E-3 Deus ex machina
ベッドから起き上がった俺は、着の身着のまま、フィアと一緒に外へと出た。
「ここは――」
窓から外を見た時は、空の様子に目を奪われて気づかなかったけど、
「無人島?」
そう思った理由は単純、俺の目の前には、水平線が見えるほどの水が周りに満ちているからだ。
ただ、海とは違う、潮の匂いもしないし、際にたっても寄せては返す波も無い。
――巨大な湖に浮かぶ島
……普通じゃちょっと考えにくいけれど、ここは異世界、それも通るかもしれない。
「島の大きさは、学園の半分くらいの大きさ、といってもほとんどは山だけどね」
フィア、
「水は当然、食べる物ものあるし、自給自足には困らないの。家はちょっと古いけど、雨風しのぐには十分」
そう語りながら、俺の手を取って――歩き出した。
……親子月の光の下で、俺は導かれるままに、島の淵まで連れて行かれる。
「天気も穏やかなものよ、ここに暮らして1年になるけど、嵐なんてあったこともない」
「――1年、暮らした」
「……ここにはね、チビが連れてきてくれたの」
チビが。
大きな竜になったチビが、ここまで俺達を運んだ。
「この島を見つけたのは偶然っぽいけど、ここまで辿り着いたらチビは、あの怖い姿から元通りのちっちゃい姿に戻った」
「――怖い姿」
「ええ、あんなの、ドラゴンじゃない」
「それは」
俺がそのことについて話そうとした時、
「お兄ちゃんの世界じゃ、違うのかな」
先回りして、そう言われた。
……そっか、俺が異世界からの転生者だっていうことは、もう、バレていた。
それを改めて確かめた俺の口から零れた言葉は、
「ごめん」
謝罪だった。
……フィアは何も答えない、頭の上に乗っているチビも。
そしてそのまま、島の際まで俺達は立つ。
――湖面は穏やかに静かなままに
そして鏡のように、あの日、砕けたはずの親子月をうつしている。
「……教えてくれフィア」
「何から?」
「えっと、本当、色々と聞きたいことはあるけれど」
俺は少し黙った後、
「本当に――俺は1年間も眠っていたの?」
まずそれが前提だ。そこをちゃんと説明されないと、何を話されてもわからない。
普通に考えて人間が1年間、何の設備もない場所で眠って生き続けるなんて、有り得ないこととしか思えない。ただ、この世界は、有り得ないの塊。
何か方法があったのならと、そんな俺の問いかけにフィアは、
「チビのおかげよ」
そう言った。
「1年前、お兄ちゃんをベッドの上で寝かしたけれど、いくら経っても、どれだけ声を呼びかけても、お兄ちゃんは目覚めなかった。このまま死んじゃうじゃないかって、私が泣いちゃいそうに、……ううん、泣いた時に、チビが私の頭の上からお兄ちゃんの体の上にとびうつって」
フィアは、無表情のままに、
「"あたたかく"なったの」
答えを言った。
「チビがあたたかくなったあと、お兄ちゃんの顔色もよくなっていったの。かわりにチビは疲れちゃって、……チビはそうやって、この1年間、お兄ちゃんに元気を分け続けたの」
やっぱり――俺が目覚める直前に感じていたあのぬくもりは、チビのものだったんだ。
「そっか、ありがとう、チビ」
俺はフィアの頭上に座るチビにお礼を言えば、ピキャー♪と嬉しそうに鳴いた。
「本当、不思議よねチビって。怖いドラゴンになったと思ったら、お兄ちゃんをこの1年間、あたためつづけたし」
「そうだね」
フィアの言うとおり、不思議というか、謎というか。
ともかくも俺が1年間、眠り続けられた理由はわかった。
――そうなればあとは、フィアの話
「……フィア、詳しく教えてくれるかな」
さっき彼女が語った、とてもじゃないけれど信じられない話、
「顔無き英雄がセイカを倒して、この世界を救ったって、どういうこと?」
――{英雄無顔ノーネームノーフェイス}
七大スライムのひとつで、そして、俺が最初に【○○】スキルで戦った相手。
