E-8 God ordeal
«【無敵】スキル»
無機質な声がした、
«〈インビジブルスタッチ〉»
次の瞬間、
「うわぁっ!?」
「きゃあ!」
激しい煌めきととてつもない衝撃! それこそ、流れ星が放たれて、それが何かに――きっと俺を襲っていたフロスティに、炸裂したような。
……い、いや、こいつは手を突き出している、つまり単純に殴った?
いや、もしかしたら、それすらでなく――ただフロスティに触れた?
触れたら死ぬなんて、そんなの、ゲームの無敵状態と同じ。
……ともかく、フロスティを倒して、俺を今助けたのは、
あの日、俺の姿だけを模倣した、制服姿で、腰に、俺から奪った刀を下げていて、俺にどこまでもそっくりだけど、顔は目も鼻も口も無いノーフェイス、つまり、
――ロマンシアの話の中に出てきた救世主
「――顔も名も無き英雄」
そんな、思わず漏れた俺の言葉に応えるかのように、目の前の存在は、後ずさるように俺達から距離をおいたあと、
――{英雄無顔ノーネームノーフェイス}と
ネームドを、掲げた。
「……ど、どういうこと?」
フィアも――相変わらず俺が覆い被ったままの状態で――英雄無顔の方を見る。俺もフィアも何が起こっているかわからない。
英雄無顔は、セイラ様を乗っ取ったスライムだから、俺達の敵のはずである。
だけどその行動は真逆で、俺を助けた。
フィアと同じく、どういうことなんだ――そう思った時、
――英雄無顔の体が波打って、そして
そこからどばっ! っと、何かが四方八方に飛びだした。
「うわ、な、なんだ!?」
「あ、あれって、スケルトン!?」
フィアの言うとおり、英雄無顔、スライムの体から飛び出したのは、骨の魔物だ。カタカタと笑う同じ顔無し、それが十体現れて、そして、
俺達へと襲ってくる!? やっぱり、英雄無顔は俺達の敵!?
「お、お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!」
って、覆い被さる俺にフィアは言ったけど、そもそもフィアも力は使い切ってるはずで、何も出来ない俺達に、スケルトンは容赦なく襲いかかってきて――
«【旋風】スキル»
だけど次の瞬間、スケルトンは、
«〈サイクロングロード〉»
目にすら見える旋風に、一体一体それぞれが巻き込まれ、その骨を全てバラバラにされた。
カラカラと軽い音をたてながら、地面へと落ちる骸骨だったものは、やがてそのまま、すうっと透けるように消えていった。
「な、なにこれ、マッチポンプ?」
フィアの言うとおり、英雄無顔は、自分の体から出現させたスケルトンに、俺達を襲わせた上、スケルトンを倒した。やってることは自作自演、
しかもそれをバレないようにやるならともかく、目の前で種明かしをするかのように。
ほ、本当に一体なんなんだ? 何が目的なんだ?
いくらそう思っても、顔無しの英雄からは、表情なんて読み取れるはずもなく、……そう思ってると、
«【無重力】スキル»
口も無い顔なのにそう言葉を響かせた、途端、
「うわ、わっ」
「えっ!?」
俺とフィアの体が浮き上がる――あ、チビもピキャー!? って戸惑っている、そして俺とフィアの体が離れた時、
«【大回復】スキル»
その言葉が、いや、力が響いた途端、さっきまで死にかけていた俺の体が、なおってく、痛みも傷も、疲労感も。
それはフィアも、そしてチビも同じようで。
……体力が回復した俺達は、そのまま地面へと降ろされた。チビはフィアの頭へと。
俺は、あの夜、俺から刀と――スキルの女神様であるセイントセイラ様を吸収した
「……あ、あの」
俺が、呼びかけて、そして、
「あんた、一体なんなの?」
フィアが、疑問を放つ。
――すると一瞬の間もなく
«よくぞ目覚めました、〔何も無しのアルテナッシ〕よ»
声が聞こえた。
それは、さっきの無機質な声じゃない、女性の声だ。
«そして»
……顔の無い英雄は、俺からフィアの方を向いて、また口も無いままに言葉を放つ。
«よくぞ決意しました、〔猛る聖火のフィアルダ〕よ»
って。
「え?」
いきなりそう言われて、戸惑うフィアだけど、
«彼を自由にしたいと思ったからこそ、メディに会わせたいと思ったからこそ、この夢の壁は砕けた»
「……あ」
――夢想結界が壊れたのは
