E-7 Fire savior
「【炎聖】スキル!」
眼前の光景が、
「〈|ファイアーマンハンマー《火達磨の炎槌》!〉」
まるで他人事のように、流れてく。
「ああああああ!」
赤い夜空に浮かぶ青い地球、その前世の光で不気味に包まれる荒野には、今まで俺達に夢を見せていた氷塊が、フロスティという雪の妖精――この世界においては凶悪な氷の魔物として、溢れている。
そんなモンスター相手に、体中を炎で燃やしながら、その火そのもので作り出したハンマーで、戦い続ける、チビを頭に乗せたフィア。
「この、このおぉ!」
次々と襲いかかってくる魔物達、奴等の踏みしめる地面は片っ端から凍っていく、空気そのものが、息をするのが辛いほどに冷え切っていく。
――全てを凍り付かせる死の妖精
けれどそんな相手を、
「ああああああ!」
フィアは、燃やす、燃やし続ける、フロスティ達に燃え上がるハンマーを振り回して、
「――守るんだから」
涙を流しながら、
「守るんだ! お兄ちゃんを!」
その涙を、蒸発させながら、
「守るんだぁぁぁ!」
……本当に、〔猛る聖火のフィアルダ〕という二つ名の通りに、
この俺を、〔何も無しのアルテナッシ〕を守る為に。
……ああ、こうやって、
フィアが、俺の為に戦ってくれてるのに、
全く、心が動かない。
どうしてだろう。
(……何も出来ないから)
そう、俺は、フィアを助けられない。
そもそも、フィアに守られる価値もない。
だけどだからって、やめてくれ、とも言えない。
俺に、フィアの行動を、思いを止める権利なんてない。
――だからただ、見てるだけ
無力な俺は、そうするしかない。
……そうやって、時間は過ぎていった。
あれだけいた氷の魔物達は、数を少なくしていき、
「【炎聖】スキル――」
最後の一体が、その身から吹雪を巻き起こす氷の巨躯が、
「〈|ファイアーエンド《やがて全ては燃え尽きる》!〉」
燃え盛る、振りかぶったハンマーで、
「あああああ!」
フィアの全力で、破壊された。
戦いが、終わった。
フィアの体を包んでいた炎が――消え去った。
「……はぁっ、ああ、はぁ、はぁ」
「ピ、ピキャー……」
フィアは勿論、頭の上のチビも疲れてるようだ。俺が眠ってた時みたいに、フィアに元気を分けていたのか。
……ふらふらになったフィアは、俺へと振り返り、そして、
ゆっくりと歩いてきた。
「……フィア」
歩いてくる途中で、フィアの頭のチビが、ずるっとこぼれ落ちた。
地面にぽてんと倒れたチビ、丸いお腹を仰向けに向けて、力尽きたように伸びている。
フィアは、チビが落ちたことに気づかなかったのか、構う余裕も無いのか、
俺へと近づいた彼女は、そのまま、
俺へと倒れ込んできた。
「あっ」
俺はそのまま、フィアを抱き留める。
「大丈夫?」
だけど俺が、そう聞いたなら、
「――ごめんなさい」
フィアは震えながら、そう言った。
「……なんで、謝るの」
「だって、だって、私、嘘をついてた」
ああ、フィアが泣いている。もう涙を、蒸発させる炎も無く。
嘘とはそう、ロマンシアの作り話と、そしてフィアの望みで作り出した"夢想結界"のことだろう。
だけどそれは、
「俺を守るために――」
いや、守るだけじゃなくて、
「幸せにするために、してくれたことなんだろう?」
この終わってしまった世界から、俺を守るだけじゃなくて、
フィアは俺の為に、どこまでも尽くしてくれた。
なのに、謝る必要なんてないことを、
俺はせめて伝えようとした瞬間、
「お兄ちゃんは、幸せなんかじゃない」
……何を言ってるんだ、フィア?
「本当はずっとずっと、気づいてた」
フィア、何を、
「お兄ちゃん、笑ってない」
――笑ってないって
そんなことない、俺はこの暮らしの中で、何度も笑顔を、
「お兄ちゃんの笑顔が、本当の笑顔じゃないって気づいてた!」
――それは
「お兄ちゃんの笑顔は、"メディと出会った時からの笑顔"じゃない!」
それ、は、
……ああ、思い出す、
メディと初めて会ったあの日にも、言われた。
――また、嘘の笑顔です
……ああ、からっぽな俺は、また、あの笑顔を、
母さんに言われるまま、
受験の面接の為に、スマホのアプリで練習した笑顔を、
そんなからっぽな笑顔を、
目覚めた時からずっと、フィアに浮かべてたのか。
「……フィア、俺は」
その事実に気づいた俺に、フィアは、震えながら見上げて、
「本当は、メディに会いたいんでしょ」
フィアは、
「ううん、お兄ちゃんが会わないって言っても、私が無理矢理会わせるべきだったんだ」
俺に、
「なのに私、お兄ちゃんを私の世界に閉じ込めた」
また、
「――ごめんなさい」
謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
涙が止まる様子が無いメディは、再び、俺の胸に顔を預ける。
……メディに謝られる中で、俺は思う。
俺が、メディに会いたい?