一度倒したあと、"小学生の俺の笑顔の写真"っていう、……存在しない思い出として、アイテム化したんだけど、それは俺の目の前で再びスライムに戻ったあと、俺の心の中にいた、この世界の女神であり、スキルの神様であるセイントセイラ様を吸収して、そして、
俺そっくりの――だけど目も鼻も口も無い、顔の無い英雄に変身して、それで、
「俺がメディからもらった刀と一緒に、消えていった」
それが俺の、顔無しの英雄の最後の姿、それを思い浮かべていると、
「あの時のセイカの言葉、お兄ちゃん、覚えてる?」
確かあの時セイカは、こう言った。
――アル君はこの世界の主人公にならへんでええんよ♡
「本当に、セイカを倒した主人公になっちゃったのよ」
「それは……その、おかしくない?」
だって、英雄無顔はセイカがスライムから作り出したもの。
そのスライムが、セイカに刃向かうだなんて理屈に合わない。
そんな疑問を察するように、フィアが口を開く。
「セイントセイラ様が、私達の世界のスキルの女神様が、スライムを乗っ取り返したの」
「――えっ」
「セイラ様の心は子供に戻って力が無かった、けれど、スライムの中で必死に力を取り戻した、そして」
フィアは、目を細めながら、
こう言った。
「【○○】スキルで無双した」
そこからフィアが語るのは、顔と名が無き英雄による英雄譚。
英雄は、セイカが起こしたことで起きた、人々の分断、争いを、全て力と知恵で抑え込み、
エンリ様とセイリュウ様の国の問題を解決し、二人を再び硬い絆で結ばせ、
ロマンシアもあっさりと助けて、そのままスメルフの元へ届けた。
そして最終決戦、【奇跡】の力もスキルの女神の全力には勝てず、セイカは負けて。
セイカの心の中から助けられたテンラ様の計らいにより、転生という呪いから解き放たれるよう、命を終わらせた。
そして、世界と異世界の繋がりを無くし、空に浮かぶ地球を無くし、同時に砕けた親子月も復活させて、
そして、
殺されたギャンブライジも、【蘇生】スキルで生き返らせた。
そんな風に、淡々と語られる、
けして負けることも、挫折することも、そして、
――悩むこともけしてない
名無しの英雄の冒険譚。
「……セイラ様が」
話を聞き終えた後も、
「本当に?」
にわかには、信じがたかった。
何もかもが元通り、ライジすら生き返った。
そもそも、俺の会ったセイラ様は子供で、ゲームが大好きな女の子って印象しかなくて。
だって、スライムに吸収される時、俺にすら助けを求める有様だったのだから。そんな彼女が、英雄になったなんて。
それに、
「そもそもだけど、その話って、誰から聞いたんだ?」
ここは絶海、じゃなくて、絶湖の無人島、情報源なんてどこにもないはず。そう思ったけど、
「ロマンシアから聞いた」
――ロマンシアから
「セイラ様のチートスキルで、メッセンジャーとして私の所に送られてきたの、……ロマンシアの話は、とてもわかりやすかった」
……ロマンシアが、セイラ様に助けられてから、ここにやってきたのか。
それにしたって、ライジまでが生き返るなんて。
――なにもかもがなんとかなると、ライジは言ってたけど
本当に、なんとかなったんだ。
……でも、
だけど、
「……フィア」
今、語られた話の中に、ぽっかりと抜けているものがある、
それは、
「メディは」
「お兄ちゃん」
……冒険譚の中に、メディと、そしてエルフリダ様の話は出てこなかった。
それが何を意味するか、だいたいは察してた。
「お兄ちゃん、メディはもう、戻らない」
だから、フィアの言葉は、
「メディは、エルフリダ様のメイドになったから」
俺のからっぽな心に、ただ虚しく響くだけだった。
・更新情報
2026年1月3日まで朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




