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E-5 Endless night

 ――それから更に1週間後

 俺は唐突に、ベッドから目が覚めた。


「……」


 ……無言のまま起き上がり、窓から外を見る。

 親子月は、まだ随分と高く輝いてる。


(眠ってから、2、3時間も経ってないかな)


 俺が目覚めて3週間近く、フィアの部屋とは別、チビも無しに寝るようになって気づいたことがある。

 俺は全く、夢を見ていない。

 それがどういう理由かは、やっぱり、俺の心がからっぽになったからだろうか。

 からっぽ、そう、からっぽ。

 ……俺は無言のまま、寝間着姿(ぬののふく)のまま、窓を開けて――そしてそのまま、行儀悪いけど窓から外へと出た。裸足で地面を踏みしめる。

 そうやって、静かな湖畔の際まで移動して、たたずんで、

 親子月を見上げるようにして――


「ステータス」


 別にそう唱えなくても、心の中で願えば出るのだけど、ともかく俺は、久しぶり(1年と3週間振り)にステータス画面を開いた。

 ……ああ、当たり前だけど、

 変わってない。

 ――からっぽだ


 【】スキル -ランク

 スキル解説[          ]


 アルズハート

 [                ]


 スキルの欄も、アルズハートの欄も、何も無いまま。

 そんな半透明のステータス欄越しに、俺は、蒼く澄んでいて、それでいて親子月の輝きを掲げる星空をみつめる。

 静かな夜に、静かな事実。

 裸足のままに立ってみつめる光景は、俺の心をひどく落ち着かせる。

 ……ただ、ただただ、この時間を、

 過ごしていたら、


「お兄ちゃん!」


 苛烈な程の声がして、振り返れば、

 血相を変えてフィアが、頭にチビを乗せた状態で、俺の元へ走ってきた。

 ……ああ、心配をかけてしまったんだ、

 こんな時間に、俺が抜け出すから、

 だから俺は、まずはステータス欄を閉じて――俺の元へ辿り着いたフィアが、

 何かを言う前に、


「大丈夫だよ」


 と、言った。


「月を、見ていたんだ」


 そうとも、言った。

 ……俺の言葉を受けて、フィアは、にっこりと笑って。


「そうだったんだ」


 それ以上何も言わず、自然と、俺の隣へと移動して、俺と一緒の光景を眺め始めた。

 また、静かな時が流れる、

 けれどやがてフィアが、口を開く。


「やっぱり、この湖の向こうへ行きたいの?」


 ――その問いかけは


「この島から、抜け出したいの?」


 俺にとっては、


「……そんなこと、ちっとも考えてなかった」


 全くの"理外"で、そう言ったものだから、逆にフィアの方が慌てだした。


「え、で、でもほら、もう3週間もここにいて……その……」

「フィア」


 俺はフィアを諭すように、

 ……いや、違う。

 俺は自分自身に、言い聞かすように、


「役立たずの俺が、何も無い俺が、この島を出たって生きていけるはずもない」


 まずはその"事実"を言った。

 俺の言葉に、フィアは、押し黙る。

 そんな彼女に、俺は続ける。


「……メディはともかく、クラスメイト達に、……生き返ったライジに会いたい気持ちもあるよ、だけど」


 フィアが、俺が目覚めた夜に、

 きっと俺に気づかって、言わなかったことを話す。


「世界が救われても、俺は嫌われ者だろうから」


 ……俺の言葉にメディはもちろん、チビも沈黙する(それが答えだ)。俺はまた、笑ったままに話し続ける。


「考えてみれば当然のことだよ、俺はセイカと同じ異世界転生者だから、目の敵にされて当然だし」

「……お、お兄ちゃん、そんなことは」

「もちろん、そんな俺でも、ライジ達は受け入れてくれるかもしれない――でもそれ以外はそうじゃない」


 救われたとはいえ、世界を滅ぼしかけた原因が、そもそも俺なんだ。

 俺が異世界転生さえしなかったら、セイカはあんなことをしでかさなかった。

 ……いや、そもそもな話、

 別の世界の人間が、この世界を我が物顔で、まるで荒らすかのように好き勝手に生きてきた。施設から"追放"された後、女神様からもらった"チート"スキルで、Fクラスから"成り上がり"、そんな風に"無双"し続けてきた。

