E-9 Trolling play
赤い夜空に浮かぶ青い地球。
その狂気の光景に包まれる枯れた荒野に立つ、俺に対して、
エクスカリバーなんて、漫画やゲームでしか聞いたことのないような剣で、
――英雄無顔は俺に斬りかかってきた
「うわっ」
俺は咄嗟に――渡された刀を抜かず、鞘に納めたままガードするけど、
「ぐう!?」
鞘で挟んだにもかかわらず、その剣の衝撃は俺に直に伝わるかのようにで、そのまま俺は後ろへ吹っ飛ばされる。
弓なりでなく直線で吹き飛ばされた先にあったのは、木造の家、その、
入り口のドアにぶち当たる。
――ドガラシャアッ!
「お兄ちゃん!?」
「ピキャー!?」
そのドアを突き破って、家の玄関に文字通り叩き込まれた俺に、心配する声が聞こえたけど、それに応える余裕はない。
「あ、ぐ、あぁ」
鞘でガードしたのにダメージが深い、英雄無顔の素の強さ? それともエクスカリバーで"こうげきりょく"があがった?
ふらふらになって立ち上がった、その瞬間、
«【タックル】スキル――»
そのスキルは、ボルケノンドで、
俺が【マッスル】と、どっちにするか迷った選択肢、それを今英雄無顔が、
使ってくる――
«〈|ダイブトゥミートゥユー《出会いはいつも衝撃的で》〉»
俺への単純の体当たりは、
「がはぁ!?」
エクスカリバーで吹き飛ばされた時の比じゃない衝撃になって、俺を打ちのめし、そして吹き飛ばす。木造の家の壁を三度も突き破り、最後には、俺の寝室の窓ガラスをがしゃんっと砕いて、家から外へ放り出した。
「ぐうっ!?」
そのまま荒野の大地に叩きつけられた俺は、ボールのように二度三度弾んだ後、かうつ伏せで倒れ込む。
「ぐ、う、うう」
痛い、辛い、苦しい、それでも刀を手に持ったまま、なんとか立ち上がった、その時、
――目の前に英雄無顔がいて
エクスカリバーでまた斬りかかってきたから、
「う、うわぁ!」
俺は反射的に――授業で練習したように刀を抜いた――ギィン! という音が響く、俺はエクスカリバーの攻撃を刀の峰で防いだ。
(な、なんとか)
だがそれでも、攻撃は続く。
「あ、ああ、うわぁ!?」
英雄無顔の攻撃は苛烈で激しく、俺はただ防御に徹することが出来ない。本来、細身の刀で両手剣の重さを受け止めるなんておかしいけれど、今はそれが成立している。
(……でも、それって)
違和感に気づく、おかしい、相手は最強の敵、チートだ。
【最強】でも【究極】でも【絶対勝利】でも、ともかくなんでも使ってしまえば、何も無い俺なんか、一瞬で倒せるはずなのに、どうして、
――加減してる?
どうしてと思ったけど、
理由には直ぐ気づいた。
「刀を、壊したくない?」
俺の零した呟きに、英雄無顔は答えを返さないまま――俺に対して攻撃を、"俺が捌けるかどうかギリギリの"攻撃を仕掛けてくる。
やられているから、わかってしまった。
英雄無顔のスキルは全て強力で、刀を俺ごと壊しかねない。
もちろん、それを防ぐようなスキルはあるだろうけど、英雄無顔は最も確実な方法を取ったんだ。つまり、
俺をただ疲れさせてから、殺す。
この存在にとって、刀を取り戻す経過が、作業でも構わない。
だって相手は人間、いや、
――何も無い俺なんだ
……ああ、ダメだ、遊ばれてる、
何も無しの俺は、ただ、
神様の言いなりになるよう、一方的にやられるだけ、
役立たずだと、何も出来ない奴と、
――施設で過ごした頃を思い出す
「お兄ちゃん!」
フィアの声が聞こえた――こっちに走ってくるフィアは、炎のハンマーを持って俺を助けようとしたけれど、
英雄無顔は無造作に、フィアに向かって左手を突き出して、
«【堅牢】スキル»
そう言った瞬間――フィアとチビが、ボックス状の鉄の檻の中に閉じ込められた。
「え、ちょっと!?」
「ピキャー!」
フィアは一瞬戸惑ったけど、檻そのものをぶち壊そうとハンマーを振りかぶった、だが、
「えっ」
その炎のハンマーが、消える。
「ちょ、ちょっとなんで、スキルが使えない!?」
「ピキャー!?」
慌てふためくフィア、エンペリラ様の〈ブラッドレスエクササイズ〉みたいに、力を奪う効果があの檻にあるのだろうか。
――俺が余所見をしている隙に
英雄無顔は、大きく上段に剣を構えた、それを見た俺は、
(チャンスだ)
授業で習った、相手が攻撃する時こそ最大の隙、だって今、英雄無顔の土手っ腹はがら空きだ、
授業の通りにやれば、剣が振り下ろされるより先に、英雄無顔を、
神を、斬り殺せる!
――そう思って振った俺の刀は
ガキィン! っと
……エクスカリバーの振り落としを、刀の峰で受け止めていた。
「――あっ」
攻撃を、しなきゃいけないのに、
防御してしまった。
「あ、あぁ、ああぁ」
そのまままた、攻撃をされる、俺はただそれを防ぐ。
――相手の動きが散漫になっていく
隙だらけの大振りで、ただただ俺の体を、刀越しに痛めつけるように。そう、幾らでも隙は見える。
けど、反撃が出来ない。
俺から、攻撃を仕掛けられない。
ただひたすらに、一方的に、
やられるだけ。
「――ああ」
その後の俺は、文字通り、何も出来なかった。
ただひたすら攻撃されて、ただひたすらそれを防御して。
英雄無顔はスキルを使うこともなく、ただ、安全に刀を奪う為の行為を、淡々と繰り返される。
……ああ、けれどこれは、
それが一番合理的だから手加減をしてるんじゃない、だって、英雄無顔は、この顔無しの英雄は、
"笑っている"。
目鼻口が無くとも、俺を見下すように笑っている。それが、俺に伝わる。
――スライムは憎悪の塊だ
俺に無力感を、俺がどれだけ何も無いのかを思い知らせる方法は、全力のスキルで一瞬で叩きのめすんじゃなくて、
こうやって時間をかけて、俺なんて、スキル無しでも倒せるって、
――ざまぁって
顔も無いまま、笑う為に。
……そうやって、どれだけ、いたぶられただろう。
全身が汗だくになって、痛くなって、そして、
もう――疲れ果てて。
だから、
ドサリ、と、
「……あぁ」
……戦ってる最中だというのに、俺は両膝をついてしまった、
「お、お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「ピキャー!」
フィアとチビの声にも、応えられない。英雄無顔は、そんな俺の前に立って、俺を見下ろす。
ああ、笑ってる、
この顔の無い英雄は、顔の無いスライムは、笑っている。
――{ノーフェイス}
その名付きを思い出した時、英雄無顔は、エクスカリバーを振り上げた。
そして俺に、
振り落とす。
「お兄ちゃぁん!」
ごめんね、フィア、
ごめんなさい、セイラ様。
何も無い俺なんかに、何もかもがからっぽの俺に、
神なんて、
殺せるはずもない。
――私の名は
……声が、
――〔癒やし手のメディクメディ〕
メディの声が聞こえた、その瞬間、
――どうかメディとお呼びください
パチリと、何かが俺の中で弾けた。
・更新情報
2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




