E-12 Love song 探して
――1000年前
正確には1042年前、このアレフロンティア大陸に突然、スライムという魔物が現れた。
人間への憎悪を隠さないそのモンスターは、粘状という斬ることも刺すことも難しい、実質無敵の体を持って人間達を圧倒していった。
そしてスライムは、スケルトンを始めとした他の魔物達を率いるかのように動き、人々の生存圏を奪っていった
このままでは人は滅び、世界はスライムのものになる。
そんな話が、絵空事ではなく現実へとなりかけた時――当時18歳だったセイントセイラ様に、ある力が芽生える。
それまで、この世界には魔法しかなかった。けれどセイラ様に芽生えたのは、そう、
――【奇跡】スキル
明らかに魔法とは違う技術体系、それを用いてスライム達を退けていくが、当然ながら、大陸中に溢れるスライムを、一手に引き受けることなど出来ない。
……そう、そこまでをセイラ様は、荒野に立つ俺達に語った後、
「だから私は決めたのです」
セイラ様は、言った。
「【奇跡】を以て命を賭し、神になろうと」
「人から」
「神に」
……そうやって自分の命を犠牲にして、セイラ様は、スキルの女神になった。
神になったセイラ様は、勇気ある者達に対し、スキルを授けるようになった。その人のそれまでの生き様を、そしてこれからの志を見定めて、最も相応しい能力を与えるようになった。
本人に最適化されたその力は、魔法よりも強力なもので、スライム達に対する強力な対抗手段になった。
ただし、まだその頃はスキルというのは、生まれてきた人全てに与えられるものではなく、女神様が選んだ人にのみ与えるものだった。
ともかくも――スキルを授かった人達は、英雄としてスライムをはじめとした魔物達を撃退していった。
そして、暫くして、大陸には平和が訪れた。
そしてセイラ様は、この世界の平和と安寧を見守る、神様になった。
「……とはいえ、私が今語ったことは、貴方達も学んでいるでしょう」
「え、ええ、まぁ」
「本人から聞くと、臨場感みたいなものが違いますけど」
うん、正直ここまでは知ってる。この世界は、セイラ様の尊い犠牲と志によって救われたって。
だけど、
「――問題はここからです」
セイラ様は、
「……とはいっても、とてもとてもありがちなことです、魔物の脅威が弱まり平和になった世界、だけど」
悲しそうに目を細めて、
「今度は、人と人が争うようになった」
そう言った。
……悲しいことだけど、想像してしまう、
脅威のために一丸になった人々が、それが終われば、いさかいを起こす。
「最初の頃こそ私は、スキルを与えるのは正しき心の持ち主と定めていました。ですが、やがて私は――正義とは何かがわからなくなってきた」
歴史というものを省みても、
純真な善意が、国そのものを滅ぼしたこともあれば、
底知れぬ悪意が、逆に多くの人達の生きる希望になることもある。
人間社会は複雑で絡み合うほど、何が善で悪かなど、誰も決められないようになってしまい、
だから――セイラ様はもう、
疲れたらしい。
「だから私は選ぶことを止めた、生まれる者全てにスキルを与えることにした、私は私の感情を、自我そのものを殺し、そして」
セイラ様、
目を閉じて、言った。
「ただスキルを与えるだけの神に、高次の存在に成り果てたのです」
……人々に、区別無くスキルが与えられるのは、
セイラ様の愛はあまねく全てに与えられるから。そう、世界中の人達は思っていた。
だけどその真相は……。
俺もフィアも、何も言えない中で、
セイラ様の瞳がまた開き、言った。
「それゆえ、私は300年前――セイカに【奇跡】スキルを与えることになってしまったのです」
セイラ様曰く、
300年前、セイラは転生の神によってこの異世界にやってきた。
そして転生の神は、セイラ様に頼んだらしい。
この子は心清らかなままに、生け贄になった。
その心に報いたい。
愛されることを知らないから、愛される力を与えてほしい。
皆に愛されることで幸せになるだろう。
この子はきっと、この世界の希望に、光に、そう、
聖女になれる。
「……それに対し、私が出した最適な結論は、彼女に【奇跡】を与えることでした」
そう言ったセイラ様は、
「その愚かな記憶を、スライムに囚われる中で、やっと思い出した」
そう言って、
「彼女を奇跡の聖女にすることは、世界にとって正しくても、彼女にとっては間違いでした、だって」
自身の手をぎゅっと握って、
「彼女に必要だったのは、誰かに愛される為のスキルじゃない」
くやしそうに、後悔するように、
「誰かを愛する為のスキルだったのに」
それを罪だと告白するように。
……話を聞き終えた俺は、
「あの――」
ともかく言わなきゃいけないことを言おうとしたけど、
「セイラ様は悪くないです!」
その言おうとしたことを、真っ先にフィアが言った。
「その頃のセイラ様は、その、高次の存在だったんですから、その判断をするしかなかったんだから」
「……ええ、そうですね、その通りかもしれません」
フィアの訴えに、僅かに微笑むけれど、
「けれどやはり、私の罪なのです、だから彼女は今も愛を探している」
そう言い切った後、改めて、
「――止めなければならない」
俺に向き直り、
「アルテナッシ、刀を抜いてください」
と、言った。
俺はセイラ様の言葉に従って、鞘から刀を抜いて翳す。
刀身は、未だに僅かに、紫色の電流を――メディのスキルを帯びている。
「――銘は霊犀」
そして、言った。
「意味は、心と心が通じること」
「えっ」
霊犀って、そんな意味があったの?
