11-end ハッピーエンド
親子月が破壊され、地球の光が降り注ぐ異世界、
――円卓帝国の門前には
一つ一つが燃え上がりそうな、紅い堅固な鱗を、しなやかに美しい体に纏った、
眼光も牙と等しく鋭い、炎の竜の姿があった。
こ、これが、チビ? いつもフィアの頭の上に乗って、ピキャーってかわいらしい鳴き声をあげてたミニドラゴン?
この世界のドラゴンは、最低最弱のモンスター、家畜化されたドラゴン達の顔には威厳も恐ろしさもなく、体型もどこかずんぐりむっくりとしてて、まるでぬいぐるみみたいに愛らしい。
けど今のチビの姿は、それの正反対、
最弱の反対、最強。
呆然と、チビの変化に戸惑う俺に、
「――【奇跡】スキル!♡」
セイカが、跪く俺を飛び越えて、
「〈チートフルデイズ!〉♡」
現実の武器を呼び出さず――自分自身の拳で、チビの顔を殴ろうとして、そして、
――チビが口を開き
グオオオオオオ! という、叫びと共に、炎を吐いた。
「あがぁっ!?」
その炎に灼かれ、目を瞑ったセイカは、地面へと落とされたけど、すぐに立ち上がる。
――そして左目を抑えながら
「あはは、あはははっ! あぁっはっはっは!」
愛も無しに、笑う。
「まさかここまで事象を確定させたんか!? それか計算した!? 予知した!? ただ賭けた!?」
轟々と激しく、全身を炎に包まれて燃えながらも、笑いながらセイカは、
「ほんにやってくれたねぇギャンブライジィィィッ!」
ライジへの苛立ちを隠さぬよう。業火に包まれながらも尚、笑い続けるその姿に、俺ががたがたと震えていると、
「おにい、ちゃん」
声が、して、
「チビに、乗って、はやく」
振り返ればそこには、チビが間近に迫ってきてる。炎を纏っている時は巨大な姿に思えたが、改めてみれば、ちょっと大きめのワゴン車くらいのサイズか。
これに乗れば、逃げられる、
だけど、
「あかん、あかんよぉフィアちゃん! アル君を連れてったらあかん!」
炎の中で、左目を抑えながら、
「これ以上アル君を悩ませんといて、不幸にせんといて!」
ゆっくりと、こっちへ向かってくる。
そして俺は、セイカの言葉を、否定出来ない。
だって、幸せは悩まないことで、
からっぽな俺は、
セイカに愛されるしか――
「ごめんなさい」
フィアは、
「お兄ちゃんのために、逃げようって、言ってるんじゃない」
か細く、だけど、確かに伝わる声で、
「――私の為」
フィアは、
「私の為に、一緒に、逃げて」
俺に、
「一人にしないで、お兄ちゃん」
伝えた。
……ああそっか、フィアは、
寂しがり屋だから、
こんな俺でも、傍にいなきゃ。
そう思って俺は――大きくなったチビの背に乗った。
その途端、チビは翼を広げ、舞い上がり始める。
「あははは! そっか、そっか! ええよ、ええんよ!」
炎の中にいながら、セイカは、
「ちょっと遠回りなるだけやから! その分、アル君はまた悩むことなるけど、大丈夫、うちがまたちゃんとからっぽにしてあげる!」
俺に向かって声を放つ。
「――うちはテンラ様の力を手にしてる」
今は、フィアの為に逃げる俺だけど、
それがどれだけ無駄なことはわかってる、だって、
「だから、アル君は何度でも転生する! 何度死んでもええんよ、そのたんび、必ず見つけるから!」
聖女の愛は、
「――愛してる」
燃えながらも、左目を開く彼女の愛は、
「愛してる、アル君!♡」
【奇跡】に、愛されているのだから。
……ああ、遠くなっていく、
地上のセイカの声も、炎も、……破壊された円卓帝国も。
爆撃機はもう飛んでいない、どのおかげで、何にも遮られていない学園も見えて、
……学園で、帝国で、沢山の時間を過ごした。
その日々は騒がしく、大変な目にも何度もあって、だけどとても楽しくて、
クラスのみんなや、違うクラスの人達、学園の先生や、アンナさんを初めとした平和の守護者、
授業も、冒険も、休み時間にバカをやることも、
――メディと一緒に過ごした時間も
ああ、思い出は沢山あるのに、その全部が、俺がかつて欲しかったものなのに、
どうして、
どうしてもう、
(思い出しても、からっぽなんだろう)
……ああ、そっか、
何もかも失った時、
思い出はただ、辛くなる、重くなる。
悩みになる。
――だったらもう俺の幸せは
悩みこそが幸せの正体、という考え方は。
……空を、見上げた。この夜空には、
花火があがることも無く、
地球が、現実が浮かんでいる。
そして、理解した。
この世界で俺が望んだ幸せは、もうどこにもないんだと。
からっぽな俺にとって、唯一の幸せは、
自分が終わったことを受け入れることだと、
――ハッピーエンドだと解ったから、
俺はもう、悩むことをやめて、
ただ目を瞑り、竜の背で眠った。
空に浮かぶ現実から、目を反らすように。
【】スキル -ランク
スキル解説[ ]
アルズハート
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