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E-6 Truman Show

 ――目覚めてからの穏やかな無人島での日々

 それが全て、崩れていく。

 救われた世界であるはずの、蒼く澄んだ親子月の空が、氷の瓦礫となって、重力の法則を無視して、ゆっくりと崩れ落ちていく中で、その氷塊達の間から、

 救われてなかった世界の、赤く鈍く燃えるような空と、青く輝く地球が浮かんでいるのが見えた。

 そして、足下まで拡がっていた湖も、どんどん消えていく。

 代わりに現れるのは、枯れ果てた荒野、ひび割れた大地。


「――なんで」


 なんでって思いながら、考える。

 フィアは、ロマンシアの名前を呟いた。

 そして、夢想結界とも言った。

 ――{夢想結界ロマンシアイグノアー}

 確か、それがスライムと融合したロマンシアのネームド(名付き)。まずロマンシアの【夢想】スキルは、自分の夢を一時的に具現化するSランクスキル。

 そしてイグノアー(孤立する罵倒)は――氷のスライムだ。

 炎の国のボルケノンドで燃えたぎる火を冷まし、そして、フィアの心も凍り付かせるように乗っ取った。

 つまり【夢想】を、氷に映し出して、幻を具現化する力?

 その氷壁がずっと、この無人島の暮らしを作り出していた?

 ……もう、結論づけるしかない、この無人島は、

 幻想の氷壁に覆われていたんだって。

 ――けれど今


«殺すんだ»


 沢山の、ゆっくりと崩れ落ちていく氷塊が、映し出すのは、


«アルテナッシを殺すんだ!»


 ――幻じゃなくて現実


«な、何あの青い星、赤い空!»


 リアルタイムじゃなくて、これまでの経過というのは、


«土地も水も枯れていく!»


 氷に映し出される光景が、時間も場所も違うことから解る、


«な、なんでこんな強い魔物がおるんじゃ!?»


 全ての人々が恐怖に脅え、そして、


«アルテナッシだ、あいつが»


 怨嗟の声を、


«異世界の人間が、私達の世界を滅ぼそうとしてるのよ!»


 俺への憎悪を、あげる。


«聖女であるセイントセイカ様が姿を見せないのは、あいつが殺したかららしい»


 ……捏造も、


«Fクラスの連中は、全員、アルテナッシの仲間、いや、手先だ»


 誤解もあったけど、


«ねぇなんで、いせかいのひとはぼくたちのせかいを»


 根本は、


«わたしたちのせかいを、こわすの?»


 変わらない。

 ――異世界転生という名の罪


«この世界はもう終わりです»

«か、顔も名も無い英雄が助けてくれたけど、もういやだこんな生活!»

«逃げろ、氷の壁の中に逃げろ!»

«氷の中なら、100年間、何も悩まず、夢を見れるよ»

«そんなの、生きてるって言わねぇよ!»

«この星に未来は無い»

«子供達は、何を思って生きていけばいいの»

«あいつだ、あのアルテナッシって奴の所為だ!»

«憎いよぉ、あいつが憎いよぉ»

«探し出して殺すんだ!»

«殺せ!»

«殺せぇ!»


 ……ああ、予想はしていたつもりだけど、

 現実は、想像以上。

 そして俺は、直感する。


「――フィアは」


 隣で、呆然と立ち尽くすフィアに、俺は、


「ずっと俺を、守ってくれたんだ」


 ただ、静かに呟く。


「世界中から、俺を」


 俺の言葉をフィアが、


「ちが――」


 否定しようとした時に、

 ――とびきり大きな氷塊が、俺達二人の前に落ちてきた

 そしてその大きな氷の断面が、映し出すのは、


«そんなの、うまく行く訳がない»


 フィアと、そして、


«いいえ、必ずうまくいきますわ»


 薄く目を細める――〔夢見る令嬢ロマンシア〕の姿。


«……本気で、言ってるの?»


 場所は荒れ果てた荒野に立つ、木造の家の前、つまり今、俺達が立っている場所。

 そしてフィアの隣には、チビをおなかにのせた状態で、俺が眠っている。

 二人は、話す。


«はい、アルテナッシ様が目覚めた時に、(わたくし)が言ったように、世界が救われたとお話くださいませ»

«……そんなの、お兄ちゃんが信じる訳がない»

«何故でございますか?»

«当たり前じゃ無い!»


 ……俺が1年ぶりに目覚めた時、フィアから聞いた話は、


«正義の味方が現れた! セイカは倒された! 親子月も戻った! ライジも生き返った!»


 嘘偽り、ロマンシアの創作で、そして、


«誰がそんな、ご都合主義な(小説)を信じるのよ!»