もう既に、エルフリダ様のメイドになったメディに?
……いやでも、それはロマンシアの創作、俺を納得させる為のストーリー。
だけどそもそもな話、メディはあの時、俺を拒絶した。
そんな彼女にこの俺が、
からっぽな俺が、会いに行ったって、
――何もならない
……ああ、そのことを伝えないと、
そう思って、
「――フィア」
口を開いたその時、
――凄まじい寒気がした
「えっ」
「へっ」
それは俺の胸で泣き続けたフィアも同じようだった。
だけどこの寒気は、恐怖からくるものでなく、もっと直接的、
俺の目の前、フィアの背後に、
――フロスティが
生き残っていたか、砕けた氷の体を寄せ集めて成ったのか、
俺の背丈と同じくらいになった氷の魔物が、
もう、力を使い切ったフィアに目がけて、
氷の拳を、
振り落とす。
――ドガァッ! っと
魔物の致命の一撃が、炸裂したのは。
俺の背中だった。
「――え」
疑問の声が、俺が抱きしめるフィアから漏れる。
だけどやったことは単純だ――フロスティの攻撃から、フィアをかばった。フィアを抱きしめたまま体をぐるっと回転させて、氷の拳を背で受け止めた。
だけど当然、生身の俺に耐えられるものでなく、
「がはっ!」
肉が破れ、骨に皹が入ったような衝撃、
その事実ごと俺は、フィアもろとも倒れ込んでしまった。
「お、お兄ちゃん!」
だけど俺の体重に潰されても、フィアはまず俺の心配をしてくれたけど、
――それに言葉を返す間もなく
ドガァッ! っと、
「が、ああっ! あああ!」
「お、お兄ちゃん、お兄ちゃぁん!」
フロスティが、俺の背中を叩いてくる、いや、踏んでいるのか? 振り返れない俺にはわからない。
ただ重く強い衝撃と共に、ピシピシと音をたてて、俺の背中が凍っていくのが解る。凄まじい激痛の直後に、感覚が無くなっていく。
――痛みすら感じれなくなることの恐ろしさ
このまま受け続けたら、死ぬ。
……ああ、それはいい、
それはいいんだ、
ただ、
「フィ、ア」
せめて、何も無い俺だけど、
――フィアを
「逃げ、て」
守れるなら、と。俺はフロスティの重く冷たい攻撃を背中でうけながら、腕に必死に力を込めて体を浮かす、フィアが這いずって逃げれるスペースを作ろうと足掻く。
だけどフィアは、俺をみつめたままで、
「やだ、逃げたくない! お兄ちゃんと、メディに会いにいくの!」
そう、言ってくれて、
それは、本当は涙が出るほど嬉しい言葉のはずなのに、
俺はもう、
「ごめん、フィア」
SMILES and TEARS、
出来ないから、
……だけど、
「……フィア」
せめて、
「ありがとう」
アプリで作った、偽物の笑顔を浮かべても、せめて、
感謝を。
……ああ、だけど、そうしても、
「やだ、やだぁぁぁぁ!」
それでもフィアは泣いている。俺を思って、泣いている。
けどね、フィア、俺はやっぱり死ぬべきなんだ。
死んで、この世界で死に続けて、そして、
セイカに出会うまでは、この世界の人達に殺され続けよう。
ロマンシアが言ってたように、何度も殺されて、何度も転生して、
殺されて転生して殺されて転生して殺されて転生して、
殺されて、
俺に対する憎しみを、100年間、受け続けよう。
俺はそこまでのことを、この世界にしてしまった。
いいやこの世界だけじゃなくて、セイカは、
――地球も壊すって言っている
……ああ、
俺がこの世界に、転生さえしなければ、
俺が、前世で死の間際に、
希望なんて抱かなければ、
電車の中で、スマホを見て、
花火を見たいって、思わなければ、
……ああ、でも、
でも、
それでも、
「――花火」
俺の口から零れたのは、
「メディと、見たかったな」
希望だった。
だけどその灯火も、
凍り付かせ、砕くように、
――フロスティは最後の一撃を俺に加えようとした
その瞬間、
«【無敵】スキル»
声がした。
その声に、顔をあげれば、
そこには、
«〈インビジブルスタッチ〉»
顔も名も無い英雄が立っていて――それが手を突き出した瞬間、
凄まじい閃光と衝撃が起こって、確かに、俺の背の後ろにいた敵を吹き飛ばした。
・更新情報
2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




