E-13 仲間を求めて
――ドルルルオォン!
って、けたたましい音が響く、心臓と共鳴して躍動しそうな激しいリズムで。
赤い空、青い地球、地平線まで見える荒野に、
その音を響かせるのは、
「【カート作り】スキル」
で、作られた、
「はいかんこうカートのマシンを再現しました! オフロード仕様、オートパイロットなので初心者にも安心です!」
だった。……うん、大人の姿になっても、ゲーム好きは相変わらずだし、子供みたいにはしゃぐ様子を見てなんか安心した。
「な、なにこれ!? どういう乗り物!? すごいすごい!」
「ピキャー!」
あ、フィアもはしゃいでる。なんか和む。
「でもこれって一人乗りなんじゃ」
「同乗者は、はいかんこうカートダブルダッシュみたいに、後ろにしがみついてください」
「事故りませんか!?」
ダメだ、ゲームと現実をごっちゃにしてるこの女神。まぁ正確にはゲームと異世界だからなんとかなるだろうけれど。
「あ、お気に入りにならないのでしたら、空気ライダーというゲームに出てきたマシンをご用意できますが」
「こ、これで大丈夫です、感謝します! それでええと」
俺は改めて、聞き返す。
「俺がすることは、七大スライムに乗っ取った人達を倒して、【○】に使える文字を増やしていくことですね?」
「ええ――それがあの神殺しをなしえた、【奇跡】の体現者であるセイカを止める方法」
「……あの、例えば、セイントセイラ様が【奇跡】スキルを使ったら」
「勝てません」
キッパリと、言い切った。
「私の与えた【奇跡】スキルは、彼女のからっぽと、それを満たす愛によって、私の力を超えるものになってしまった」
「――そんなに」
「無論、七大スライム{ヴォイド}の力もあってのことでしょうが、……そもそもスライムを七大にしたのもあの子ですし、あの子がここまで強い理由は、うむむ~……」
あ、神様なのに悩んでる。なんかはいかんこうカートのくだりから、一気に砕けたな女神様。ゲームって、大人をいつでも子供に戻してくれるのかなぁ。
「――ともかくも」
あ、悩みを放棄した。
「ともかくも私は、スライムを倒すことの経験で、あなたの心を強くして、【○】の字を増やしていくようにします」
「えっとつまり、また俺の心の中に入ってくれるってことですか?」
「ええ、ただ――おそらくは以前のように、心の中でお喋りはできません」
セイラ様は、
「神様が、たった一人を愛するというのは、それだけ集中せねばならないことを知ってください――そしてその代償として」
言った。
「【ハートフルデイ】を使ったあとにはもう、あなたのスキルを無くすことを許してください」
「――えっ」
その言葉への驚きは、
「お兄ちゃんのスキルが無くなる!?」
フィアの方が、一番だったみたいで。大きな声をあげる。
「そ、そんなの、なんで!?」
「おそらく【ハートフルデイ】は、あなたの心を限界まで使うことでの、【奇跡】殺しの力になります。それを使った後の心では、Eランクスキルすら使うことは出来なくなるでしょう」
「でも、そんな!」
食い下がろうとするフィアを、俺は、
手で制した。
「……お兄ちゃん」
……スキルが、無くなる。
俺が本当の意味で、〔何も無しのアルテナッシ〕になる。
それはどこまでも怖いこと、拒否しなきゃいけないことのはずなのに、
「大丈夫だよ」
俺が笑って、それを受けいれられるのは、
「メディが、傍にいてくれるから」
俺は腰に下げた、刀の柄を握った。
パチリと、優しい電流が、俺の言葉に応えてくれたような気がした。
「……うん、そっか、そうだけど、お兄ちゃん」
フィアも笑って、
「私もいることを忘れないでよね!」
そう言ってくれたから、俺も笑う。
「――そのメディクメディのことですが」
そこでセイラ様は、
「"あなたの傍にいたい"というのは、説明欄に書かれている通り本心でしょう」
……セイラ様に言われて、俺は刀をみつめてみる。
【紫電】スキル SSランク
スキル解説[ずっとあなたの傍にいたい]
刀から浮かび上がるステータスには、今も、メディの思いが綴られている。
「しかし同時に、あなたを不幸にしたくないから、"あなたの傍にいたくない"というのも本気のはずです」
……ああ、それもわかる。
――メディはどこまでも優しいから
人を殺してしか幸せになれないって、思い込んでしまった自分じゃ、俺の傍に立つことが許されないと考えているのだろう。
それが恐怖からか、覚悟からかはわからないけど、
「大丈夫です」
俺はすべきことは、まず、
「会ってきます」
それだけだ。
「……ええと、心がけは立派なのですが、肝心のメディが、よりにもよって次の主人に見出したのが、あのエルフリダですよね」
え?
「【支配】スキルでああだこうだされているかと思えば不安で、前の男のことなんて忘れさせてくださいとかメディが望んでたら」
え? え? え?
エルフリダ様に、メディ自らそう頼むパターン?
それって、えっと、あ、
――パーン!
「え、ちょっと!? お兄ちゃん!?」
「ピキャー!?」
あ、やばい、また脳が破壊された。この想像はまずい。別のことを考えなきゃ!
