11-9 幻の後に
「フィア!」
ゾンビが一掃された、瓦礫の街道を俺は走る。
なんで、なんで、と、何故自分なんかを助けるんだと、その疑問に囚われて、動かなかった心と体が、
炎の翼を失って、落下するフィアを助ける為に動く。
――なんで
……そう、今の行動にすら、そう思ったけれど、
けれど足は駆け、体は前のめりになり、腕を伸ばして、
フィアの小柄をそうやって、
――どうにか受け止めて
ただ、
「うっ、わっ!」
【キャッチ】スキルを使った時のようにうまくはいかず、フィアを腕に抱えた体は、バランスを失い、そのまま横へと倒れてしまった。
「うぐっ!?」
「ピキャッ!?」
俺の呻き声とともに、頭からこぼれたチビの声も響いた。
右へと倒れたから右腕が、痛む。肩周りに残る鈍さに顔をしかめる。
それでも自分の痛みより、
「フィ、フィア、大丈夫?」
俺は一緒に倒れ込み、すぐ目の前にある彼女の心配をして声をかけた。
次の瞬間、
「――なんでって、思ってもいい」
フィアは、
「どうしてって、いくらでも考えてもいい、だけど」
そう言って、俺の腕を掴んで、
「今は、走ろう、お兄ちゃん」
一緒に、立ち上がる。
「私が、私達が絶対、連れて行くから」
……共に立ち上がった俺だけど、フィアの言葉に、また戸惑う。
だけど、
「走れ、アルテナッシ!」
オージェの声が聞こえて振り向けば、
剣を抜いたオージェと、左足を震えさせながら立ち上がるウマーガァル、そして、
再び地から湧き上がってきたゾンビ達がいて、
「ここは僕達がなんとかする!」
「さ、最後まで運べなくてごめんひひん!」
足を痛めながらも再び白馬へと姿を変えるガァル、その馬の背に飛び乗るオージェ、
次の瞬間、オージェの剣の柄が伸び――長い槍へと変形した。
「無理に走らず立ち回ってくれガァル! 馬上からの攻撃で引きつけながら倒す!」
その言葉にいななく白馬、ゾンビの群れに一人と一頭で立ち向かい始めた。
そして、それを見届けた後に、
「行くよ、お兄ちゃん!」
「ピキャー!」
フィアが俺の手をひっぱり走り出す、炎を出し切って、きっと俺以上にボロボロの体で、
ああ、それでも、
(なんで)
俺の心からは、それが消えない、消えることがない、
ここまでみんなが俺の為に、ライジと同じく命を賭けてくれているのに、感謝をまともに抱けもしない。
だけど、
(――走れ)
ようやっと芽生えたその感情が、
(悩みながら、走れ)
どうにか俺を、前へと進ませる。
そうだ、走れ、自分ひとりじゃ進まないこの足も、みんながいるなら、みんなが、
――みんな
俺はこの時、一瞬、思ってしまった。
(メディは無事なのか)
みんなの中にいつもいた、彼女を。
ああでもそんなことは今、考えている暇はないと、
意識の中から現実へ戻るよう、前を見据えた時、
「――えっ」
そこにいたのは、
「メディ?」
道の真ん中に、彼女が立っていて、
だけどそのメディは――俺達へ一気に距離をつめてきて、
「ち、違う、お兄ちゃん、こいつメディじゃない!」
その顔をみるみると不形へと溶かし、
「ゴーストよ!?」
ただ人の形をした霊となって、メディに手をひっぱられる俺へと飛びかかり、
俺の心と体にとりつこうとした。
「――【暗闇】スキル」
その霊の横っ面を、生身じゃ触れることも出来ぬゴーストの首を、
「〈メイクシャドウマン〉」
真っ黒な大きな手が掴まえて、そのままギリギリと絞め上げる! こ、このスキルは、
「ク、クラァヤミィ!」
この大きな手の持ち主をたどるように振り向けば、そこには、
「――ふへっ」
自分の影を巨大化させて操る、クラァヤミィの姿があった。
「アルテナッシ……チョーコ先生に習ったでしょ……? ゴースト相手に心の隙を見せるなって……」
そう言って、ゴーストを後ろへと投げ捨てる――背後にはうずたかく積み上がったゴーストの山。ス、スキルとはいえ、怨霊をフィジカルで倒してのけてる。
「ご、ごめん」
「あ、ありがとう、ともかく急ぐわ!」
俺が謝ったあと、フィアが俺の手をとって、また走りだそうとした時、
「無駄……」
「え?」
「帝国の門への道、見えてるでしょうけど……あれ、ウィスプの幻……」
「ええ!?」
ま、幻? 今見えているゴールと、その道のりが?
