E-4 Second life
――俺が目覚めてから2週間が過ぎ
絶海の孤島、もとい、絶湖の孤島のその波打ち際に三角座りで、俺は昼間の湖を眺めていた。
爽やかな風が吹く中で、陽光に煌めく水面、
その水面が、突然、
バシャアアアアン! っと、割れて、
「お兄ちゃあん! 穫ったどー!!!」
木の棒と鋭利な石で作った銛で、大きな魚を三匹まとめて貫いたフィアが、そう元気な声で水面から現れた。俺はそれを見て――パチパチと拍手しながら、
「すごいすごい」
と、心から賞賛すれば、ふふんっとドヤ顔をしながらすいすい泳いできて、そのまま湖からあがり、水着、……いやこれ下着? と、ともかく、水に滴るラフな格好のまま、
「【炎聖】スキル――〈グリルドグルメ〉!」
そうスキルを使って見せれば、フィアの体ごと銛は燃え上がり、そしてその火がおさまった頃には、魚はこんがり焼けていて、その上、フィアも髪から服に至るまですっかり乾いていた。フィアがくるりともりを回すと魚は外れて――俺の後ろに用意されていた、木の皿へと飛び込むようにもりつけられる。
「さ、お兄ちゃん、食べましょ!」
「――うん」
フィアの笑顔につられるように笑いながら、俺は立ち上がって、背後へ、食事場所へと向かってそのまま座り直す。今し方調理されたばかりの、一人一匹用意された魚、そしてそのサイドには、家の奥に拡がる山林から採取してきたという、キノコやフルーツに食べられる草で作られたサラダが盛られている。
これだけでも無人島の食べ物ととしては豪華なのに――更に別皿には、パンまでも添えられていた。木の家の地下に、暗がりでも育ち、育成も収穫も容易な麦が栽培されていたんだって。
この木造の小さな家が、もともと、誰が住んでいたかはわからないけど、
……ここが俺達の終の棲家になる。
「ピキャー♪」
自分の分も用意された魚に、塩気代わりにライムンをたっぷり絞るチビを横目に見ながら、タンパク質、ビタミンだけでなく、炭水化物まで用意された理想的な食事を前に俺は、
「いただきま――」
俺は手を合わせてそう言おうとして、
「あっ」
慌てて、それを止めた。
そんな様子の俺を見て、フィアは、
「無理しなくても、していいのよお兄ちゃん、その、"いただきます"ってやつ」
そう言ってくれたけれど、
「いや、やめるよ、だってこれからは」
俺は笑顔を浮かべながら、
「フィアと生きていくんだから」
そう、言った。
「……わかった」
フィアは俺の言葉に、ただそう返して、
「じゃあ食べましょうか!」
そう言って、焼けたばかりの魚にかぶりつく。俺は、木製のフォークで草のサラダから食べ始める。
そう、俺にとっていただきますとごちそうさまは、最早、前世の習慣ではなくて、
――メディとの思い出になっていた
……でも、だけど、
メディはもう、俺の傍にはいない。だったらもう、忘れなきゃいけない。
……フィアが、ロマンシアから聞いたことによればメディは、
一生、エルフリダ様に仕えるのだと。
それが最悪の中の最善だと、言ってたと。
……考察はいくらでも出来る。
それが真実かどうかは関係無く、メディは自分の中に、強い殺人衝動があると思っている。そして俺と一緒にいる限り、それがいつ"弾ける"か解らなくて。それが俺を不幸にするって。
――だから【支配】スキルを持つエルフリダ様に仕えた
……そう、それが、一番考えられるパターン、
だけど、
けど、そうじゃなくて、
何も無い俺を見限ったからじゃ?
自分を助けに来なかった、俺に失望したからじゃ?
からっぽな俺より、完全なエルフリダ様を選んだからじゃ?
――〔何も無しのアルテナッシ〕の俺よりも
俺は、
俺、は、
「お兄ちゃん!」
――意識が
……意識が、"また"からっぽに沈もうとした時、
フィアが"また"、俺に声をかけてくれた。
だけど俺はそのことに感謝をする素振りを見せず、
「ごめん、フィア、なに?」
なるべくなんでもなかったような笑顔を浮かべて、そう言えば、
「……おさかな、もういいの? 半分くらい残ってるけど」
笑ってそう聞いてくるから、うん、とうなずく。するとチビがなんの断りもいれず、俺の残った魚に食べ始めた。やれやれとフィアはあきれ顔のままに、魚に食らいついたままのチビをむんずとつまんで、自分の頭の上に乗せる。
そして、空になった皿と食器を、片付け始めた。
それに俺は一応聞く。
「フィア、手伝おうか」
だけどフィアは、にこっと笑って、
「何もしなくて大丈夫、お兄ちゃん」
と、言う。
……ああそうだ、この2週間で、フィアは知っている。
俺が何かを手伝っても、直ぐに、意識はメディに向かう、そしてまた、からっぽに――あの眠りに落ちようとする。
だから徹底的に何もさせない、その代わりに、
「それよりゲーム! 片付け終わらせたらすぐ遊びましょう!」
俺に徹底的に、構う。
俺のからっぽが、寂しくならないように。
「今日は何しよっかな~、トランプにリバーシにショウギにカルタ! お兄ちゃんの世界の遊びって、本当色々あるものね~、ねぇ他にどんなのがある!?」
「え、えっと、パッと思い出せるのは、……ルドーとか?」
「何それ、どんなの!」
「い、いや、俺もWeTubeショートでVtuberがやってる切り抜きを見ただけで……」
毎日、起きて、ごはんを食べて、フィアとチビと遊んで、また眠って、
それをただ、繰り返すだけの日々。
フィアは、俺に何も言わない。
言いたいことがいっぱいあるだろうに、けして、言わない。
……ああ、それで救われてしまう自分がいる。
異世界転生したけれど、英雄でも、主人公でも、なんでもなかった俺は、
こうやってただ、嘘みたいな穏やかな日々の振りをするだけで。
それを支えるように、暖めてくれるように、
「お兄ちゃん」
そして俺は、そうしてくれる理由を、
「大好きだよ」
――彼女、フィアルダの好意だと
ハッキリと、知っていた。
今、浮かべている笑顔と共に、からっぽな心にも、刻み込んでいた。
・更新情報
2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