だから俺とメディの心が通じた?
スキルを俺に貸してくれるまでに――
「なんで、セイントセイカ様がそれを知ってるの?」
フィアがそう言う、た、確かにそう。銘については知っているだろうけど、その由来をなんで。
「私は1000年前、この刀を見たことがある」
「――え」
そんな昔から、と思った時、
「霊犀は、スライムを倒すために、大和の人達によって造られた刀なのです」
それ以上に、驚くことを言って。
「こ、この刀が、【無敵】スキルを使った体を斬れたのって」
「単純に弱体化していたのもありますが、この刀が、スライムを倒す為に作られたからです」
俺の刀が、スライムキラー?
い、今までスライムを倒してこれたのは、スキルの力だけじゃなくてこの刀があったから?
「確かにお兄ちゃん、16歳の誕生日の時も、その刀でスライムを倒しちゃってたけど」
――そういえばそうだった
冷静に考えたら、【パリィ】スキルでスライムの力を利用したからって理屈は通らない。
「この刀が、スライム殺しの刀」
フィアにそう言われて、もう一度刀を見る。そんな俺を見て、セイラ様は口を開く。
「この1年、スライムの中で、私があなたに神殺しの可能性を見出したのは、その力を秘め、そしてあなたの大切な人の心と繋がろうとする、この刀があってこそでした」
スライムを倒すことが出来て、そして、心と心を繋げる力がある刀。
一体この刀は――そう、刃に表れる濡れたように輝く紋様を眺めていると、
「……あ」
「ど、どしたのお兄ちゃん?」
「ゲンブさんが、言ってたこと思い出した」
そうあれは、エンリ様の裁判があって、それが終わったあとの控え室で、
「ゲンブさんも刀の銘が霊犀ってこと知ってて、なんでって聞いたら、それを語るのは刃を交わしてになるって」
「な、なにそれ、どういうこと?」
「わかんない、わかんないけど、……ゲンブさんに会わなきゃいけないかも」
「会うって――大和に行くってこと?」
少し驚きの声をあげるフィアに、
「大和だけではありません」
セイラ様が、暖かに光り輝きながら告げる。
「あなたはこれから、旅に出なければいけません」
「旅に?」
「ええ、セイントセイカによって奪われた未来を取り戻す為、七大スライムと融合した者達と対峙する為、そして何よりも」
そこでセイラ様は、
――笑顔を浮かべた。
「メディに、あなたの最愛の人に、会うために」
……その言葉に俺は、
「はい!」
と、力強く言った。
そんな俺に、
「……その、お兄ちゃん」
フィアがしずしずと、なんだか、ちょっと複雑そうな表情を浮かべたあと、
「がんばろう、手伝うから!」
と、言ってくれたから、……俺は
するとセイカ様は、俺に手を翳して、
――光を放ち、その光で俺を包み込む
……やがて、光がおさまった後、
「ステータス欄を開いてください」
……言われるままに、開けば、
そこには、
【○】スキル -ランク
スキル解説[ ]
「――【○】」
たった一文字だけを埋められる、俺のスキル、そしてその下に、
アルズハート
[【笑顔】 ]
俺の失った心の一覧と、そして、
【笑顔】の文字があって。
ステータス欄を眺める俺に、セイラ様はそのまま話を続ける。
「まず、【○】スキルですが、これはあなたが七大スライムを倒す度、一文字ずつ増えていきます」
「一文字ずつ?」
「ええ、【○】が【○○】に、【○○】が【○○○】に、そして最終的に七つ全てのスライムを倒した時、七文字の【○○○○○○○】というスキルが生まれる」
七文字を埋められる、スキル、
……あまりにも長くて、何をいれればいいか正直わからない、
そう思ったけど、
「……もしかして」
頭の中に、浮かんだ言葉、
「ええ、貴方の思い描いた通り」
それを察したかのようにセイラ様は、
「セイカの奇跡の力、〈チートフルデイズ〉、それは日常、毎日のように奇跡を起こし続ける彼女に対して、たった1度だけ通じる力、あなたの心に溢れるものが、そのまま力になるスキル」
俺に、そしてフィアにも説明するように語っていき、そして、
「そのスキルの名は――」
セイラ様が教えてくれる前に、
――俺の口が開く
理性じゃなくて本能で気づいた、
俺が手に入れるべき最後のスキル、
その名は、
「【ハートフルデイ】」
からっぽな心を、満たす為のものだった。
・更新情報
2026年1月は10日、17日、24日、30日、31日、
そして2月1日朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