「つっこんで走っても……まるで蜃気楼……永遠に辿り着かない……」
お、俺の世界でのザコモンスターが、この世界では最強クラスなのは解ってたけど、そんなの有り?
――どうすれば
「その幻をぶっ壊す……」
「――え?」
その幻を、ぶっ壊す?
そんなのどうやって、って思った次の瞬間、
「の~じゃのじゃのじゃ!」
――空から聞こえるこの高笑い
「待たせたのうお主ら! 目には目を! 鬼火には鬼火を!」
見上げればそこには、小さな体のオレンジ髪をたなびかせながら、遙か上から落ちてくる少女、
その頭に、狐火で作られた耳が生えれば、次には、
彼女のお尻の部分から、
「出血大サービス大開放! 九本まとめてくらわせてやる!」
【狐火】スキルで作られた尻尾を、言ったとおりの数を生やす、そしてその尾はどんどん膨らんでいって、
――ノジャイナリィは空中でくるりと前にまわって
「【狐火】スキル!」
眼前の道を、偽りの逃避行を、
「〈ケイコクスタンプ〉!」
自分の体の何十倍もの尾で叩いてみせて――
尾に叩かれた街道や入り口は、瓦礫となって飛び散るが、すぐさまそれは光、ウィスプへと代わり、そして消えていく。
凄まじい光景を見て目を見開く俺とフィア、だがやがて、
「よいしょ、のーじゃ、よいしょ、のーじゃ」
っと、また声が聞こえるから見上げたら、フィアが空中に配置した狐火を、まるでボルダリングのように掴んで足場にして、俺達の元へ降りてくるノジャイナリィ。こ、こうやって上空へ移動したのか。
そしてイナリィが、のじゃ! っと、着地した瞬間、ウィスプの光はどんどん晴れていって、
「――あっ」
外への出口が――帝国の開かれた門が、すぐそこにあった。
「も、もうとっくに辿り着いてた訳!?」
っと、フィアが言えば、
「その通り、儂がこの異変に真っ先に気づいたのじゃ! 儂の手柄なのじゃ!」
そう言ってノジャイナリィは、狐火で耳と尻尾を生やしたまま、
「さぁゆくのじゃアルテナッシ! あの門をくぐれば賭けは勝ちじゃ!」
「イ、イナリィ」
「ライジのことで悩んでおるのはわかる、じゃがのう!」
イナリィが、まだ悩む俺を叱咤激励しようとしたその時、
「――ボンバ・リー?」
クラァヤミィの呟きが聞こえ、
それに促されるよう、俺達は彼女の視線の先を追うと、
光が、幻が全て消え去った光景が、あって、そこには、
冷たい現実があった。
「凍ってる」
――ボンバ・リーが
鍛えた肉体と弁髪ごと、氷の塊の中に閉じ込められている。
その異常に、俺達全員が駆け寄ろうとした瞬間、
――冷気が体を襲った
一瞬で、体の熱を奪うような冷たさ、
自分の体が指先から凍りそうになった時、
「お兄ちゃん!」
フィアが俺の体を抱きしめる、熱い、フィアが自分の中の炎を燃やしている、
その温かさに包まれる中で、
周囲が――クラァヤミィがノジャイナリィが、景色が全て凍り付いていく。
その中で、門の前に氷が集まっていく、形づられていく、
それは氷雪の塊で、人の形をして、角を生やして、
――フロスティ
俺の世界では、か弱い魔物であるはずの存在が、
かわいらしい精霊とは真逆のモノとして、
氷の巨人として、門の前に立ちはだかった。
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