……ああそうか、この空間じゃ、俺が幸せになれないとフィアが思ったから、
結界は、崩れたのか。
そしてそのことを、
«あなたは、優しい子です»
そう、労るその声は、
少し大人の女性の声だけど、威厳があって、だけどその中に慈しみも優しさがあったから、
「……う、うう、ぐすっ……ううっ」
フィアは、まだ誰かも解らない相手の言葉に、肩を震わせて、涙ぐみはじめた。そんなフィアを、英雄無顔は"優しい顔"で見守る。
……この声の正体は、誰かって問題だけど、スライムだとは考えられない。
それならば、可能性として考えられるのは。
「――セイントセイラ様?」
そうだ、この声は――俺の心の中で、ずっとゲームで遊んでいた、
セイラ様の声に、とても良く似ていた。
「セ、セイラ様?」
フィア、自分の目にたまった滴を、二の腕でぐいっと拭う。モンスターの中身がセイラ様であることを確認すれば、
「ロマンシア、嘘を吐いてなかったの? セイラ様は、スライムを乗っ取り返していたの?」
そう、確かにロマンシアが俺の為に用意した嘘では、セイラ様がスライムを乗っ取り返した、とあった。
フィアのその問いかけに英雄無顔は――
«今、話しているのは、確かに私――セイントセイラですが»
まずはそれを肯定し、
«私の心も力も未だに、この体に囚われている»
自分がまだ、乗っ取られてる、って言った。
そして、
«だけどあなたが目覚めた刻の為、そしてあなたが自分の夢を犠牲にしても、彼を解き放つ刻の為、私は、一瞬の抵抗の力を、いえ、抵抗の"心"を蓄えていた»
……つまり、本当に今だけ、セイラ様は主導権を握っているということ?
それは俺を助ける為に?
感謝すべきだろうけど、うまく言葉が出てこない俺に、改めてセイラ様は近づいて、
――腰に下げていた日本刀を
外してから、俺に渡した。
「あ……」
……突き出された刀を、両手で受け取る。
この刀は、メディが俺にくれたもの。それが、俺の手元に戻った。
けれどそのことに、喜びを覚えられない俺。
「お、お兄ちゃん」
「ピキャー……」
フィアもチビも、どこか心配そうに俺をみつめる中で、
――ぶるりと
……何かが、震える音がした。
「……へ?」
セイラ様が、いや、セイラ様を覆うスライムの肉体が、俺を模した形が、
ぶるり、ぶるり、と震えている。
「え、ちょっと、セイラ様?」
「か、体が変なことに、うにょうにょってなってます!」
驚く俺達だったけど、セイラ様は無表情のまま、
«ここまでですね»
そしてセイラ様は、さらりと言った。
«再び、主導権はスライムが握る、私はスライムに乗っ取られる»
「え、そんなの!?」
「まずいんじゃ!」
驚く俺達の前で体を激しく波立たせるセイラ様は、それでも、
«先ほど見せたようにこの英雄無顔という存在は、【○○】スキルを以てあらゆる力を使う、最強無敵、まさに無双の英雄です»
淡々と語る、まるでシステムのように、
«スライムに戻った私は、刀をあなたから取り返そうと執着するでしょう»
「な、なんで」
«そうですね、一言で言うならば»
セイラ様は、
«自分の物を取られて、腹が立つから、気に食わないから、ムカつくから、許せないから»
全然、一言じゃない理由を、繰り返して、
«人間を、見下してるから»
そう告げた後、セイラ様は、英雄無顔は、
«ゆえに――その刀で私を»
こう言った。
«神を殺すのです、アルテナッシ»
……え?
今、なんて?
«正確には神そのものでなく、"神の力を使うスライム"をですが、ともかくも»
なんて、
«何でも有りの私を、何も無しのあなたが殺すのです、そう»
そんなこと、
«神殺しを成しなさい»
出来るはずが無いのに、
«……頼みましたよ»
セイラ様は、その無表情で、
«〔何も無しのアルテナッシ〕»
まるで笑ったかのように言った、
直後、
«【神造剣装】スキル――»
その表情から感情を無くし――セイラ様が、再びスライムに乗っ取られたのが示された途端、
«〈エクスカリバー〉»
英雄は、その手に、光り輝く美しい両刃の剣を握り、
それで俺に斬りかかってきた。
・更新情報
2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