「お、俺がすべきことは、七大スライムを倒すこと!」
俺が叫ぶと、慌ててたフィアも、すぐにふっと笑って、
「その為にはお兄ちゃん、まず、仲間を探そう!」
「――仲間を?」
「Fクラスのみんなとか、お姉様とか!」
「……みんな、俺のこと恨んでたりしないかな」
「あったりまえじゃない!」
フィアは、チビと共に笑顔で、
「みんなお兄ちゃんが大好きなんだから!」
そう、言ってくれた。
その言葉に俺は、
――大将は、優しいじゃねぇか
学園祭前での、ライジとの屋上での会話と、
笑顔を思い出した。
(大将なんて、ガラじゃないのに)
それでもあの時の言葉は、今の俺に、勇気を与えてくれる。
みんなと再び会う勇気と。
「……あ、た、ただ私の大好きは、"しょうがないから大好き"ってことはわかっといてよね! この1年間お兄ちゃんを守ったのも、お兄ちゃんが本当かわいそうだったからで、ほら一応、ライジからも託された訳だし? 本当のガチの意味で〔何も無しのアルテナッシ〕になったお兄ちゃんを見捨てるのは流石にできない訳だから、それで一応仮に大好きってことにしておかないと、ほら、色々とアレがアレでしょ? ともかく私は別に、お兄ちゃんのことなんか、本気で大好きな訳じゃないんだから! 本当ここテストに出るくらい重要だから勘違いしてもいいけど勘違いしないでよ!」
……なんか急にいっぱい話してきたけど、うん、俺のことを仲間だと思ってくれるのは伝わったから、良し。
そんなやりとりをしていると、
「この赤い夜は、セイントセイカが作りだした。人々の不安を煽り立て、ロマンシアが造る"夢想結界"に誘導するためのもの」
「――夢想結界」
「セイカにとって人の幸せとは、何一つ悩みのないこと、……それをけして否定はしませんが」
セイラ様は、目を見開いて、
「悩むかどうかすらを悩ませないことを、私は、幸せと言いたくないのです」
そう言った。
「……やるべきことは山積みです、スライム討伐、メディの救出、夢想結界の解除、大和への訪問、それに今、スライムと同化したエンペリラが、円卓帝国をどう治めているか? 同じく、エルフルリダのエルフの森は? セイカの国のある聖山は? どこから訪れ、何から手をつけるか」
本当に、言うとおりだ。
ロードマップも出来やしない。
「そして――そもそもスライムとはなんなのか」
その上に、セイラ様は更なる問題を提起する。
「私が語った歴史なぞ、たかだか1000年、実際はそれより前から、スライムをはじめとしたモンスターがいたでしょう。……そもそも、この世界のドラゴンが最弱のモンスターなのは何故か? 何故スライムが最強なのか?」
「え、それって当たり前じゃ」
フィアがそう言うけれど、
「それならば何故チビは、あなた達を助ける時、あのような姿になったのか」
そう、あの夜のチビが、俺達を助ける為に、美しいほどに恐ろしい、火焔のドラゴンになったことを指摘した。それにはフィアは押し黙り、チビは頭の上に?を浮かべたような顔をする。
「――そして」
セイラ様は、最後に、
「何故この世界の言葉は、地球の言葉、いえ、日本語とここまで似通っているのか」
それを言った。
……言われてもわからない、
きっと帝国の大図書館にも、書かれていない。
だから、
「探します」
俺は言った。
「仲間と共に」
……その言葉に満足そうな笑顔を浮かべた後、セイラ様は、俺の胸に手をあてた。
彼女の体が薄らいでいく。
「……アルテナッシ、最後に、アルズハートのことですが」
「――わかってます」
そうすぐ、答えた後、
俺は俺だけにしか見えないステータスを浮かべる。
アルズハート
[【笑顔】 ]
「……元々これは、母から奪われたものを取り戻すものだった」
そう、俺は――過去に幸せを求めた。
小学校の笑顔の写真だとか、手作りの賞状とか、運動靴とか、
過去を、捏造してしまった。
だから、これからは、
「俺の未来から、選び出します」
そう、答えた。
俺のその言葉に、優しい微笑みを浮かべながら、
「話すことはできませんが、私はあなたの心にずっといます、どうか私の力で」
そこで女神様は、少し言いよどんで、それから、
「――幸せになってください」
世界を救えとか、そんな使命じゃなく、そう祈ってくれた途端、
俺の心の中に消えていって、
«またテンラちゃんと、ゲームであそうぼうね、おにいちゃん»
そう、最後に、心の声を響かせた。
……ちょっとした静寂、だけど、
「行こう、フィア!」
俺はそう言って、カートに乗り込む。フィアも笑顔でチビを頭にのせたまま、俺の後ろへしがみつく。
――そしてカートは地平線へ走り出す
……ああ、夜空の紅が、薄らいでいく、代わりに見えるのは、それに重なるような朝焼けの眩しい赤。
こんな世界でも、明けない夜はないことを知って、俺は、。
――アクセルを踏み込んだ
カートは、疾走する。
「行け行け、お兄ちゃん!」
「ピキャー!」
目の前に拡がるのは枯れ果てた荒野、氷壁に覆われていた時のような、蒼く美しい湖の面影は全く無い。
だけど俺の心には、今、
この光景が、希望に満ちあふれてみえた。
・更新情報
2026年1月は10日、17日、24日、30日、31日、
そして2月1日朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




