11-14 いつしか双星はロッシュ限界へ
――円卓帝国の入り口前の平原
大小違いの親子月が照らす中、
……Fクラスのみんなの希望も、
ライジの命も、
【○○】スキルも、
そして、メディも、
全部、何もかも無くした俺の前に、
存在するのは、
「――あはっ♡」
{奇跡虚無セイントセイカヴォイド}
{支配無来エルフリダロストフューチャー}
{皇帝絶壁エンペリラディペンデンス}
{神龍不死サクラセイリュウアンデッド}
{夢想結界ロマンシアイグノアー}
{紫電偽心メディクメディフェイカー}
{英雄無顔ノーネームノーフェイス}
――スライムの力を取り込んだ存在が居並ぶ
絶望の光景と、
「ええ顔やね、アル君♡」
理解不能の、聖女。
「はぁでも実際しんどかったぁ、もう、ライジ君が余計なことせんかったら、もっと簡単にすんだのに♡」
ライジを――殺したことも、明るく語ることも、
「まぁけど、アル君をちゃんとからっぽにできたからえっか♡」
俺をからっぽにすることへの執着も、
――そして
「アル君、大好き♡」
俺への、愛も。
(――誰かに求められたいと思ってた)
それは前世から、母親に育てられていた頃から。
だけどもしその結果が、今を招いてるなら、
俺は、もう、どうしたらいいかわからない。
――もう何も考えたくない
……ああ、ダメだ、
それだけはダメだ、
幸せの正体は悩みだって、最悪の中の最善を選ぶことだって、
俺がからっぽになったとしても、
――それだけは捨てちゃいけない
「ほな、解散!♡」
――セイカが
唐突に、そう声をあげた途端、
名無しの英雄が、音も無く消えた。
……え?
「……さようなら、セイリュウさん」
「ええ、さよなら」
別れの言葉を交わした途端、エンリ様とリュウセイ様も、あの名無しの英雄のように消えた、これって、
【奇跡】スキルのテレポート?
……えっ、
そんな、
――待って
「私もこれで失礼しますわ」
「おい、貴様は行く当てがあるのか?」
「どこであろうと関係ありませんわ、だって私には――」
「いやいや貴様の妄想なぞ聞きたくない、失せよ失せに失せまくれ」
ロマンシアは、エルフリダ様に、貴族らしく一礼をしてから、消えて、
「俺様達も行くか、メディよ」
「……はい」
そしてメディが、
エルフリダ様と、行こうと、
――二人で寄り添うように
やだ、
嫌だ!
「メディ!」
気づけば俺は叫んでたけど、
メディは、俺に振り返ることもなく、
エルフリダ様と一緒に、
消えた。
「メ、メディ」
あまりにも、あっさりと。
追いかけることも出来ず、ただ、メディがいなくなった光景が、俺の目の前に広がって、
ただ俺は、それをみつめるばかりだったけど、
――それを遮るように
「アールくん♡」
セイカが、俺の前に立ち塞がる。
「やっとふたりきりに――……ああっ♡」
そこでセイカは"まるで初めて気づいたかのように"、仰向けで倒れているフィアに目をやり、
無造作に、蹴った。
蹴られたフィアは後方へ、サッカーボールのように弾んで、また倒れた。
チビがそれを、鳴き声をあげながら追いかける。そんな中で、
セイカがまた、俺に告げる。
「やっとふたりきりになれたね♡」
……ああ、ああ、
あああああ!
ダメだダメだ考えろ考えろ! 悩め、悩め!
ここからどうするか、ここから何を選ぶか!
考えなきゃ! 悩まなきゃ!
幸せは悩むことだ、幸せは!
俺の幸せは!
「なんや色々と考えてみてるみたいやねぇ♡」
セイカは、
「大丈夫、うちがアル君の悩みを全部♡」
そう言って、右手をあげて、
「無くしてあげるんよ♡」
人差し指を夜空に、いや、
空に輝く、この異世界の象徴、
大小並ぶ親子月に目がけて差した。
――その瞬間
「えっ」
月が、二つの月が、
砕けてく――
一切の音や震えも無く、ただ視界に飛び込む異常、だけど、
――その砕けていく二つ月を
飲み込むかのよう、月の後ろに、
姿を現すのは、
「ロッシュ限界♡」
セイカが語る中で、この世界の月が壊れていく、芥となって失われていく、
「おっきな天体が近づくと、ちっちゃな天体が壊れてしまう限界の距離♡」
月を壊していくのは、どこまでも青く、そして、
――懐かしさを覚えてしまうもの
「――テンラちゃんの力でうちは」
――地球が
……地球が、この異世界の空に、
「この世も前世もぶっ壊す♡」
そう言った時には、もうこの異世界の空に、親子の月は無く、
ただ地球が浮かんでいた。
直接見た訳じゃない、スマホの画面の中で何度も浮かんだかつての前世。
見慣れた青い星が、異世界の空に、異物のように、滲むように浮かんでいて。
……なんで、
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで、
なんで、
「アル君を幸せにしたいから♡」
……、
なんで?
「だってアル君は、うち以外のものがあると悩んじゃうやろ?♡ 学園生活とか、人間関係とか、メディちゃんとか、前世とか♡」
……なんで、
「だから異世界も現実も壊すんよ♡ 何もかもからっぽにして、うちとアル君だけで生きていくんよ♡ 大丈夫、【奇跡】を使えば余裕なんよ♡」
なんで、
「とはいえ、流石にいきなりしたら怒られるからぁ、皆に相談して、100年後に全部無くすってことにしたん!♡ その頃なら人間はもう死んでるし♡ エルフの寿命は300年やけど、エルフリダちゃんがOK言うたし♡」
なんで、なんで、なんで、
「ほんまはすぐにでも全部無くしてもええんやけど♡」
なん、で、
「アル君の気持ちも考えたんよ♡ 100年後なら、アル君も別にええやろ♡」
な、んで、
「だからアル君、うちと幸せになろ♡ 100年後はもちろん、今からずっと一緒に、ふたりだけで幸せになろ♡」
――なんで
「アル君♡」
「なんで」
セイカの言葉は、頭に入ってこない。
ただ彼女の、変わらぬ笑顔と、左目の♡、そして、
夜空に浮かぶ地球が、目に入るばかりで、
そんな俺に、セイカは、
「悩むことが幸せな訳ないんよ♡」
――言った
「悩みのない人生が幸せやろ♡」
……ああ、もしそれが、本当なら、
もう何も考えないまま、
セイカを、
彼女を、
聖女の愛を、
――ただ、受け止めればいいのかな
愛されることに、
悩みなんていらない。
そう考えた、いや、
――何も考えなくなった瞬間
ボォウッ! っと、
背を、後頭部を、熱が叩いた。
振り返ればそこには、
――チビが
フィアの頭の上にいつも座っている、小さな赤いドラゴンが、
この世界の、最弱の魔物は、
自分の小さな体を燃やして、そして、
――炎柱をその身より立たせ空へ貫く
静寂の夜を背景に、目に眩しく熱い紅の光、
それがおさまった時、そこには、
「――チビ?」
眼光鋭く、角は鋭利に、牙は逞しく、鱗は逆立ち、
体躯の形は威厳を発し、羽根は刃のように研ぎ澄まされて。
家畜化された柔和な存在ではない、
前世の俺が知る、最強の魔物としてのドラゴンが、
火の粉を纏い、
雄叫びをあげた。
――その背には、薄く目を開いたフィアを横たわらせている
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