 その正体が、異世界という異物。

 それに憎しみ(イライラ)を抱かない人間なんて、きっと、少ない。


「そんな俺とみんな(クラスメイト)が仲良くしてるところを見られたら、みんなに迷惑がかかっちゃうよ」


 今でも、俺と同じクラスメイトだったというだけで、色々言われているのも想像出来るのに。

 俺は、そこで言葉を終える。

 ……フィアは、少し黙って、うつむいた後、

 手をぎゅっと握りながら、俺の顔を見上げながらみつめた。


「本当にいいの」


 フィアは、


「本当にずっと、私とこの島で暮らしていいの?」


 そう、俺に確かめてきた。

 ……俺は本当は、この島から出なきゃいけないんだろう。

 力を無くしても、役立たずになっても、

 それでも俺は、

 ――メディに会いたい

 ……だけどもうメディがそれを望まない。

 それに会ったところで、俺には何も出来ない。

 ――〔何も無しのアルテナッシ〕

 ……だから俺は、

 これが運命だとかじゃなくて、ただの諦めだと知っていても、それでも俺は、


「一緒にいるよ」


 フィアのあたたかさと共に生きていこうと、

 笑顔を浮かべた。


「あ……」


 フィアはちょっと戸惑ったような声をあげたけど、すぐに笑って、


「――お兄ちゃん」


 俺と同じような、

 笑顔を浮かべて、

 ――そのまま俺を抱きしめようとしたその時

 ピシリ、と、

 音が、した。

 ……なんだ今の音? と、

 音がした方――親子月の星空へ、視線を向ければ、

 ――空に亀裂が入っていた


「……え?」


 親子月をの間を、分かつような裂け目、

 ……え?

 何、これ、空が、星空が、びしりびしりと音を立てて、

 ――ひび割れていく

 なに、なんだ、なんで空が? 俺の心が戸惑いでいっぱいになる中で、


「どうして、ロマンシア」


 フィアの声がした。


「なんで"夢想結界"が壊れるの」


 ロマンシア、夢想結界、

 その言葉の意味もわからないままに、


「どうして!?」


 フィアが脅え、震えながら叫んだ瞬間、

 ――ガシャリと空が崩壊した

 まるでガラス窓が割れ落ちるように、

 蒼く静かな親子月の空が、

 ガラガラと崩れ落ちた先に拡がるのは、


「――赤い」


 赤い、赤い赤い赤い、

 暗く沈みながらも、その内から噴き上がる熱を帯びているような、暗紅色の空。

 蒼い夜空は瓦礫のように崩れて、それが、重力の法則を無視したかのように、ゆっくりと崩れ落ちていく中で、

 静かな湖すらも消え果てて、

 あらわれたのは――枯れ果てた荒野で、

 ……そして、空には、

 (あか)い空には、

 ――地球が浮かんでいた

 赤い空に浮かぶ、青い惑星(ほし)

 色違いによる不気味な対比、

 それが告げる真実は、

 それは、


(セイカは倒されてなんかいない)


 その事実を示す光景に、俺が呆然と立ち尽くす中で、


«――殺せぇ»


 声がした。

 ガラガラと崩れていった夜空は今や瓦礫、いや、クリスタルケイブで見たこともあるような、青く透明な水晶。

 いや、これは氷だ、氷の塊だ。

 ゆっくりと落ちていく氷塊の中から、声がしたんだ。

 いいや、声がするだけじゃない――氷の中に、何かを映し出している。

 そして俺は、


「……まさか」


 わかってしまった。

 俺が暮らしていたこの無人島そのものが、この氷が作り出した幻、偽り、

 ――ロマンシアの夢想結界

 ……それが、崩れて、

 偽りの静かな空を映し出していた氷塊が、今、見せるのは、


«アルテナッシを殺せぇ!»


 救われていない世界の人達の、俺に対する憎しみだった。

・更新情報

2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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