 それに対するフィアの叫び。

 ……そうだ、確かに、目覚めれてみれば、

 何もかもがなんとかなってたなんて、普通だったら有り得ない。

 だけど、


«確かにご都合主義(テンプレート)ではありますわ。だけどそれは、人の歴史の中で常に求められて来た。それは最早、神話の頃から。どれだけ古典(クラシカル)であろうとも、"何もかもがなんとかなる物語(ハッピーエンド)は、悲劇や喜劇と同じくらい、必要とされてきたのです»

«……誰によ»


 ロマンシアの長い語りに対する、フィアの短い問いかけに、

 ロマンシアは言った。


«辛い境遇を、生きる者達の為に»


 ……そうだ、物語(小説)はいつだって、


«理不尽な運命に、足掻く者達の為に»


 読者の、生きる人達の為のもの。

 現実が辛いからこそ、めでたしめでたし(ストレスフリー)の物語は、人に、明日を楽しむ夢を、正義に燃える勇気を、そして、

 ただ一日を生きていく、安らぎも、与える。

 ……そう、WeTubeで、見たことがある。


«……多くの物語が灯したその火は、時に人を奮い立たせることもあれば、ただ優しく包むこともある。アルテナッシ様に必要なのは、当然、後者»

«……お兄ちゃんは、からっぽだから、信じるってこと?»

«はい»

«私に、お兄ちゃんを、騙せって言うの?»

«はい»

«でも、そんな、お兄ちゃんが死んでも、また転生して、セイカに見つかってしまう、そのことを隠すなんて»

«それではフィア様は、世界中に恨まれるアルテナッシ様と、放浪の旅を続けると?»

«……それは»

«アルテナッシ様は、殺されても転生する、そして、またアルテナッシ様だとわかれば、また殺される、何度も何度も何度も何度も»

«うっ、……うううう»

«セイカの元に送る前に、せめて、穏やかな日々を過ごさせるべきでは?»

«だけど、でも、そんなの»

«そしてそれが、アルテナッシ様と二人で暮らすその夢こそが»

«ロマンシア»

«フィア様の、夢では無くて?»

«……う、うう、うううう!»


 氷塊の映像の中で、フィアがうなり出す。頭を抱えて、身も屈めて。

 フィアの瞳から、ぼたぼたと落ちるのは、涙。

 そんなフィアを――俺の腹の上に乗っているチビが見て、ピキャーと、心配そうに鳴く。

 そんなフィアに、ロマンシアは、


«……よくぞここまで、眠り続ける彼を守りながら逃げ延びました»


 そう言いながら、フィアの


«せめて終わりまでは穏やかに、あなた様の夢で――»


 肩に手を置き、優しく慰めるように、そして、


«アルテナッシ様を守るのです»


 諭すように言った。


«――ああ»


 そして、フィアが、


«うあぁあああぁぁっ!»


 泣き声をあげた瞬間――

 過去を映し出してた、氷塊が砕けた。

 いいや、目の前の氷塊だけでなく、夢を見せ続けていた氷全てが砕けて、さっきまでゆっくりと落ちていたのに、一気に地上へと落ちていく。

 そして、

 砕け落ちた氷が、荒野に積もった氷の塊達が、

 ――小人の形を取っていく

 フロスティだ。

 雪の妖精、氷が入り交じった雪作りの肉体に、轟音を伴う程の冷気を身に纏う、全てを凍らせるモンスター。

 フロスティなんて、前世では弱く(ザコ)、だけどこの世界においては、スライムの次くらい強い(ボス)凶悪なモンスター、

 その氷と雪の魔物が、砕けた氷から次々と形を成していき、俺達の周囲に溢れていくのを、

 俺はただ――無感情にみつめていた。

 ああ、全ては嘘だった、

 フィアはロマンシアに言われて、俺に嘘を吐いた。

 恨んでなんかいない。

 俺を守ろうとしてくれた。

 感謝すらしてる。

 ――だからこそ

 死ななきゃ、死ななきゃ。

 役立たずの俺なんだから、もう、フィアにも、誰にも迷惑をかけたくない。

 この世界に要らない存在はせめて、死んで、

 ――セイカの元へ

 そう思った俺の願いを叶えるように、目の前で砕けた氷塊が、一番大きな小人(矛盾)になって、

 その氷の巨拳で、

 俺を、

 殴り殺そうしてくれた――


「【炎聖】スキル!」


 フィアが――何も無い"からっぽ"の手に、

 ――炎のハンマーを作り出して

 その炎槌は、フィアの身の丈を超えて、振りかぶりながらも更に大きくなっていき、そして、

 巨大な小人の大きさすら凌駕する――

 質量をもった炎の一撃はそのまま、


「〈ファイアントキリング(炎上する大物)〉!」


 目の前のフロスティを、砕き燃やした。目の前の強敵を一瞬で、倒してのけた。

 だけどすぐに――

 他のフロスティ達が襲いかかってくる。けれどフィアは、身の丈越えサイズにまで縮んだ炎のハンマーを、再び振りかぶった。


「ああああああ!」


 気合いをいれるように声を上げて、氷の魔物達に対して、ハンマーを振り回しながら、フィアは自分の体を燃やす。

 そして、叫ぶ。


「守るんだ!」


 ただ、何も出来ず立つ俺を、

 役立たずの俺を、

 〔何も無しのアルテナッシ〕を、

 フィアは、


「私がお兄ちゃんを守るんだぁ!」


 その為に、ハンマーを降り続けた。

 流れる自分の涙を、その炎で蒸発させながら。

・更新情報

2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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