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11-12 教えてくれなかったもの

 名付きの魔物(ネームドモンスター)、それはこの異世界で、強力なモンスターの頭上に自然と浮かぶ強さのシンボルマーク。〔何も無しのアルテナッシ〕の二つ名とは違い、本来、魔物にしか浮かばないものだ。

 唯一例外があるとすれば、フィアやゴッドフット先輩の時のよう、スライムに乗っ取られた時。

 ……だけどそれが今、円卓帝国を出たばかりの平原で、

 エンペリラ様に――{皇帝絶壁エンペリラディペンデンス}が、

 セイリュウ様に――{神龍不死サクラセイリュウアンデッド}が、

 エルフリダ様に――{支配無来エルフリダロストフューチャー}が、

 そしてセイカに――{奇跡虚無セイントセイカヴォイド}が、

 それぞれ、浮かんでいた


(――なんで)


 な、なんで、皇帝のエンリ様が、大和の姫のセイリュウ様が、エルフの王のエルフリダ様が、スライムに乗っ取られている?

 そ、それにロストフューチャーはゴッドフット先輩の時に俺が倒して、ディペンデンスもエルフリダ様がなんとかして、二匹とも、俺が無害なアイテム化をさせたはず! ロストフフューチャーは成績表に、ディペンデンスは運動靴に!


「な、なんで、みんながスライムに乗っ取られて!」


 俺の叫びに対して、エルフリダ様が、


「戯け」


 まず、そう言った。


「あまり俺様達を舐めるな、何も無しの男よ。俺様達はスライムを、聖女と同じく我が力としている」

「で、でも、スライムは俺がアイテムにして」

「カバンに頼み、お前の家から持ってこさせた」


 ――ヨジゲンカバンさん

 エルフリダ様のお付きの青年メイドで【収納】スキルの使い手、ただ者を納めるだけじゃなくて、離れた距離の物や人も移動出来る。

 確かにあの力を使えば、俺とメディの下宿に潜入することは容易いかもしれない。

 ……だけど、わからない。

 アイテムをスライムに戻して、そしてその力を取り込んで、

 それでセイカに協力した――


「なんでそんなことを!」


 気づけば俺は叫んでいた、この大陸を納める為政者達に。

 エンリ様はおののき、セイリュウ様は身じろぎもせず、セイカ様はただうっとりと俺をみつめて、

 そしてエルフリダ様は、


「戯け、戯け戯け戯け戯け戯け戯け戯け!」


 何度もそう、俺をなじって、


「貴様と同じことをしただけよ! それくらい解らぬか、この戯けオブ戯け!」

「お、同じことって」

「最悪の中の最善を選んだ!」

「っ!」


 それは――ここに来るまでに学んだこと、

 だけどその説明だけじゃ、とても納得出来なくて、


「最善って何を!」


 そう聞き返せば、


「この(聖女)に協力した暁に俺は」


 エルフリダ様は、歯を見せて、


「お前の物を、俺の物にした」


 ――それは

 ……まさか、

 そんな、


「――嘘だ」


 わなわなと震える俺の背後に、


「嘘ではございませんわ、アルテナッシ様」


 声がした。


「ゆえに、私は仕立てましたの、この方を、森王(しんおう)様に相応しいよう、そして」


 振り返れば


「この方の望むように」


 ――そこには


「……申し訳ありません、ご主人様」


 ……"彼女"の隣には、今日、スメルフとデートをしていたはずの、ロマンシアがいた。

 エルフリダ様と同じく、{夢想結界ロマンシアイグノアー}という名付きが頭上に浮かんでいる、

 だけどロマンシアが、かつてフィアを乗っ取ったスライム(イグノアー)を取り込んでいることなんかより、

 俺は、"彼女"を、

 ――メイドといういでたちから

 あまりにも変わってしまった姿と、


「私はもう」


 言葉を前に、

 ただ、震える。


「あなたの従者ではいられない」


 メイドの意匠、フリルやカチューシャ(ホワイトブリム)の要素は残っているけど、身に纏うのはボディスーツ――胸元の部分は開いており、体の形を晒すようにして、扇情で相手を煽るように。いつもの(清楚さ)彼女からは考えられない。まるで、拘束衣。

 その様相に、いつもの暖かな様子は一切無く、

 そして顔もどこまでも無表情で、

 そのまま、彼女は、

 ――あまりにも変わってしまった彼女は

 エルフリダ様の隣まで歩き、そして、

 ――{紫電偽心メディクメディフェイカー}は

 ……メディは、

 彼の腕に、身を寄せた。


(……え?)


 ……メディ、何をしてるの?

 スライムに乗っ取られた、いや、スライムを取り込んだ?

 フェイカーは確か、ゴッドフット先輩を乗っ取ったスライム、

 いやそうじゃなくて、なんで、

 エルフリダ様の隣に――


「ははは、はぁっはっはっは!」


 ――森王の高笑いが響く


「よくやった、ロマンシアとやら! 俺様の女として相応しい服をよくぞ仕立てた!」


 俺様の女?


「……私はただ、お二人の夢を形にしただけですわ」

「そうかそうか! 褒美をくれてやるゆえに楽しみにしとけ!」


 違う、違うよ、メディは俺のメイドで、そして、大切な人で、

 エルフリダ様の物じゃない。

 ねぇ、メディ、

 ――そう言って


「ご主人様、私は、人殺しの道具として育てられました」


 メディ、


「そのことも、ご主人様となら乗り越えられると思ってました、だけど」

「メディ、何を」

「セイカ様から、聞きました」


 ――セイカから


「……正確には、メイド長が聞いたもの、母の最期の言葉です」


 メディの自称の母親は、ある日、満身創痍で帰ってきた。

 寝れば治ると言ってベッドで眠る彼女に、練習中だった回復のスキルを使わずに、いわば見殺しにしたのがメディのトラウマ、

 そんなメディの母親の遺言?

