ。
「もともとこの帝国は、150年前、この迷宮が発見された後に、冒険者達が集って街が出来たのが始まりです。迷宮は130年前に、初代皇帝に完全制覇された後は、宝も取り尽くされてモンスターも弱体化したとかで、学園の授業に使われるくらいですが」
そこでメディ、懐から何か取り出した。
「ドラゴンタクシーの座席にあった、円卓帝国のマップです」
渡されたそれを見る。
壁で丸く囲まれた国は二重構造、外側が居住区や商業区、
そして一番中央に城があって、その周りをぐるっと取り囲む六つの施設、それぞれに、
Sorcery 魔法院
Paladins 聖騎士団
Institute 研究所
Regency 摂政機関
Academy 学園
Labyrinth 迷宮
って、書かれてた。
「そっか、メディが迷宮前に降ろしたのは、俺に帝国の成り立ちを説明する為か」
「それもありますが――もっと驚く物をみせようと思いまして」
「へ?」
「ご主人様、気付きませんか? 周りにご主人様と同じ、学生が沢山いる事に」
言われてみればみんな制服姿だ。学園に登校しなきゃいけないのになんで、って思ってたら、
ズズズ、って、
「ん?」
あれ、なんか、迷宮が建物ごと左にズレていってるような、
って思ってたら、ゴゴゴゴ、って!?
「え、な、何、動いてる!?」
「はい、回転してます」
「回転!?」
「はい、二重構造の真ん中、つまり城と六つの施設が、時計回りに定期的に回転するのです」
「なんでまたそんな事」
「各施設に居住区から行きやすくする為です。朝の通学通勤時は、15分で一周する早さです」
「な、なるほど」
「これもまた、エンペリラ様の【皇帝】スキル、〈ワルツオブソシエティ〉」
そ、そっか、これも皇帝様のスキルなんだ。慣性の法則とかなんだとかも、きっと、それでなんとかなってるんだろうな。
……。
どうしよう、円卓っていうより、中華料理屋のテーブルみたいに思えてきた。
「あ、ご主人様、学園の入り口が見えてきましたよ」
「あ、本当だ」
試験の時に、無理矢理飛び込んだ場所だ、三日しか経ってないのに懐かしく感じる。
俺の学園生活の始まりが、近づいている――
「え、ちょっと待って!?」
「なんであの方が校門に!?」
あれ、なんか騒がしいな?
「せ、聖騎士団のトップじゃん!」
「あ、ハンマーを持った奴もいるぞ!」
「足首をくじいた子!?」
え、それって、フィアの事? なんか、不本意な感じで有名になってるなフィア。
そんな事を思ってる内に、目の前にズズズっと、学園が移動してきて、
――そして
「お初にお目に掛かるよ、〔何も無しのアルテナッシ〕」
俺の目の前に現れたのは、仏頂面のフィアの隣で、優雅な笑みと、それに相応しい金髪のポニーテールを輝かせる、剣を背負った騎士姿の女性、
「私は、帝国学園2年、聖騎士団団長である、〔剣聖ソーディアンナ〕だ」
「え!?」
「け、剣聖様で、聖騎士団団長!?」
せ、聖騎士団って、フィアが所属してる、なんか凄い組織だろ? そのリーダー?
なんでそんな人が、俺に挨拶を? 1番だから?
「ああ、私の事をどうか、アンナと読んでくれ」
「は、はひ、アンナさん」
「そんなに緊張しないでくれ、皇帝陛下も言ってただろ、壁は乗り越える為にあるのだって。身分は違えど、私と君は同じ志を持つ学生だ」
「そ、そうですね」
「ともかく、よしなにだ」
そう言って彼女は、俺に手を差し伸べてきた。
これって、握手?
(いいのかな?)
一度メディと目を合わせれば、メディも首を傾げた様子。ともかく、しない訳にもいかないから手を伸ばしたら、
「ダメ、ダメ、ダメぇ!」
「うわ、フィア!?」
な、なんか急にインターセプトしてきた?
「こ、こんな男と手を繋ぐなんて、お手々が汚れますよ、お姉様!」
「お姉様!?」
え、なんだその呼び方!? お姉様!?
「だけど彼は、フィア、君と同じ施設出身の輩だろ? 君にしたのと同じ事を、彼にしてはいけない道理は無いと思うけどね」
「い、いや、それはそうなんですが、そうなんですけどぉ!」
な、なんかともかく、俺とこの人が手を繋ぐのは嫌っぽい。
確かに、身分差みたいなのはありそうだし。
「……前々から思ってたのですが、フィア様は、ご主人様を」
「え、なに?」
「い、いえ、なんでもありません」
メディが口を濁した事に、首を傾げてると、
「本題に入ろうか、あまり、この場所に留まり続けるのもよくないしね」
「は、はぁ」
確かに、俺とアンナさんとのやりとりは、凄く注目を浴びている。それも、余りいい雰囲気ではなく。正直言うと居心地が悪い。
だけど彼女はこの雰囲気の中で、穏やかな笑みを保った侭に、
「単刀直入に言おう」
こう言った。
「私は、いや、私達は君が欲しい」
「――へ?」
その言葉は、
「私は君を、聖騎士団に勧誘する」
「「「えええええ!?」」」
俺とメディとフィアは勿論、周りの人達にも驚きの声をあげさせた。
・更新情報
6月いっぱいまで毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




