11-13 名無しの英雄
「セイカァァァッ!」
円卓帝国の門の外、親子月が照らす平原で、
「アルくぅぅぅぅんっ!♡」
俺の叫びと、セイカの叫びが衝突し、そしてその間は瞬時で埋められて、
――【最強】スキル
初めてメディと出会った時、彼女をスライムから救った力によっての一閃が、
両手を広げたセイカの頭へ振り下ろされる――
けどその刃は、
「せいっ!♡」
セイカの手で挟み込まれる――真剣白刃取り、
「甘いんよ♡ アルく――」
瞬時、俺は刀の柄から手を離し、セイカの懐へ潜り込んで、
彼女の顎を掌底でかち上げた。
「あがっ!?♡」
刀を手から零し、頭上10メートルへ打ち上げられる彼女、だが、
「あぁ、熱いぃ!♡ アル君の熱い気持ちを感じるぅ!♡」
セイカはそうのたまって、弓なりに飛びながら両手に銃を握り、俺へ躊躇いも無く連射した。やってくる弾丸を刀で弾きながら、俺はセイカの着地地点まで距離を詰める。
至近距離から撃ってきた弾丸、それを目測で確認してから身をくるりと回しながら避けて、
そのまま首を狙い斬りかかった刀は、左手の銃で阻止された。
そして右手の銃で俺を撃つ、俺はそれをまたかわし刀を振るう、
空気を揺らす射撃の音、銃と刀がぶつかる衝突音、その間隔はどんどん狭まっていき、俺とセイカのやりとりは、0コンマ以下の領域に突入した。
そんな、死の嵐の中で、
「ああ、まるで、踊ってるみたい♡」
セイカはとても幸せそうに、
「まるでおとぎ話のお姫様なんよ♡ うち、幸せ♡」
そう、微笑んで言うのだから、
「なんでだ!」
俺は全く、理解出来なくて、
「学園をめちゃくちゃにして、みんなをモンスターに襲わせて、エンリ様達にスライムを取り込ませて、メディを俺から奪って! なんで、なんで!」
一度刀を鞘に納めて、
――居合い
「なんでギャンブライジを殺したんだ!」
その刀は、
セイカの首へと吸い込まれる。
「――アル君のことが♡」
けどその刃は、
「好きやから♡」
首を刎ねられず、そのまま止まった。
「……え?」
確かに刀の刃は、セイカの首に当たっているのに、どれだけ押し込んでも斬れることがない。俺は、それでも必死に食い込ませようと、力を刀に込めたけど、
「無駄なんよ♡」
そう言ってセイカは、無造作に刀を素手で掴み――俺の刀を、容易く取り上げ、
「【最強】が、【奇跡】に勝てるはずないんよ♡」
そして、俺の腰に下がっている鞘も、むしり取るように奪い、そのまま鞘へと刀を納めた。
「もう、こんな危ないもん振り回したらあかんよ♡」
そう言って、刀を、俺がメディからもらった刀を、
――返せ
「返せ――」
そう言って手を伸ばした瞬間、
――俺の体が崩れ落ちた
「あっ」
ひ、跪く、力が、入らない。
体から黄金色の輝きが失われて、そして、
【最強】も、【○○】になっていく。
「どうしたん、アル君♡」
膝をつく俺を、セイカは覗き込む。
「【最強】が使えへんようなったん?♡ それなら他のスキルを埋めへんと♡」
そ、そうだ、セイカを倒すため、メディを取り戻すため、ライジの仇を討つため、
【○○】を埋めなきゃ、
埋めなきゃ、
いけないのに、
「……どうして」
どうして、何も浮かばない。
【○○】にあてはめる言葉、俺の力になる言葉、
どうして、何も、
「あはっ♡」
そこでセイカは、懐から何かを取り出して、
俺に見せた。
「ようやっと、わかったかな♡」
――それは写真
……小学生の頃の俺が、笑顔を浮かべている写真
だけどこれは、スライムが、ノーフェイスというメディを襲っていたスライムが、変化したもの。
これは夢だ、俺が勝手に願った幻、思い出、
――存在しないもの
そう思った瞬間、
写真が、
俺の、
笑顔が、
形を崩す、
そして存在しない過去は――俺の笑顔は、
半透明の練体へ、
スライムへ変わった。
「アル君は最初から♡」
そのスライムに引き寄せられるように、
俺の体から――光が、
「【○○】なんよ♡」
光が、飛び出す。
その光は、少女の形に、
«――おにいちゃん»
セイラ様の姿に、なって、
«や、やだ、おにいちゃん、おにいちゃん!»
俺に助けを求めたけれど、
俺の心じゃもう、セイラ様を、引き留められなくて。
«いや、やだよ、こわいよ、、やだ、やだ!»
そのまま、俺の心から引き剥がされていくセイラ様は、俺に必死に手を伸ばして、俺も、その手を掴むように、手を伸ばしたけど、
«ああ、ああああ!»
セイラ様は、そのまま、
スライムへ吸収される。
――ドォウッ! っと
凄まじい音と閃光、そして風圧。
俺の体は弾き飛ばされ、未だ目を開けず横たわるフィアの傍まで転がされた。
痛む体が、やけに軽い、
体の軋みと一緒にうなり声をあげながら、俺は這い蹲ったままに顔をあげれば、そこには、
――俺がいる
……違う、
あれは、俺の形をしてるけど、
――顔が無い
「アル君は、この世界の主人公にならへんでええんよ♡」
そこに立つのは、この世界の女神である、セイントセイカ様を取り込んだ、
俺の形をしながらも淡く輝き、その手に俺が持っていた刀を握って、
目も鼻も口も無しの、本当の意味での無表情で、
「そんな面倒ごと、この子に押しつけて、うちとラブラブしよ♡」
俺を、
見下ろす。
――{英雄無顔ノーネームノーフェイス}
……俺は、顔無しの俺の前で、なんとか立ち上がろうとして、
けどそこまでは出来ず、膝立ちが精一杯で。
……ステータス画面を開き、そして、
――スキルの項目を見る
【】スキル -ランク
スキル解説[ ]
何も、無い、
セイントセイラ様は、俺の心から消えた。
そして、
アルズハート
[ ]
七つ集めろと言われていた、俺が前世で奪われていたというものも、取り戻したはずの、【笑顔】も【賞賛】も【真実】も【未来】も【自由】も、
無くなっていた。
俺の心が、からっぽになっていた。
……俺に残されていたのは、
二つ名だけ、
――〔何も無しのアルテナッシ〕
ああ、その名前は、その二つ名は、
俺は、何も無い俺は、
――からっぽの俺は
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