 何を、言った、


「私の母は、メイド長に言いました」


 ――何を


「"よかったぁ"」


 ……え?


「"やはり私の娘だ、人殺しの血を引いた、かわいい娘だ"」


 ……よかったって、


「"娘は、私を、殺してみせた"」


 この、遺言は、


「"予想通り、殺してくれた、私が死んでも、きっといい人殺しになる"」


 ……それって、

 満身創痍でベッドで眠った母親は、

 もしかしたら、メディが回復のスキルを練習してたのを知ってて、

 それを自分に使うはずはないと、考えて、

 ――自分を


「"人は人を殺さなきゃ幸せになれない"」


 殺しの練習台にさせた?

 ――それが娘の幸せだと信じて

 親心で、

 メディを、人殺しに。


「"よかった、本当によかった、私を殺して、人殺しとして完成する、よかった、娘は"」


 ……違う、

 そんなの、幸せじゃない、

 違う、


「"幸せな人殺しになれる"」


 ――違う


「それは違う!」

「違いません!」


 ――メディは俺の叫びを遮るように


「どれだけ否定しようとも、私は人殺しの娘であり、人殺しとして育てられ、そして、自分の意思で母を殺した!」

「メディ、待って、それは」

「いくらメイドとして育てられようと、その仮面の下には、何かを傷つけずにはいられない衝動が、本性が眠ってる!」

「そんなことない、メディは優しい」


 メディが優しいから、俺は生きてこれた。

 メディの優しさが、俺のからっぽの心を満たした。

 それが何よりの証明のはずなのに、


「それは全てメイド長から教わったもの! 私じゃない!」


 メディは、否定した。

 ――涙を流して


「……メ、メディ」


 沈黙が怖くて、それにしたってただ名前を呼ぶことしか出来ない俺に、


「覚えてますか、ご主人様」


 メディは静かに、


「なぜ、復讐(ざまぁ)をしないのかと、あなたに聞いたことを」


 そう、言った。

 そう、確かにそう、出会った頃は俺によく話していた。

 俺を追放した施設に対して、復讐はしないのかって、でも、


「でもそれは――」


 俺が何かを言う前に、


「それが本当の私なのです」


 静かに冷たく、メディは語る。


「ご主人様と違って私は、復讐を、恩讐を、いえもっと直接的に言えば」


 メディは涙を流したままに、


「ムカつく奴をぶっ殺した(殺人衝動)くてたまらない人間なのです」


 そう、言い切った。


「そして、私には殺す力がある、私はきっとこれからは、それを躊躇わないことでしょう」

「ち、違う、メディはそんな人じゃ」

「そんな人なのが、私なのです、ご主人様」

「――違う、違うよメディ、メディは」


 俺がいくら否定しても、


「本当の私は、メイド長(優しさ)に育てられた私でなく、殺し屋(優しさ)に育てられた私なのです」


 メディはそして――またエルフリダ様に身を近づけ、


「私はあなたに相応しくない」


 俺に、


「さようならご主人様――いえ」


 言った。


「アルテナッシ様」


 ……静寂が、満ちる。

 俺はただ、呆然と、エルフリダ様と腕を組み、悲しそうな顔をしているメディを見ている。

 なんで? どうして?

 ――理解が出来ない


「だいじょ~ぶ~?♡」


 ――セイカが


「だいじょぶやろかアル君?♡ 頭の中がパーン(脳が破壊)ってなってない?」


 俺とメディの間を遮るように近づいてきて、


「かわいそうやねぇアル君♡ よし、よしよししてあげるんよ♡」


 俺の頭に手を伸ばしてきて――

 パァンッ! っと、

 俺はその手を払った。


「……お前が」

「ん?♡」

「嘘を吐いたんだ」


 そうだ、そうに違いない。

 メディにあることないことを吹き込んで、彼女を、あんなのにしてしまったんだ。


「ちゃうよぉ、メイドの里に行って、ちゃんとお話を聞いてきたんよぉ♡ こういう時、聖女って立場は便利やねぇ♡ まぁちょっとは【奇跡】をつこうたけど♡」


 違う、そんなことない。

 この女は、俺を手に入れるために、メディに嘘をついた。

 ――助けなきゃ

 あの時みたいに、メディを、

 最初に出会った時のように、彼女を、

 俺の傍に、

 ずっといてれくれた人を――

 あの力で!

 ――瞬間


「あああああああああああああ!」


 俺の体が金色に輝き、凄まじい衝撃が生じて、


「わっ!?」


 その風圧はセイカ様の左目を閉じさせるだけでなく、彼女を軽く吹き飛ばす。

 ――スライムの力を取り込んだ6人の前で俺は

 ゆっくりと、刀を抜いた。


«お、おにいちゃん!»


 ――セイラ様の声がいた


«どうして、どうやってわたしのちから――そのちからを!?»


 ……そんなの、決まってる。

 どうやっても助けたいから、俺の心が何よりも求めたから、

 ――この力をもう一度と


 【最強】スキル SSSランク

 スキル解説[最強、ともかく最強]


「セイカァァァッ!」


 刀を抜き、明確な殺意とともに、名を呼んだ相手へ走る俺に、


「アルくぅぅぅぅんっ!♡」


 左目を開いた彼女は、まるで俺を抱きしめたいみたいに、両手を広げた。

・更新情報

毎朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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